第十六話 魔法を教える
前回のあらすじ:
ゴブリン族と悪魔族のトップが悪巧みをしました。
シーナに魔法を教えることになった僕は、魔法を練習する仲間ができてちょっと嬉しかった。
まず、魔法体系について軽く説明する。
ただ、内容は魔法書に書かれていたものに、父や母から教わったことを付け加えて要約したものにした。
「まあ、難しいことばかり言っていてもどうしようもないし、実際にやってみよう!」
「え? いきなり魔法って使えるの?」
「うーん、魔法を使えるかは魔力があるか、ないかだから、実際にやってみないとわからないな」
「そうなんだ……」
シーナは少し不安そうに俯いた。
こればっかりはどうなるか運みたいなところがあるからしょうがない。
「じゃあ、まず手を突き出して、手のひらをあっちに向けて」
そう言いながら、僕はシーナの手をとり、腕を人のいない方向に向けた。
「次に僕が今から言う通りに呪文を復唱して」
「うん、わかった」
シーナが返事をしたのを確認すると僕は呪文を唱えた。
初めは彼女が綺麗だと言っていた初級の水魔法だ
「『水球』」
「『水球』」
僕が詠唱した後に少し遅れてシーナも詠唱する。
すると二人の手のひらの先に水の玉ができた。
成功だ。
「できた!」
「やったね、シーナ!」
そう僕が言ったところで、シーナの手のひらにできていた水球が草原の向こうに飛んで行った。
僕の方は父の助言と練習の賜物でその場にとどまっている。
「ああ、飛んで行っちゃった……。ねえ、どうしてコリンの水球はそのままなの?」
「これはコツがあるんだ。そもそも普通の魔法は生成と発射がワンセットになっているから、まず分離することを意識した方がいい」
「難しそうだね……」
「まあ、ちょっと複雑だからね。まずは初級魔法をいろいろ試して適性を確認してみよう」
そうして二人で初級魔法を一つずつ確認していった。
するとシーナは火・水・土の三属性の適性があることがわかった。
これはかなりすごいことではないだろうか?
それにシーナは三つの魔法を使っても辛そうではなかった。
たぶん魔力もそれなりに持っている。
「すごいよ、シーナ。三属性も使えるなんて!」
でも、シーナは少し浮かない顔をしていた。
「どうしたの?」
「……コリンは五属性使えるんだね」
「……」
たしかに、僕はシーナの使える火・水・土に加えて、光と風を入れた五属性を使える。そして父も。
でも多分これはうちの家が異常なだけな気がする。
他に魔法を使える人を知っているわけではないのでわからないけど。
「普通の人はそもそも魔力を持っていなくて、魔法を使うことすらできないんだよ。だからシーナは十分すごいよ!」
「そうなんだ、ありがとう。もっと練習しないとだね」
「うん、一緒に練習しよう」
そうしてその日から二人の魔法の練習が始まった。
次の日には家に置いてくるようになっていた魔法書を持って来てシーナにも読んでもらった。
文字の勉強にもなるし一石二鳥だ。
「この文字はなんて読むの?」
「これは土壁と読むんだよ」
「何をイメージすればいいの?」
僕は草原の地面を少し掘って土を右手に掴んで、左手で村の方を指し示しながら続ける。
「えっと、これは村を囲んでいる石垣のような形の土をイメージすればいいんだよ」
「……わかった、やってみる」
そう言って、彼女は手のひらを突き出して呪文を唱えた。
「『土壁!』」
すると、二人の目の前に巨大な土壁が出現した。
「すごい! もう中級魔法が使えるようになったんだね」
「うん! まだ土属性だけだけど、他のも練習してできるようになりたい」
そう言って、彼女はまた魔法書に向き合い始めた。
正直かなり上達が早くて驚いた。
この調子なら適性のある属性の中級魔法を使いこなせるようになる日も近いかもしれない。
それに魔法の上達に合わせて、彼女が笑顔になることも増えて行った。
最近では自分から僕の家に呼びに来ることもあるほどだ。
自信がついて不安な気持ちがなくなって来たんだろうと思う。
引きこもり仲間としてはこれほど嬉しいことはない。
ともに引きこもりを脱却できたのだ。
しかし、魔法が上達してきたということはあの問題に直面することになる。
これからは上級魔法の練習ができるように新しい場所を探さなくてはいけない。
僕は目の前に聳え立つ彼女の作った土壁を見上げながら思案に暮れた。
◆ ◆ ◆
彼女が火・水・土の中級魔法が使えるようになってから、上級魔法については練習場所未定のため一旦保留として、その代わり実践訓練と食料調達も兼ねて森に一緒に狩りに行くようになった。
最初、森に入ってしばらく行ったところで、いきなり狼のソラを出してしまい、パニックになった彼女に説明しなければならず少し大変だったけど、その後はソラとも打ち解けたようで仲良く狩りをしている。
ソラに任せていると、僕達が倒す前に獲物を探し出し、追い回して捕まえてしまい、全然僕達の練習にならない。
そのため一日に最低限捕まえなければいけない量が捕れたら、その後は僕達が魔法や剣でソラに頼らずに捕まえたり倒したりするようになった。
シーナさんが引きこもりを脱却しました。