49. ちっとも嬉しそうじゃありませんね
その後は、お決まりの展開だった。
宗助が熱を出し、敵の出現する日時と場所を『予知』した。
そしてその出番の詳細を聞いた真知は、喜んだ。
「よかった。また、いつもの感じに戻りましたね」
前回のカエルとの再戦を経て、真知は次の出番のこともまた、不安に感じていたらしい。
もしまた日中の、人前での戦いになったらどうなることか。
心海と違い、何も知らない真知にはやはり、そのことは気がかりだったらしい。
「これなら、『ネコミミとロリポップ』としての動画も、完全復活ですね」
『予知』を伝えた後に、向こうからかかってきた電話で、真知はそう声を弾ませていた。
その喜びの声に、なんだか複雑な気持ちになりながらも、心海は言った。
「そうだね」
「……なんだか、心海さん、ちっとも嬉しそうじゃありませんね」
じゃれつくように、そう指摘する真知の言葉に、そのときはあまり付き合う気も起きなかった。
真知はきっと、心海がいつも通りだと思っている。
自分が正体不明の敵との戦いに気乗りがしないのだと考えている。
でも実際はそうじゃない。
その後ろめたさのせいで、真知とのじゃれ合いに付き合う気も起きない。
「そんなこと、ないよ。次もがんばろっか」
つい口にしてしまったそのどこか気の抜けた言葉に、真知はなんだか戸惑っていた。
そして心海が知った『予知』の内容は、すぐに智司にメッセージで伝えた。
宗助の『予知』で示された日時は約半月後、十一月中旬の午後十一時。
そしてその場所は市内を流れるF川の河川敷の中でも、最大の大きさを誇る緑地の中だった。
智司からは、すぐに電話がかかってきた。
「ご明察だ。俺が仕掛けた通りの、日付と場所だ」
その言葉を聞いてから、ふと思いついた考えを、心海は口にした。
「ね、今からその場所を変えてみようとすると、どうなるの?」
「興味深いが、何が起こるのかわからない。だから、前に言った通りなんだ。わからないから、あまり刺激したくない」
そう聞いて、心海はじっと、その言葉の意味を考える。
押切智司の言う、宗助のIRAの力。
なんだか腑に落ちるようでいて、腑に落ちない。
だけど、この戦いがあることによって、今の日常が続くというのなら、とりあえず今のところは、彼の言葉に従うだけだ。
「他に何か、気になった点はあるか?」
電話の向こうから聞こえたその言葉に、見えないとわかっていても、心海は首を横に振った。
あとはいつもとそう変わらなかった。
戦いがあると知った両親も、心海をちっとも心配しなかった。
それどころか、受験勉強のストレス解消になるのでは、という期待さえ寄せていた。
「特には。そっちからは、何かある?」
「いいや。とりあえず、一戦交えよう。大ケガはさせない――だが、そう簡単には勝たせない。勝ち負けの目安は、そうだな、三十分以内に倒せるか、どうかだ」
その言葉を聞いて、この戦いはもはやゲームだな、と心海は考える。
今や、お互いの手の内を知っている。
だから戦いだって、真剣なものにはなりはしない。
そして相手がもう、こちらに危害を加える気がないと知っていれば、戦いといっても茶番のようなものだった。
智司が勝ち負けの基準を設定したのは、そんなことも考慮してのことかもしれない。
お互いに、達成すべき目標があるのとないのとでは、戦いに対する真剣さだって、まったく変わってくるだろう。
そしてその真剣さは、ひょっとすると、これからの戦いにおいてもっとも重要な要因かもしれなかった。
「あるいは俺の動物が、トドメは刺さないまでも、キミたちのことを完全に制圧してしまうかもしれない。そのときも、こっちの勝ちだ」
その言葉に、心海の胸にはわずかに燃え上がるものがあった。
謎の敵との戦いは常に面倒で、真知や宗助へ心配を向ける必要のある、義務感に駆られるものでしかなかった。
だけど今はもう違う。
義務感こそあれ、ひょっとすると、だらだら茶番を続ける、気が抜けたものになる可能性があった。
だけど、ゲームだと考えれば話は違う。
そして心海は、どちらかといえば、負けず嫌いの方だった。
「勝ち負けの結果、どうなるの。……負けた方が、勝った方に何かおごる、っていうのはどう?」
「ムリするな、高校生」
「だいじょうぶ。負ける気は、してないから」
そう言いながら心海は、過去の戦いを頭の中で思い描いていた。
智司の作り出した、調査目的だったという、あの戦いの相手たち。
倒すまでに一時間以上もかかったのは、二戦前に戦ったコウモリだけだ。
他の相手は、長くかかっても三十分程度だった。
だからたぶん、勝機は、心海たちの方が大きい。
「なら、その話、乗るよ」
その言葉の後、智司からの電話は切れた。
それから心海は、自室のベッドの、ヘッドボードに掛けてある猫耳カチューシャへと目を向ける。
プラスチック製の猫耳カチューシャは、窓から漏れてくる朝の光を浴びて、つややかな黒い光を輝かせている。
どうにも忌々しい、自分に奇妙な力を与えてくれる猫耳カチューシャ。
このカワイイアイテムとの付き合いは、まだまだ続くらしい。
そう考え、心海はため息をつく。




