第一話 ここはどこ?
一部数字の表記と後書きの一部を修正しました。(2022/04/11)
最初の投稿ですので、三話分を今日中に出します。(2/3)
“悩み、傷つき、疲れ、一歩を踏み出せなくなってしまった時、寄り添ってくれたのはソラだった”
(コリンの日記より一部抜粋)
目が覚めると、再び宙を彷徨っていることもなく、ベッドに寝かされていた。
布団はそれほど悪いわけではないけれど、なんだか硬くてごわごわするように感じる。
日の光が優しく差し込む部屋は木でできているようで、天井にも壁紙が貼られておらず、まるで昔の木造家屋のような印象を受けた。
「ここはどこ?」
妙に高く感じる声で呟きながら、違和感のある体を布団から起こした。
「コリン! よかった、目が覚めたのね」
傍に座っていた女性が抱き着いてきた。
想定していなかった事象に一瞬唖然とする。
「あれ……?」
今抱き着かれている状態だと、僕の頭は完全に女性の胸に隠れてしまっている。
僕もそれなりに身長はあったはずだし、いくらなんでもこんなに体格差ができるなんてことが……。
――いや、できる。
まるで長らく忘れていたことを思い出すような感覚がした。
今僕は十歳の子どもなんだ。
「母さん……?」
母親を呼ぶ声はぎこちなく語尾が上がり、質問のようになってしまった。
「どうしたの、コリン。まだ、痛いところがあるの?」
今の僕の母親であるキャロラインは心配そうに僕の顔を覗き込んだ。
長い茶髪に同じ色の瞳を持っていて、実際には三十代なのに、まだ二十代に見えるきれいな女性で、頭に猫耳がついていた。
僕の記憶によると、彼女は獣人と言われる種族らしい。
そんな風に僕が考え事をしていると、彼女は僕のおでこに手を当て始めた。
あ、そう言えば、衝撃的事実の連続に返事をするのを忘れていた。
「大丈夫です。どこも痛いところはありません」
「そう、よかった」
彼女はとても安心したようにそう言った。
「俺が回復魔法をかけたんだから大丈夫だって言っただろ。キャロルは心配し過ぎだよ」
そう言ったのは、今の僕の父親のコーネリアスだ。
金髪に青色の瞳を持ち、こちらも同じ年齢でキャロルよりは少し年相応な雰囲気がある。
彼は獣人ではなく普通の人間のようだ。
「もう、そんなこと言って。私はあれほど止めたのに無理やり森に連れて行って、挙句にコリンが猪に跳ね飛ばされて。もし死んでいたらどうするつもりだったの⁉」
「いや、しかし、生きていくためには森で狩りをしていく必要があるし、学ぶのは早いに越したことはないだろ」
「早すぎるのよ! この子はまだ十歳なのよ。まずは家のこととか、畑のことを学んでいけばいいじゃない!」
何やら言い争いが始まってしまった。
正直僕としてもこの年でいきなり狩りというのは少々無理がある気がする……。
もしかしたらこの世界は小さい頃からワイルドなことをしなければ生きていけないのかもしれない。
そんな風に僕が考えているうちにも言い争いはヒートアップしてきていた。
このままいくと、記憶が戻っていきなり修羅場になってしまう。
なんとか止めなくては……。
「あの、母さん? 僕、お腹が空いたのですが……」
「あら、そうね。家を出発してからかなり時間が経つものね。食べやすい物を用意してくるわ」
そう言って、彼女は部屋を出て行った。
母の呼び方が慣れなくて語尾が上がってしまったが、不自然に捉えられることなく、喧嘩も止めることができたようだ。
「やれやれ、相変わらずキャロルは怒ると怖いな」
そう思うなら、もう怒らせるようなことをしないで欲しい。
具体的には、小学生ぐらいの子どもを狩りに連れ出して、猪に轢かせるようなこととか。
「今日はすまなかったな、あんな目に合わせてしまって。本当は見学だけのつもりだったんだが、まさかお前のいるところに猪が突っ込んでくるとは……」
「大丈夫です。あれはしょうがないと思います」
「そうか、そう言ってくれると助かる。今度行く時はもっと気を付けるから安心しろ」
僕はまた森に連れていかれるのか……。
というか、提案じゃなくて、確定みたいな言い方だった。
「じゃあ、ゆっくり休め」
そう言って父は部屋を出て行った。
ようやく一人になれた僕は状況を整理し始めた。
このコリンの体の記憶によると、どう考えても日本や世界のどこかの国ではなさそうだ。
そもそも僕が知っている世界に獣人はいなかったはずだ。
僕も世界中を見て回ったわけではないけど、もしいたら一部のそういうファンの人達がもっと騒いでいたと思う。
つまり今はいわゆる異世界と言われるところにいるらしい。
この家は木造で、家具なども木製品に見える。
先ほど父が回復魔法と言っていたのでファンタジーによくある魔法が存在するらしい。
今の体の記憶にも、母親が日常生活で簡単な魔法らしき物を使っている姿が残っていた。
僕自身はいわゆる転生をしてコリンという名前の子どもに生まれ変わったようだ。
前世での僕は近藤凛輝という名前だったので、偶然なのか前世の名前の一部を取ったような名前になっている。
そして、前世での記憶とコリンとしての記憶の両方を見ることができ、母が獣人という事実も確定しているこの状況で、もはや間違いのないことを確認するために僕は頭の上に手を伸ばした。
果たしてそこにはあった。
そう猫耳が……。
どうやら僕は人間である父ではなく、猫系の獣人である母の形質を引き継いで生まれたらしい。
そこまで考えたところで廊下の方から誰かが歩いてくる音を、耳が捉えた。
ここから先はご飯を食べながら今後の方針などを考えていくことにしよう。
腹が減ってはなんとやらっていうからね。
みなさんは辛いときに寄り添ってくれるとしたらどんな動物がいいですか?
ちなみに、まだしばらく主人公に寄り添ってくれる動物は現れません。
主人公を跳ね飛ばしてくれる動物ならもう登場しましたが……。
(補足)
母キャロラインはキャロル、父コーネリアスはネリクという愛称でそれぞれいつも呼ばれています。