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第十四話 御前会議





 前回のあらすじ:

 主人公がボッチを脱却しました。









 魔族領の北方に位置する魔王城。

 その一室では現在大勢が参加する会議が開かれていた。

 一般に御前会議と呼ばれているこの会議では、魔王陛下の御前で魔族領の有力な各種族長が集い魔族の国の方針を話し合う。


 今日の会議の空気は張り詰めていた。


「このままではもう持たない。すでに大勢が飢えている。早急に対策を講じてもらいたい」


 オーク族の族長がそう発言した。


「それは俺らとて同じ、一日も早い支援が必要だ」


 ゴブリン族の族長が続く。


「しかし、現状ではどうしようもあるまい、どこも余裕がないのだ……」


 ミノタウロス族の族長が(うめ)くように言った。


 魔族領では今大規模な飢饉が発生していた。

 度重なる風水害や冷害の影響で、作物の収穫量がかつてないほど減った。

 その結果魔族領全体で食料不足に(おちい)っていた。


 真っ先に困窮したのは、繁殖力が旺盛で人数の多いゴブリン族やオーク族達だ。

 すでにかなりの餓死者が出ている地域もあった。


 なんとか支援をしようにも、もともと大陸の北に位置していて寒冷な環境で、さらに土地が()せている魔族領では、平時から収穫量がそれほど多くなく備蓄が少なかったため、どこにも供給できる食料が残っていなかった。


「やはり戦争を仕掛けるしかないでしょう。人間の支配している肥沃(ひよく)な土地を手に入れるのです。その食料を融通しあえば魔族領の食料事情は大幅に改善することでしょう」


 悪魔族の族長が優し気な口調で戦争を提案する。


「もうそれしか道は残されておらんだろ。今動かなければおらたちは全滅だ」


 トロール族の族長も賛同する。

 会議に参加している他の有力種族長達も賛成する者が多かった。

 表向き賛成していない者達でも心の中ではもうどうしようもないと考えているようだ。



 魔王は自身の力の無さを嘆いていた。

 彼は魔族らしく自分の力で他の候補を打ち倒し魔王に就任した。

 しかし、魔族領内の有力種族全体の力が近年拮抗してきていて、突出して強い者が久しく現れなくなっていた。


 そのため、彼はたしかに現在魔族領で最強であるが、個の強さとしてはそれほど飛びぬけているわけではなく、陰では歴代最弱の魔王と噂されていた。

 それに合わせて魔王の権威も落ち、魔王の力が絶大だったころの御前会議は魔王が主導していたが、現在では各種族長達が進めて、魔王はそれに承認を与えるだけという形式上の立場にまで落ちていた。


 実際に今、開戦するかどうかについて議論しているが、そこに魔王は一言も挟むことができていなかった。


 戦争なんてダメだ、何も生み出さない。いや、むしろ失わせる。

 こんな飢饉の状況で戦争なんてしたら、軍を動かすために大量の糧食が必要になって食料不足がますます悪化するのが目に見えている。

 魔王は内心でそう愚痴った。


 会議の進行を務めている人狼族の族長が声を上げる。


「――では、開戦するということでよろしいですか?」


 種族長達が反論しないのを確認する一拍をおいて、再び人狼が話す。


「それではか――「待て!」」


 会議室に今日初めて発言する者の声が響き渡った。

 全員が会議室奥の玉座に顔を向ける。


「陛下、いかがされましたか?」


 人狼族の族長がやや姿勢を低くしてそう問いかけた。


「戦争はいかん、それだけは承認できん。食料不足もよりひどくなるだろう」

「ではどうするとおっしゃるのですか?」


 魔王の言葉にやや苛ついた様子の悪魔族が問いかける。


「……わからん、今はまだ思いついておらん。だが、戦争だけはだめだ」


 魔王の固い決意を感じさせる言葉に、会議室のメンバーは黙り込む。


「正直私も戦争には反対です。200年前人間の国に戦争を仕掛けた時にどうなったかみなさんはお忘れですか? 追い詰められた時、彼らは異界から勇者を召喚し、それによって侵攻していた魔王軍は壊滅。歴代最強と言われていた当時の魔王も撃ち滅ぼされました」


 これまで会議の進行に専念していた人狼族の族長がメンバーを見渡しながらそう話した。

 会議室に重い空気が流れる。


「忘れん、その事実だけは」


 しばらくしてミノタウロス族の族長がそう答えた。

 会議室の空気は戦争を避ける方向に流れたかに見えた。


「ですが、各種族の中にはこの飢饉に不満を募らせている者も多いはず。せっかく御前会議を開いたというのに、ただ耐えるしかないという結論では、納得できない者もおりましょう。ゴブリン族にもかなり血気盛んになっている者達が暴動を起こしていると耳にしました」


 悪魔族の族長がそう発言する。

 ゴブリン族の族長は嫌な話題に触れられたことで露骨に顔をしかめる。

 他の種族も心当たりがないわけではないようで、みな俯いてしまった。


 その様子を見て満足そうに笑みを浮かべ、悪魔族の族長は続ける。


「民衆のガス抜きと対応までの時間稼ぎも兼ねて常備軍の一部だけでも国境へ移動させてはいかがでしょうか? どうせ常備軍はもともと食料を消費するわけですし、新たに集めるよりかは、はるかに負担も軽くなるかと思いますが」


 この提案はここまで出た意見の間を取っていて、各種族にとっても妥協点と言えるものだった。

 メンバー達はみな賛成しているようで、中には積極的に(うなず)いている者もいる。


「陛下、いかがですか?」


 人狼族の族長が魔王に問いかける。


「……それならば、よい。そのようにせよ」


 その一言で方針は決した。


 それから魔王は各種族がどの常備軍を動かすのかを相談している様子をただ眺めていた。









 少し主人公から離れて魔族領のお話を入れてみました。

 もう一話だけ魔族領のお話が入ります。





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