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閑話 村人Aの警戒





 このお話は閑話になります。

 読まなくても物語の流れに影響はありません。









 麦畑の中で雑草を取り除きながら、黄色っぽい虫などが付着していねえか、生育状況は良いかどうか確認しながら進んでいく。


 この黄色い虫は麦にくっついて育ちを悪くしちまったり、ベタベタした排出物を出してカビをはやして麦を病気にしちまったりする厄介者だ。

 雑草を取り除きながら定期的に確認しておかねえと、繁殖して大変なことになる。


 ある程度すればこの虫を食べる別の虫が集まってくるので、そこまで深刻なわけではねえが、その虫が集まってくるまでの間は、直接見て回って、黄色い虫が付いていたら水などで弾き落していかなきゃならなねえ。

 そのために今もこうして見て回っているところだった。



 俺は辺境と言われるこの村で生まれてかれこれ四十年以上住んでいる。

 年齢などは聞かれることも、気になることもないのでしっかりとは覚えちゃいねえ。

 ただこうして小麦を育てて生活しているだけで幸せだった。

 欲を言えば、もう少し酒と肉が手に入ればありがてえとは思っている。


 昔は魔王軍とかいうやつらが人間の領土に攻めてきて、この辺りも大変なことになったそうだが、かなり長いことそんなやつらは現れてねえ。

 だからこの村は平和そのもので、これまで変なことは起きなかった。

 あの夫婦がやって来るまでは。



 まだ俺の親父が生きていた頃、この村に人間と獣人の変な夫婦がやって来た。

 当時はこんな辺境の村に一体どうしたものかと村中で話題になったものだ。

 まあ、その夫婦が美男美女の組み合わせだったってのも話題になった理由の一つかもしれねえ。

 まったく(ねた)ましい。


 最初は大したものも持っていなくて色々大変だったみてえだが、村の人間もそんなに薄情じゃねえ。

 これまでみんなで協力してやってきたんだ。

 新たな仲間を見捨てるなんてことはしねえで、物を貸したり、農業の仕方を教えたりといろいろ支援した。


 あいつらは随分と必死な様子で、教えたことをどんどん吸収していって、あっという間に村に馴染んじまった。

 それに男の方はかなり腕が立つみてえで、狩りが上手くて、村に貴重な肉を供給してくれるようになったもんで、余計に村のみんなは歓迎した。


 だが、俺には獣人の女の方が気に入らなかった。

 たしかに、綺麗なやつだったが、どことなく姫様然としていて、なんとなくいいところで育ったのがにじみ出ているようだった。

 そんな風に楽をして生きてきた人間はあんまり好きになれねえ。


 それに、獣人なんだぞ。

 今でこそ平和になったんでみんな忘れちまってるが、昔攻めてきた魔王軍の中には強い獣人がたくさんいて、大勢の犠牲者が出たと聞いたことがある。

 俺の家の何代も前の先祖にはその獣人に殺されたやつもいるって話だ。

 本当に信用していいのか?


 そいつらはこの村に来て少ししてから子どもができたみてえだった。

 俺は会いに行ってねえからわからねえけど、噂だと母親によく似た獣人の姿をしているらしい。

 村の中には可愛いって言ってるやつもいたが、俺にはいつその獣人が暴れ出すか不安でしょうがなかった。



 それから十年の間、俺の心配をよそにその子どもは普通に育っていったらしい。

 もしかしたら俺の杞憂(きゆう)だったのか、そう思っていた時だった。

 その子どもを見かけなくなったって言うじゃねえか。


 それで村のやつが心配して父親の方に尋ねると、別に病気とかでもなくて、ただ家に引きこもっているだけらしい。

 だから獣人は訳が分からねえんだ。

 子どもなのに家にこもりっきりだなんて不気味でしょうがなかった。


 それが話題になってしばらくして、他の家にも似たようにこもり気味になっちまっている子がいるっていう話が出てきた。

 どうもそっちは病気がちで家にいるらしいとか言ってたが、実際のところはよくわからねえ。

 俺はあの獣人がこれまで静かにしていたが、いよいよおかしなことを始めたんじゃねえかって疑い始めた。


 そうしてしばらくしたら、あの父親と獣人の子どもが連れ立って肉をわけにきた。

 俺はお返しに、畑で取れた野菜を渡した。

 あいつらが持ってきたのは、しっかりと脂の乗ったいい猪肉で、その日の晩飯はとんでもなく豪華になった。

 今思い出してもよだれが出てくる。


 おっと、そんな話じゃねえ。

 あいつらの話では、その猪は子どもが捕ったって言うんだ。

 意味が分からなかった。


 だって、今まで家に引きこもっていたやつがなんで急に森に狩りに行って、猪を捕ることができるんだ?

 狩りってのは、村にいるベテランの猟師だってなかなか成功しねえって聞いたことがある。

 そんなただでさえ難しい狩りで、猪なんて大物を十歳ぐらいのガキが捕まえたなんて普通じゃねえ。


 やっぱり、あの子どもは不気味だ。

 もしかしたら狂暴な獣人の性質が現れるようになったんじゃねえかと思った。

 そのうち村を血の海に沈めるんじゃねえかって。



 だが、しばらくしてもそんなことは起きなかった。

 俺もいつも通り小麦の世話をしているんだから伝わるだろうが。

 それに、あの子どもはかなり頻繁に森に入るようになったらしい。


 最近では、ほとんど毎週のように狩りで獲物を捕まえて、村のみんなに供給してくれている。

 おかげで村では肉が贅沢品から普段の食事の材料という印象まで変化してきていた。

 村のみんなも狩りの名手が生まれたと言って喜んでいた。

 やたら猪を狩ってくるので、何か猪に恨みでもあるんじゃねえかなんて噂されていたが。


 だが、俺は騙されねえ。

 そんなに森で生き物を狩りまくって暴れているというのは、もはや狂暴という言葉では言い表せねえ何かなんじゃねえのか?

 やっぱり獣人は危険なやつらなんだ。

 一体この村で何を企んでいるのやら。


 俺はそんな風に考えながら畑仕事に区切りをつけて家に帰る準備を始める。

 今日はその子どもが持って来てくれた猪肉を使った鍋だ。

 その肉も脂がよく乗っていたので、きっと美味(うま)いだろう。

 おっと、よだれが出てきた。


 とにかく俺はこれからもあいつらを警戒していこうと心に決めた。









 ツンデレおじさん……?(困惑)





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