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第三話 生活魔法を学ぶ1





 前回のあらすじ:

 快適な引きこもり生活をするために生活魔法を学ぶことになりました。









 父は森に狩りに行っていて、お昼は森で食べているらしく、食卓にはいなかった。

 ご飯を食べ終えると、母はいつものように食器を片付けるのではなく、そのままの状態で座っていた。


「どうしたの、母さん。生活魔法を教えてくれるのではないんですか?」

「ええ、教えてあげるわよ。そのために、この食器を使うのよ」


 どうやら食事をした後の食器で生活魔法を教えてくれるらしい。


「今、この食器は汚れているわね?」

「はい、ご飯を食べたばかりだから、食べ物の汚れが付いています」

「生活魔法にもいろいろあるんだけど、一番身近なのは洗濯や掃除、食器洗いに使われるものかしら。今から食器を綺麗にできる魔法を教えるわね」


 そう言って、母は食器に向かって手の平を向けた。


「『洗浄(クリーニング)』」


 母がそう唱えると、食器に付いていた汚れがなくなった。


「あ、消えた!」

「そうよ、こうして汚れを消すことができるの」


 思わず声を出してしまった僕に母は優しく教えてくれる。

 どうやって食器と汚れを区別しているのかなど気になる点はいろいろあるが、今は好奇心の方が(まさ)った。


「僕もやってみていいですか?」

「いいわよ。ただ、生活魔法にしても、他の魔法にしても使える人とそうでない人がいて――」


 とにかくやってみたくてしょうがなくなった僕は、詳しく説明してくれている母の言葉を聞かずに目の前のお皿に向かって呪文を唱えた。


「『洗浄(クリーニング)!』」


 すると、何かが体から抜けていくような感覚と共に魔法が発動した。

 そして消えた。

 目的だった汚れは消えてなくなった。

 そして、食器(・・)も見事に消えてなくなった。


「「……」」


 しばらく沈黙が続いた後、おもむろに母が口を開いた。


「まあ、魔法を使うことができてよかったわ。今は魔法発動の対象指定をきちんとしなかったから食器ごと消えてしまったのよ」

「対象指定……?」

「そう、魔法を発動する時に魔力を使う感覚は今のでなんとなく感じられたと思うわ。その魔力が動き出す前に、きちんと使う対象を意識しなければならないの」


 なるほど……。

 さっき使った時は汚れているお皿全体を意識した状態で魔法を使ってしまったので全部消えてしまったようだ。

 そう考えると、生活魔法って結構危なくない?


「生活魔法って危険なものなんだね……」


 そうこぼすと、母は少し驚いた後、うれしそうに笑った。


「コリンは賢いのね、まだ子どもなのにそのことに気付けて。確かに生活魔法も、それ以外の魔法もすべて使い方次第ではとても危険なものよ。だからこそ使う時には十分に注意する必要があるの」


