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第九話 トレーニングをする





 前回のあらすじ:

 父を討伐しました。(違う)









 仁義なき模擬戦になってしまったあの日からしばらく父から剣の型などを教えてもらって、素振りや体幹を鍛えたりして過ごしていた。

 あの戦いで父が見せた人間離れした動きは魔力を使っていることが分かった。


 父曰く、「魔力で身体能力を強化すればあれぐらいのことはできる」のだそうだ。

 僕の記憶が正しければ、魔力で身体能力を強化できるのは魔物だけだったはずだ。

 それに家にあった魔法書にもそんなことは一切書かれていなかった。

 

 あくまでも魔力は魔法を行使するために使えたり、魔物が身体能力を強化したりするのに使えるだけと書かれていた。

 しかし、父はどうやら話すことのできない何かしらの理由でその方法(仮称ゴリラ流身体強化術)を知っていたらしく、魔力による強化の方法も教えてくれた。


 魔力を強化したいイメージを意識して特定の部位に流すことで、その部位を強化できるらしい。

 ただ、その父の説明が「体のこの辺りに、こう、うんっ、と貯めて、こう、すんとなるんだ」などという解読不可能な言語化をされていた。


 きっとゴリラ語なのだろうが僕はまだ人間や魔族が使う言語しか覚えていないので、分からなかった。

 つまり、父はあまりそういう感覚的なことを教えるのは向いていないようだ。


 しょうがないので、魔法の練習をする時に感じる魔力の流れを意識して、それを少しずつ詠唱なしで体の部位に集められるようにしていった結果、なんとか自力で弱めの強化をすることができるようになった。


 父曰く、基礎はできてきているらしいので、これから少しずつ練習して精度を上げていくことにした。

 あと、体内の魔力の流れをある程度コントロールできるようになったので、もしかしたら魔法もその方法で出せるようになったかなと思ったのだが、普通にできなかった。


 有名なファンタジー世界ならここで無詠唱とかできるようになるはずだと少し期待してしまったのに残念だ。

 その代わり、あらかじめ魔力を手のひらに集中させておくことで、魔法の発動速度を上げることはできるようになった。


 そんなこんなで、今も剣の素振りをしている。

 これまで引きこもっていて体力が全然足りないので、この素振りは型の精度より筋力をつけるためにやっているみたいな物だけど。


 ちなみに、こうして素振りやトレーニングをするようになってよかったことがあった。

 まず、素振りをしている時は大変だが、とても気持ちがよくて嫌なことを考えなくて済む。

 他にもご飯がとても美味しく感じられるようになった。


 もともと母の作ってくれるご飯は美味しかったのだが、トレーニングをするようになってからさらに美味しく感じられるようになった。

 もしかしたら、運動でお腹が空きやすくなったのも影響しているのかもしれない。


 そして、夜ぐっすり眠れるようになった。

 前世も含めて引きこもっていた頃は、昼夜逆転していたり、全く眠れなかったりすることがあったが、トレーニングをするようになってからは疲れているためか、眠って気付いたら朝というような日もあった。


