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第十一話 森へ狩りに1





 前回のあらすじ:

 再会を果たして、無断で家に魔物を連れ込みました。









 鳥の鳴き声で意識が浮上してくる。

 目を開けると朝日が優しく部屋に差し込んでいた。

 普段よりも柔らかく温かい感触がとても心地よい。


「むにゃっ⁉」


 眠気に目をこすりながら隣を見て変な声が出た。

 昨日連れてきた狼が並んで寝ている。

 一瞬理解が追いつかなくて焦った。


 そこまで考えたところでまた眠気がやって来て思わず大きな欠伸(あくび)が出た。


「さすがに、狩りに行く前夜に夜更かしするのはまずかったかな……」


 そう呟きながらベッドから身を起こす。

 窓から麦畑の向こうに広がる森の様子が見えた。

 緑あふれる木々が風に揺れていて、昨夜の不気味さが嘘のように感じられた。


 僕の動きで狼も目が覚めたようで起き上がってきた。


「そういえば、まだ名前を決めていなかったな」


 そう言うと、狼はこちらを見つめてきた。

 なんとなく「任せる」と言われている気がした。


「じゃあ、前世の犬と同じソラにしようか」


 ソラはそれを受け入れるように僕の顔を舐めた。

 狼の名前はソラになった。


 僕は朝ご飯を食べるために一階に下りて行った。

 ソラもちゃんと後ろから付いてきている。

 前世で飼っていた犬も夜一緒に寝て、朝起きてから自分と犬の分のご飯を用意して、一緒に食べていたことを思い出した。


 そんなことを考えているうちに食卓に着いた。


「父さん、母さん、おはよう」

「おはよう、コリン。今日は狩りの練習に行くんでしょ? しっかり食べていきなさいね」

「よく眠れたか?」


 母と父はそう言って、僕の方を見て二人揃って固まった。


「どうしたの?」


 そう聞いて、僕はまだソラのことを説明していないことに気が付いた。


「あ、紹介し忘れていたね……。この子はソラって言うんだ」


 そう言いながらソラを手で示すと、ソラは三人の目線を受けてワンッと一つ吠えた。





    ◆ ◆ ◆





 父に先導されて森に続く道を歩いている。

 昨夜ソラに会いに行くために森まで行っていたためか、家を出る時もそれほど怖いとは感じなくなっていた。



 ソラを紹介した後は大騒ぎになった。

 突然現れた魔物に母は僕を背中に庇ってフライパンを構えるし、父は手の先に『氷矢(アイシクルアロウ)』を作り出して放とうとした。


 そのまま戦闘になってしまいそうだったので、慌ててソラと両親の間に入って止めた。

 森で出会って、僕にしっかりと懐いていること、攻撃的ではないことをしっかりと説明してなんとか様子を見てくれることになった。


 僕の前世のことまで話すことができればもっと合理的な説明ができたんだろうけど、余計にややこしくなりそうだったのでやめた。

 優しい両親であることは理解しているけれど、どうしても前世のことを話すのは躊躇(ためら)われるというのも理由の一つだ。


 混乱の収拾と両親の説得にかなり時間がかかってしまって、ご飯を食べて家を出ることができたのはほとんどお昼になった頃だった。


 朝の食卓のことを思い出していると父から声をかけられた。


「それにしても未だに信じられないな。マーダーウルフを飼いならせるなんて」

「この世界には魔物と生活している人はいないのですか?」

「一応、魔物使いと言われる者達が存在するとは聞いたことがあるが、直接見たことはないな。いや、お前が飼い始めちゃったからこれが初めて見ていることになるか」

「そうなんですね……」


 魔物使いは存在するらしい。

 他にも飼っている人がいると聞いてちょっと安心した。


「何度も言うが、村では絶対に見せるなよ。普通に考えて飼いならせるなんてみんな考えていないから、見つかるとパニックになる」

「……分かりました」


 まあ、村の中を殺人と名がつく魔物がうろついていたら騒ぎになるよね。

 閑静な住宅街で、手に血濡れのナイフを握った殺人鬼が歩き回っているぐらいヤバイ光景だろう。

