第十三話 出会い
前回のあらすじ:
村で肉祭りを開催しました。(誇張表現)
初めての狩りからもしばらく経った頃。
僕は相変わらず魔法と剣の練習を続けていた。
ただ、場所は村の周りに広がっている草原になった。
ソラと出会って、そして森での狩りも経験して外の世界がそれほど怖くなくなったからだ。
まあ、いつも影の中にソラが一緒にいてくれているからそんな風に感じられるのかもしれない。
今も時々森に狩りに行っている。
最近では父に付いてきてもらわずに狩りをすることも多くなってきていた。
父がいなくてもソラのおかげで必ずなにかしら獲物を捕まえることができるし、あまり父に頼りすぎると僕の練習にならないからだ。
定期的な狩りで確実にお肉が出回るようになったので、村の人達もだいぶ食事が豪華になったと喜んでくれた。
僕からすれば今まで運任せなお肉の供給でよく生活していたと思う。
今はほとんど日課になっている魔法の練習のために森と反対にある草原に向かっていた。
僕の家は村の森に面しているすぐそばにあるので、練習場所の草原に行くには村を横断して行かなければならない。
狩りで肉を配れるようになる前は、それまで引きこもっていたこともあって、「引きこもりの獣人が遊び歩いている」とか、「獣人が一体何をしているのか」といったことを陰で囁かれることもあった。
しかし、最近はそういった差別的な目では見られなくなった。
それと練習場所として草原を使っているのは父から教えてもらったというのもあるが、他の村や街に続いている街道から外れると人が来なくて、安心して練習することができるというのも理由になっている。
これまでのことを思い出して歩いていた僕は、村の中のある家が気になって立ち止まった。
具体的にはその家の門の前で悩んでいる様子の少女が気になった。
その子には心当たりがあった。
お肉を村の各家に配って回っている時に、この家の人は珍しく最初から獣人を差別するような様子がなく、さらに同じ年頃の子どもがいると言われていたので、記憶に残っていた。
それに、たしかその子は大人しくて、引っ込み思案ということも聞いていた。
これまで直接会ったこともなかったのに、家にこもりがちというだけで謎の親近感が湧いた。
ちょっと声をかけてみよう。
「ねえ、何しているの?」
少女は突然声をかけられたのに驚いたのか、ビクッとしてこちらを見た。
セミロングの緑髪がその動きに合わせて揺れる。
彼女は少し考えた後、躊躇いがちに答えた。
「元々家にこもりがちだったんだけど、最近は村の人達から、その、嫌なことを言われるようになって……」
最後の方は消え入るような声だった。
どうやら彼女も引きこもり気味のようだ。
もしかしたらこの村は引きこもり村という名前なのかもしれない。
それに村の人から悪口も言われてしまったようだ。
彼女は獣人ではなくて普通の人間だから偏見の対象になることはないはずだし、おそらく、もっと外に出てきなさい、ぐらいの意味合いのことを強く言われてしまったのかもしれない。
それか獣人である僕が最近まで引きこもっていたので、引きこもりと獣人の悪いイメージが合わさって彼女に向けられてしまったのかもしれない。
そう思うと他人事だと放っておけなくなってきた。
「外に出るのが怖くなっちゃったんだよね?」
「……うん」
影の中だけど、ソラも応援している気がする。
そう確認をしてから、どうしたら出られるようになるのかを考えた。
何か目的があった方がいいだろうか?