 そういったこともあって、最近はとても調子がよくなった。

 森の一件が片付いた後も運動を継続してみようかと考えている。

 ちなみに森の狼についてはあれからも窓から様子を見ているが姿が見えないことが多くなった。

 もしかしたら、身動きがとれないほど怪我が悪化しているのかもしれない。


 心配になってきたが、それなりに力が付く前に森に近づくのはあまりに危険なのも事実だ。

 体力の変化はゆっくりとした物なので、それ以外の魔法や身体能力の強化に力を入れて、出来る限り早く父に森に入っても大丈夫だというお墨付きをもらおうと決めた。





    ◆ ◆ ◆





 それから数日後。

 いつも練習している家の庭で父と軽く木剣を打ち合っていた。

 身体強化を発動させた状態で、基本の型が自然と出せるようになっているのかと、どれくらい強く出せているのかを確認してもらっているのだ。


 数分打ち合った後、父は口を開いた。


「もう大丈夫だろう。あの森にはそれほど強い魔物も出ないし、普通の獣ぐらいなら、今の身体強化で十分身を守り切れるはずだ」

「分かりました」


 少し時間はかかってしまったが、なんとかなったようだ。


「これほど早く成長するとは正直驚いた」

「魔力による身体強化や魔法でだいぶ補っているので、体力自体はまだまだ全然付いていませんよ」

「いや、普通、身体強化や魔法の習得でももっと時間がかかるんだが……」


 実際、体力はそんなに早く変わるものではなかった。

 この数日でも記憶が戻った時よりは体力がついた気がするが、それでもまだ身体強化なしでは父とまともに打ち合うことはできていない。


「早速明日森へ狩りに連れて行ってやろう。こんなに頑張るほど行きたいんだろう?」


 僕は森に行きたいのは合っているのだけど、目的が違うんだよな……。

 でも、いずれできるようにならなければいけない狩りの練習になるわけだし、行った方がいいかもしれない。


「うん、お願いします」


 僕がそう答えると、父は家の中に戻って、剣を持って戻って来た。


「森に行くことになるから、ちゃんとした剣を渡しておこうと思ってな。母さんには早過ぎると言われていたんだが、予想よりもかなり早くお前が成長してちょうどよくなった」


 そう言って、笑いながら僕に剣を渡してくれた。

 渡された剣は身体強化なしだと少し重いけれど、両刃のかなりいい剣に見えた。

 前世で剣なんてよく知らなかった僕でも良さがわかるくらいの物だ。


「ありがとうございます、父さん!」

「喜んでくれてよかった。普通、おまえぐらいの年の子どもならもっといろいろ物をねだるはずなのに、おまえは魔法を教えて欲しいとかばっかりで心配していたんだぞ」


 たしかに普通の子どもなら物を欲しがるかもしれない。

 どうやらまた心配させてしまっていたようだ。


「さあ、剣を抜いてみろ。刃に気をつけてな」

「はい」


 言われた通り慎重に(さや)から引き抜くと、白銀の剣身(けんしん)が姿を現した。


「うわー、綺麗……」


 率直にそう思った。

 銀色に輝く金属の表面には僕の顔が映っている。


「身体強化はだいぶ慣れてきているよな? その要領で剣に魔力を流すイメージをしてみろ」

「え? 分かりました、やってみます」


 少しずつ身体強化の感覚で魔力を手のひらに集めていく。

 以前、魔法を無詠唱で出そうとした時には手の先から出て行かなかった魔力が、今回はまるで剣に吸い出されるようにして流れて行く。


 すると、剣身が淡く光り出して、だんだんと緑色の文字が浮かび上がって来た。


「うまくいったな。この剣にはいくつか魔法付与をしてある」

「魔法付与ですか……?」


 またもや知らない言葉が出てきた。

 ファンタジー世界で時々出てくる魔法付与がこの世界にも存在するとは知らなかった。

 あの魔法書ポンコツすぎじゃない……?

 どことなく得意げな父は説明を続ける。


「ああ、鋭さを強化するものと、手入れの負担を減らしてくれるものだ。この剣の斬撃は強化されていて例え硬い魔物の皮でも切り裂くことができる。そして、戦闘で血などが剣についても自然と消えていくようになっている」


 なんと……。想像以上の高性能な剣を貰ってしまった。

 一体いくらするんだろう?

 いくらなんでもこの年の子どもには猫に小判なんじゃ。


「こんなに高そうなもの、本当にいいんですか?」

「ああ、可愛い息子に是非と思ってな。それに実はそれほど高くはないぞ」


 え、このレベルの剣が安価なのか?

 ファンタジー世界ならこの剣だけで魔王とかも倒しそうな……それは言い過ぎだとしても、かなり強い部類に入りそうな気がするのに。

 もしかしたら、この辺りが特別ド田舎でもっと都会にはこのレベルの付与がされた武器や道具がたくさん存在するのかもしれない。


「その付与は俺が直接したからな。文字を刻み込んだのも俺だ。だから実費としては剣本体の代金だけだな。まあ、魔法と相性のいい金属だからそれなりにしたが、大事な子どもの狩りデビューなら釣り合うだろう」


 ちょっと、情報量が多かった。

 父が付与をした? どういうことだろう?

 これまでの出来事ですでに普通でないことはわかっていたけど、さらに普通じゃなくなってきている気がする。


 もしかして、この世界では普通の村人でも魔法付与ができるのか?

 いや、母の話によれば魔力を持っている人自体が少なかったはずだ。

 それなら魔法付与は厳しいだろう。


 それに、狩りデビューって、そんな小学校デビューみたいな……。

 なんだか、どっと疲れてきた。

 少し現実逃避して、考えないようにしておこう。


「よくわかりませんが、ありがとうございます。大切にします」

「おう、そうしてくれ」


 そう言うと、父は畑の作業に戻って行ってしまった。


 だいぶいろいろあったが、ついに父からのお墨付きがもらえた。

 明日朝には森に連れて行ってもらえるみたいだけど、さすがに父の前で狼に会いに行くわけにはいかない。

 だから、今夜両親が眠ったタイミングで森に行ってみよう。


 僕はそう決めて今夜に備えて身体強化の手順の確認などをして夜になるのを待った。









 ちょっと、内容をモリモリし過ぎまして、だいぶ長くなりました。

 森の狼に気付いてからも慎重な主人公はなかなか動いてくれませんでしたが、ようやくここまで来ました。

 次回は夜の森へ狼に会いに行きます。





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