 実際今森への道を歩いている最中も、村に住んでいる他の狩人にソラが見られないように僕の影に入ってもらっている。


 魔物の特性なのか、闇魔法なのかわからないのだけれど、ソラは影の中に入ることができるみたいだ。

 家を出る時にどうしようかと話し合っていると、ソラが急に僕の影の中に入ってとても驚いた。

 せっかく一緒に暮らせるようになったのに、こんな形になってソラには申し訳ないとは思うけど、当分は家の中と森の中以外では影の中にいてもらおう。


 そんなことを考えているうちに森にたどり着いた。

 昨夜は森に沿って移動したので、森に入るのは猪事故の時以来だ。


 昼間でも森の中は薄暗くて、冷たい風が吹いてくる。

 一瞬猪の記憶がよぎって不安になったが、今は当時よりもはるかに強くなっているし、ソラも一緒にいる。

 そう思うと気が楽になった。


「大丈夫か?」


 森の前で立ち止まっていた僕を心配して父が声をかけてくれた。


「はい、大丈夫です」

「そうか、よかった。前に狩りの見学をした時に話したと思うがここから先が森だ。もう一度確認しておくが森の表層付近には魔物も野生の動物もほとんどいなくて、ある程度入ったところから出てくるようになる。と言っても、もう昨日の夜に入ったんだったか?」

「入っていません。ソラと会うために森に沿って歩いていたので中は見学の時以来です」

「そうか、じゃあ離れずに付いてくるんだぞ」


 そう言って、父は森の中へ入っていく。

 僕も父の後を追いかけた。

 中は外から見えていたほど暗くなくて、木々の間から日の光が差し込んでいた。


 しばらく森を進んでいると、急に父が立ち止まった。

 そして隠れるようにしゃがんで、茂みの向こうに立っている木を指さした。

 そこにはちょうど地面に生えている草を食べている兎がいた。


 兎は食事をしながらも周囲を警戒しているのか、長い耳をピクピク動かしている。

 父はゆっくりと持って来ていた弓を構えて矢を(つが)えた。

 そのまま慎重に弓を引き絞っていく。


 音はほとんどしていなかったはずだが、異常を察したのか兎は食べる動きを止めて周囲を見渡し始めた。

 そして見えていないはずの僕たちの方を一瞬気にしたかと思うと一目散に駆け出してしまった。


 慌てて父も矢を放つが、兎には当たらず、森の奥に走り去ってしまった。

 すると影の中に隠れていたソラが飛び出して森の奥に行ってしまった。

 森に来た後も父からいろいろ教わりながら歩いていて、ソラを影から出してあげるのを忘れていた。


 もしかしたら、影の中にいるのが我慢できなくなって、走りたくなったのかもしれない。

 ソラが走っていく様子に一瞬唖然としていた父が立ち上がって話し始めた。


「まあ、あんな感じに野生動物は勘がするどい。狩りは大体失敗ばかりだ」

「そうなんですね……。そんなに失敗するのにいつもどうやって捕まえているんですか?」


 僕は何かこの世界らしい特別な方法があるのかと期待して尋ねた。


「それは、たくさん試すんだ」

「……たくさんですか」

「そう、とにかくたくさんだ。大量に罠を仕掛けて、罠を確認するために森の中を移動している間もずっと獲物がいないか気を配って、見つけたら捕まえようとする。この繰り返しだ」


 秘策などなかった。

 この世界でも狩りは失敗率の方が高いらしい。

 父が矢を回収したタイミングでソラが帰って来た。


「ソラ、影の中から出してあげるのを忘れててごめんね。もっと走って来てもいいんだよ?」


 そう言ってソラの様子を見ると、口に兎を(くわ)えていた。

 どうやら体を動かしたくて仕方がなくなり、走っていったわけではなかったようだ。


「すごいよソラ! 捕まえて来てくれたの?」

「さすがは狼だな。まさか逃げた兎を捕まえてくるとは……」


 僕がソラを褒めて撫でまわしていると、父も驚いたようにそう言った。









 子どもが親に内緒で動物を拾ってきちゃうことってありますよね。

 その狼バージョンみたいなものです。





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