第四話 生活魔法を学ぶ2
前回のあらすじ:
食器とその話題を消し飛ばして、人間と魔族と獣人の関係性について話を聞いています。
魔族と獣人は共存していて、別に虐げられているわけではないのか。
「ただ、それなりの力を求められるから、魔族領で暮らしているのは、私達のようなタイプの獣人ではなくて、身体能力の高い獣に姿を変えることのできる人狼や人虎と言われる種族などごくわずかなの」
「それでも力で魔族に匹敵するなんてすごいですね」
僕は率直にそう思った。
名前からしてとても強そうだし、是非見てみたいと思う。
引きこもっているので、もちろん家の窓からしか見られないだろうけど。
「それがいいことなのかはわからないわ。魔族領で暮らしているということは、人間と魔族との争いの際には、敵として戦うことになる。それなのに、魔王軍側で戦っている獣人の強さに対して、私達人間側に暮らしている獣人は戦闘に向くような力はほとんど持っていない。獣に姿を変える力なんて失われているし、獣人の公国にいる各種族公爵家の血筋に少し魔力がある者達がいるだけで、多くは魔法も全く使えないの」
なんと……。
それは確かに立場が悪そう。
「この村みたいに獣人の国に近い東部は、国の外の獣人達と交流もあるから大丈夫だけど、国の西部ではかなり獣人に対して攻撃的な考えを持っている人が多いと聞くわ。それに魔法自体も使えない人間の方が多いの。だから、比較的穏やかなこの村でも、人前では魔法は使わないで生活しているのよ。そうしないと、余計な警戒や妬みを買いかねないからね」
これでようやく母が普段魔法を使わないで生活している理由がわかった。
家の外に出る予定のない僕にとってはそれほど心配しなくてもいいけど、国の西部では気を付けた方がよさそうだ。
ここまで考えて、ふとおかしな点に気付いた。
「あれ、獣人は魔力がなくて魔法を使うことができないって言っていましたが、お母さんは生活魔法を使うことができるんですよね? どうしてですか?」
そう聞くと、一瞬固まった後、やや慌てた様子で話し始めた。
「獣人の中にも稀に魔力を持つ者も生まれるし、私の魔力はとても少ないから、攻撃魔法まで使えるネリクと違って、生活魔法しか使えないのよ」
……たぶん何かを隠している気がする。
まあ、僕も生活魔法が使えるし、魔力を持つ者自体は時々現れるものなのかもしれない。
あ、それは、母が使えるんだから遺伝して当然なのか?
とても気になるけど、人には誰かに言いたくないことの一つや二つあるっていうし、僕自身も前世の記憶があることを話していないから、この話題には触れないようにしておこうと決めた。
「さて、お話ばっかりになっちゃったから、他にも服を綺麗にしたり、掃除をしたりして練習しましょう!」
「はい!」
◆ ◆ ◆
それから僕は家中のお皿や家具、服、部屋に次々と『洗浄』の魔法をかけまくって行った。
生活魔法はコスパがいいのか、なかなか魔力が切れないので、家中がピカピカになるまで続けた。
使っている途中でいくつか欠けたり、消滅させたりしてしまった物があったのは慣れていないし、ご愛嬌ということで許してもらおう。
欠けちゃった物もそういう芸術作品だと思えば使えなくはないはず、……たぶん。
最初笑顔で見守っていた母は、だんだん顔が引きつってきて、今は無表情で後ろから僕が魔法を使う姿を眺めている。
母のお仕事が減るから喜ばれると思ったんだけど、あんまり綺麗にされたくないタイプだったのかな。
それ以来、僕は日常的に生活魔法を使ってお手伝いするようになった。
家の中だけで誰にも見られていないからなのか、母には止められなかった。
ただ外向きの体裁があるのか、綺麗になっているのに時々服を水で洗濯して外に干していた。
こうしてたくさん使ってみて改めて思ったのだが、生活魔法は必要な魔力が少なくて負担が小さいし、『洗浄』という一つの魔法だけで、使う対象によって少しコツがいるが、身の回りの清潔に関わるほぼ全ての作業を代替させることができる。
ある程度、『洗浄』の魔法を練習して、安定して使えるようになると、物をしまっておける『収納』という魔法や、料理をする時に火起こしを助けてくれる『着火』という魔法などいくつか教えてもらって、それぞれ練習した。
前回『洗浄』の魔法の練習でかなり尖った芸術品をいくつか誕生させてしまったことを教訓にして、今回は片っ端から使うのではなく母が使う必要がある時に代わりに僕が使って手伝うというスタンスをとった。
そのため慣れるのに時間はかかってしまったが、安定して使用することができるようになった。
生活魔法を学ぶだけなのに、世界観に関する話が乱入してしまいました。
生活魔法についてはここまでで、次回から別の話題に入っていきます。