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ネコミミとロリポップ~ネコミミ少女は地元を救う!~  作者: ナカノフミト
第二章 誰

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39. あたし、見たの

 心海ここみは、慌ててカエルから両手を離し、その背中から降りる。

 小走りで駆けながら、女の子に向けて笑顔を浮かべる。


 女の子は駐車場に出る扉を抜けたばかりのようだった。

 その扉はすりガラスがはめ込まれた大きなもので、長いドアハンドルをつかみ、スライドして開くタイプのものだった。

 そのすりガラスの向こうにも、大人らしき二つの影が動いている。


 ちらりと振り返ると、カエルはまだこちらに向き直っている最中だった。

 説明している時間はない。

 こちらに何か言いかけている女の子の腰に左腕を回し、その体を持ち上げる。

 女の子を抱えたまま、ドアハンドルをスライドさせる。

 そして扉を抜けた先には、心海からすればかなり年上の、三十代前半の男女がいた。


 二人は、突然現れた心海に対して、目を丸くしていた。

 後ろ手にすりガラスの扉を閉めながら、心海は考える。

 これもヤバい。

 腕に抱えた女の子。

 マスクにサングラス。

 そして猫耳カチューシャ。

 どうみても不審者だ。

 そのとき、女の子が言った。


「パパ。あのね、さっき、あたし、見たの」


 二人はこの子の両親らしい。

 よかった。

 いや、どうなんだろう。

 わからないぞ、と思いながら、心海は膝をついて素早く女の子を地面に下ろす。


「しーちゃん」


 女性の方が、そう子どもの名前を呼ぶ。

 女の子はすぐに母親の足元へと駆け寄る。

 父も母も、そんな我が子の無事を確認した後、やはりというべきか、心海へと不審の目を向けた。

 やがて母親が言った。


「あの、あなた……誰なんです?」


 心海は答えに窮した。

 わたしはこういうときに応用がきかないんだよな、とつい考えてしまう。

 戦いについては、いくらでもアイデアが出るのに。

 そして宗助そうすけなら、今みたいな状況をごまかすウソは得意なのに。

 それでもなんとかひねり出したアイデアを、可能な限り堂々と、心海は言った。


「実はですね……わたしたち、自主映画の製作をしてまして」

「自主……なんですって?」

「自主映画です。この格好も、その衣装の一部で」

「それで?」


 少しいらだったような声をあげる父親に、心海はうなずきかけ、なるべく明るい声で答えた。


「いま、この駐車場で撮影をしてまして。ちょうどいいところで、お嬢さんが入ってきてしまって、それで外までご案内してたんですよ」

「……そう。まあ、いいけど」


 夫婦は明らかに納得はいっていない。

 だがそれ以上、追及する気もなさそうだ。

 そうして心海の脇をすり抜けようと歩きはじめた彼らを、心海は両手を広げて止める。

 いま、この駐車場に入れるわけにはいかない。


「なんですか。ぼくら、車を出したいんですけど」

「それがですね、その、いま撮影中なんですよ。入れるわけにはいかない」


 苦しいぞ、心海。

 自分でもそう思いながら口にした言葉に、父親は明らかに苦い顔をみせる。


「なんなんです、それ。あり得ない」

「でも、入られると困るんです。……その、撮影が出来ない」

「そんなの、ぼくらには関係ないだろう。大体、そんな予定があったなんて、聞いてもいないし、どこにも書いてなかった」


 かなり強い口調でそう言われたのと、近くのエレベーターがチンと音を立てて開いたのは、ほとんど同時だった。

 また別の人が来た。

 どうしたらいい?

 ほとんど諦めかけながらも心海はそう自問する。

 そして、父親が言う。


「そもそもあなた方、許可を取ってるんですか」


 心海が肩を落とそうとしたそのとき、エレベーターから現れた人影が、言葉を発した。


()()さん、正式に許可が下りたよ。少しの間なら、構わないってさ。構内放送もしてくれるそうだ」


 目を向けると、そこに立っていたのは宗助だ。

 そして彼は、傍らに立つ夫婦に目を向けて、それから心海にたずねてきた。


()()さん、こちらは?」

「ああ、ちょうど駐車場を利用したいっていうご夫婦。今は撮影中で、申し訳ないが入れない、と説明をしてたところだったのよ、()()さん」


 弟にならい、彼を適当な偽名で呼ぶ。

 そうして説明した状況は、何とか理解してくれたようで、宗助は何度かうなずいてみせた。

 それから宗助が二人に何かを説明しかけたタイミングで、先ほど心海が連れ出した女の子が言った。


「あたし、見たよ。でっかいカエルがいたの。すごくでっかいやつ」


 そう言うと両手を広げて、大きな丸を描くように体を動かす。

 その言葉で、漂っていた不穏な空気が、何となく解消されるのがわかる。


「真っ黒で、真ん中に、ぺたって座ってたの」

「着ぐるみ、すぐにはどかせないんですよ。十分で済みますから、少し待っていただけませんか?」


 宗助にそう言われた父親は、その後で真知まちに目を向けた。

 心海と同じ、マスクにサングラス姿だ。

 そして宗助の手にあるアクションカメラにも目を向ける。


「それに、許可はもう、もらいましたから。ぼくらの高校からバックアップだって受けている話です。もしどうしても今、あなた方が入りたいというのなら、ぼくらの撮影は遅れてしまう。だとすると、申し訳ないですが、あなた方こそ、いま入っていい、という許可をもらってきてはくれませんか」


 宗助の言葉を聞いて、父親はまた渋い顔をする。

 そこに宗助は、柔らかな笑みを浮かべて言った。


「十分だけですから」


 父親は肩をすくめ、そうして母親にうなずきかける。


「すぐ済むそうだから、時間を潰してこよう。十分だけなんですよね」


 念を押すように父親は言い、エレベーターの下りボタンを押した。

 先ほど宗助たちが乗ってこともあり、その扉はすぐに開いた。

 三人は扉の向こうに消えた。


 心海はほっと息をつく。

 とりあえず、危機は去った。

 それから宗助が、ニヤニヤしながら心海にたずねた。


「それで、何やってたの? ぼくは誰に何の許可をもらったわけ?」

「……あのねえ、すごく大変だったんだから」

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