 魔法という力は危険なものなのか……。

 ファンタジー世界はテーマパークみたいに安全なものではないらしい。

 でも、そんな危険なものをいきなり子どもに教えるのってどうなんだろう。

 まあ教えてほしいってお願いしたのは僕なんだけど。


「……じゃあ、どうしてまだ子どもの僕に教えてくれたんですか?」


 母は少し悩んで答えてくれた。


「どうしてかしらね。いつかは教えていかなければいけない物だからかしら。あと可愛いコリンなら絶対に大丈夫という気がしたのもあるわね」

「えぇ……」


 この母は大丈夫だろうか。

 親ばかのような発言が飛び出してしまっている。

 いや、きっと先に言っていたいずれは教えていかなければいけないという意思の元で教えてくれたと認識しておこう。

 どうみても後半の理由の方が本心だった気がするけど。


 しかし、ここで疑問が湧いた。

 引きこもっている中で僕は家の中の様子をいろいろと調べて回っていた。

 その中で普段の家族の様子も見ていたが、前世の僕の世界と同じように母は食器を水を使って手洗いしていた。

 それもあって、僕はすっかり母が生活魔法を使うことができるのを忘れていた。決して記憶力が悪いわけではないのだ、たぶん。

 これはコリンの記憶でも同じだったので、最近魔法の調子がよくないということではないはずだ。


「せっかくこんな便利な魔法が使えるのに、母さんはどうしていつも食器を普通に洗っているのですか?」


 そう聞くと、母は黙ってしまった。

 しばらく悩んだような素振りを見せ、口を開いた。


「コリンは鋭いわね……。私が子どもの時にはこんなに見ていなかった気がするのに」


 あ、それは僕が異常なだけだと思います。

 なんだか、急に申し訳なくなった。

 どうもあまり子どもに話したくないような理由があるらしいことはわかった。


「いつかはあなたにも話さなければいけないことですものね。ちょっと難しいことになると思うけど大丈夫?」

「大丈夫です」


 そう答えると、母は話し始めた。


「この世界にはいろいろな種族が住んでいるという話は以前にもしたわよね?」

「はい、勇者物語に載っていたので、本当なのか教えてもらいました」


 以前、この世界のことを調べるために家の中を漁っていた時に、見つけたうちの一冊が勇者物語で、そのお話の中で複数の種族が出てきて、真実なのかどうかを聞いたことがあった。


「そういえば、そうだったわね。人間と魔族の二つの種族は一番人口が多くて、昔から対立しているの」


 人間と魔族が敵対しているのは大体のファンタジー世界と同じのようだ。


「魔族が住んでいるのはこの大陸の北半分の寒冷な地域で、大河の支流の数も少なく土地がやせているのよ。それに対して人間の住んでいる地域は大陸の南半分の温暖な地域で、大河の支流も多く流れている肥沃な土地で、南部には海に面している港町もたくさんあるわ」


 どうしてそんな(いびつ)な土地の分け方をしているんだろう……。

 それでは、争いになって当然だ。

 南北ではなく、東西で分かれていればよかったのに。


「どうして人間と魔族はそんな不平等な土地の分かれ方をしているのですか?」

「え? 不平等? ……そんな風に考えたことはなかったわね」


 まあ、世界の状態に対してどうして今そんな形をしているのかとか、どうして生物種がそんなエリアに住んでいるのか、なんていう考え方をするのは、学問が発達している前世の世界ぐらいにならないと出てこない発想なのかもしれない。


「話を遮ってしまってごめんなさい。続きをお願いします」

「ええ、そうね、どこまで話したかしら?」

「人間と魔族の住んでいる地域が違っているというところまでです」

「そうだったわね」


 そう言えば、どうして普段生活魔法を使わないことと、人間と魔族の対立の話が関係しているんだろう?

 ふとそう思ったが、母の説明が始まったのでそちらに意識を向ける。


「そんな理由もあって、昔から人間と魔族は争い続けてきた。そこで、私たち獣人が関係してくるんだけど、獣人の勢力は三つに分かれているの。一つ目は今の私達みたいに人間の国で人に混ざって生活している。二つ目は人間と魔族の境界に近いエリアの中立地帯に公国を築いて生活している。そして、三つ目は魔族領で魔族達に混じって生活しているのよ」


 え、獣人って普通人間の国だけとか、獣人だけの国だけで生活しているものなんじゃないの?

 この世界では魔族とも一緒になって生活しているらしい。

 でも、前世での多くのファンタジー世界でも、この世界の勇者物語でも魔族とは力が全ての野蛮な者達で、とても共存できるような相手じゃないとされているけどどうやって一緒に生活しているのだろう?


「獣人が魔族と一緒に生活しているんですね。それは、魔族によって虐げられているからなのですか?」


 僕がそう尋ねると母は首を振って、答えた。


「いいえ、同じように暮らしていると聞いているわ。魔族達は確かに力で上下を決めようとする者が多いけれど、それなりに力を示せば対等に接することができるの。物語に出てくるほど野蛮な者達ではないのよ」









 生活魔法を学ぶはずがどうしてこんなことに……。

 すみません、だいぶ長くなってしまいそうなので、区切りが悪いですが二話に分けます。






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