そう考えて彼女に提案した。
「じゃあ、僕が村を案内してあげるよ!」
「え?」
このまま待っていてもおそらく出られないだろうと思い、僕は彼女の手を取りそのまま歩き出した。
引きこもっていたのならきっと村の中の様子にも疎いだろうと思い、村の中の建物やこれまでに見つけた隠れ場所などを中心に説明していった。
小さな村と言ってもそれなりの広さがあり、村の中に小川も流れているので、遊ぶ場所はいろいろとあって楽しめるのだ。
最初困惑していた彼女も、案内してもらっているうちに少しずつ慣れてきたのか、しばらくすると並んで一緒に歩き、時々笑顔も見せてくれるようになった。
案内している最中に自己紹介をして、彼女の名前がシーナということを知った。
少しでも家の外の世界に踏み出すきっかけになれたのならよかった。
他にも外出する理由を作ってあげたら引きこもり脱却の力になれるかもしれない。
「ねえ、明日は村の周りの草原に行かない? ちょうど用事があって行こうと思っていたんだけど、とても綺麗なんだよ」
シーナは少し悩んだ様子を見せた後答えた。
「……うん、行ってみる」
「じゃあ、また明日家まで迎えに来るね」
そう約束してから彼女を家まで送り届けて、その頃には日も暮れかかっていたので僕も家に帰ることにした。
家に着いてからせめて剣の型だけでもと練習しているうちにだんだんと冷静になってきて、今日自身がした行動に青ざめ始めた。
突然家の前で少女に声をかけ、手を引っ張って連れて行くなんて、前世の世界でやったら完全に誘拐ではないか。
すでに不審者情報が村の中に流れているかもしれない。
それに僕は外に出られなくなっている時に、急に連れ出されて意識が遠のいた経験をしているのに、それを彼女にしてしまった。
完全に失敗した。
もしかしたら、トラウマになってしまって、嫌われているかもしれない。
翌日朝ご飯を食べた後、ビクビクしながらシーナの家に迎えに行くと、警察が(この世界にいるのか知らないが)待っていることも、彼女の親が剣で武装して憤怒の形相になっていることもなく、昨日と同じく彼女が一人で立っていた。
一先ず安心してシーナに声をかける。
「お待たせシーナ。昨日は急に連れ出してしまってごめんね。怖かったかな?」
一瞬、何を言っているのか分からないような表情をした後、すぐに首を振りながら答えた。
「怖くはなかったよ、コリンと一緒だったから……」
「そっか、よかった。早速草原に行こうと思うんだけど、もう準備はできてる?」
「うん」
「じゃあ、行こうか」
今後は確実に確認をとってから、僕は歩き始めた。
今回は念のため手を繋いでいないし、彼女の意思で付いてきているから通報はされないはずだ。
いや、未成年者の同意は意味がないんだっけ……?
そんなことを考えながらも村を出て、街道から外れた丘の上にやって来た。
普段僕が魔法や剣を練習したり、日向ぼっこをしたりしている時に来ている場所だ。
丘の上から見渡すと、風に揺れる緑の草が太陽の光を反射してキラキラと輝いている。
シーナもその景色に見惚れているようだった。
「ここからの景色いいでしょ?」
「うん、とても綺麗」
目を彼女の顔に向けると彼女の瞳が潤んでいるのが見えた。
これは感動しているんだろうか? それとも強引に連れ出されて塔の上のラ○ンツェルのように悲しんでいるのだろうか?
前世の彼女と付き合っていた頃の感覚が曖昧でよく分からなくなってしまった。
しばらく眺めていると彼女が唐突に口を開いた。
「コリン……くん? は普段ここで何しているの?」
「僕の名前は呼び捨てでいいよ。普段は剣や魔法の練習をしてるんだ」
一瞬魔法のことまで話してもいいかどうか悩んだが、彼女は引っ込み思案な子どもだし村中に広められることもないだろうと思って正直に話した。
「剣や魔法? コリンは使えるの?」
「うん、剣はまだまだ全然だめだけど、魔法は中級まで使えるよ」
トレーニングは続けていたがなかなか筋力は付かなかった。
もしかしたらまだ子どもなので発達しにくいのかもしれない。
ただその代わり魔法については魔法書に書かれている中級まで使えるようになっていた。
本当はそこから先も練習したいと思っているのだが、さすがに村の近くで使ってはいくら人気の無い草原でも光と衝撃で見つかってしまう可能性があってできなかった。
いずれ力が付いたらある程度村から離れた場所まで行って、そこでまとめて練習してみたいと考えている。
「どんなのが使えるの?」
「えっと、例えばこれかな? 『水球』!」
僕が呪文を唱えると手のひらの上に水の玉ができた。
今では父の指導の甲斐もあって、発生させた水の玉をそのままの形でとどめることもできるようになっていた。
「すごい……」
そう言ってシーナはその水の玉を見つめ始めた。
水に日光が反射して彼女の顔に光の水玉模様を作り出している。
「これって私でもできるのかな?」
「うーん、魔力があればできると思うけど。試してみる?」
「教えてくれるの?」
「もちろん!」
一人で訓練するのもだいぶ寂しくなってきていたので、練習相手ができて嬉しくなった。
やっと主人公に同い年の友人ができました。
次回は一旦主人公から離れます。