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10. 役割分担をしよう

 闇が膨らむ。

 なんだか、いつもよりも速い。

 そして大きい。


 その様子を見ながら、今回はなんだろう、と心海ここみは考えていた。

 きっと、何かしらの動物だ。

 敵の共通項は、人気ひとけがないところに現れるのを除けば、それだけだ。


 それにしても大きい。

 前回のゾウよりも巨大だ、と考えたそのとき、ちょうど闇が溶けて消えた。

 そこに現れていたのは、何よりも大きな特徴である、長い首を持った四本足の動物だった。


「キリン?」


 その問いかけに、真知まちが答える間もなく、黒いキリンが走り寄ってくる。

 周囲に立つ鉄骨を俊敏にかわしながら、あっという間に二人の方向へ迫り寄ってくる。


 そうだ、キリンは足が速いんだった。

 いつか見たドキュメンタリーで、そんな情報が紹介されていたことを思いだす。


 でもキリンには牙がない。

 攻撃は、こちらを蹴ってくる?

 それとも、他の何か?

 近づきつつあるキリンを見上げながら、心海がそんなことを考えていると、不意にキリンが首をもたげた。


 首か!

 そう思ったそのときには、長い首は反動をつけて、こちらに叩きつけられようとしている。


 瞬時の判断で、心海は真知の腰を抱えて、鉄骨へと飛んでいた。

 宗助そうすけは背後、でも少し離れたところにいた。

 だからたぶん大丈夫だろう、と思ったそのとき、キリンの攻撃が地面を覆うコンクリートへと到達する。

 ドン、と花火の炸裂音にも似たデカい音。

 宗助は大丈夫であって欲しいと、少し心配になる。


 真知を抱えたまま、鉄骨の頂点に立つ。

 鉄骨の頂上の高さは七メートルほど。

 いくらキリンの背が高いといっても、ここまで攻撃は届かないだろう。

 一息ついてから、心海は言った。


「ま――ロリポップ、高いとこは平気?」

「恐怖症とかではないですけど……、絶対、離さないでくださいね」


 鉄骨の頂点はかなり窮屈だ。

 心海ひとりが立つので精いっぱいで、真知がまともに足を下ろす場所すらない。

 そんな狭い足場から見下ろすと、キリンはゆっくりと振り返り、一メートルほど下から、こちらを見上げている。

 先ほどまで二人がいたところは、砕けたコンクリートのホコリが舞っており、よく様子がうかがえない。

 照明も、フワフワと空中に漂うホコリを照らすばかりだ。

 宗助は?

 そう考えたとき、元いたところから数メートルほど離れた場所で、手を振る宗助の姿を見つけた。

 ふう、と心海は息を吐く。

 そして真知が口を開いた。


「ねえ、ネコミミさん。キリンだと、どっちにあると思います?」


 言いながら真知は、ボディバッグからもう一つ、棒付きキャンディを取り出している。

 口の中に一つ。

 手にもう一つ。

 一つは何かあった時の着地用だろう、と心海は考える。


「どっち、って?」

「弱点です。今までの例だと、頭か体の中央部――じゃあ、キリンの場合は?」


 一瞬、過去に戦った相手のことを思い返した後、心海は即答した。


「――わからない。あるいは、首の中かも」


 そう言いかけたとき、こちらを見上げていたキリンの首が、再びしなやかに曲がる。

 鉄骨狙いか。

 寸前に気づいた心海は、隣の鉄骨へと飛び移る。


 金属同士がぶつかり合うような激しい音。

 お寺が鳴らす鐘の音にも似ている。

 キリンの攻撃を受けた鉄骨は、倒れこそしなかった。

 だがまっすぐ天へと伸びていた鉄骨はすでに、キリンの頭部が直撃したところから、飴細工のようにぐにゃりと曲がっている。

 そしてブルブルと衝撃で激しく震動していた。

 もう一撃加えられたら、この太い鉄骨でさえ、どうなるものかわからない。


「このままだと、いずれ追い詰められますね。どうしましょう」


 真知のその言葉は、心海の決断を促していた。

 真知が戦いに加わって三戦目。

 心海自身は四戦目。

 その経験の差はわずかだ。

 でも真知は、年下のせいか、大事な決定については、心海にゆだねてくる。


 そして自分は、そういうのが得意だ。

 とりあえず乱暴に、何かを決めてしまう、というのが。


「役割分担をしよう。あんたは頭。わたしは体。それぞれで攻める」


 それから心海は、さっき宗助がいた方向に、やや大きな声で呼びかける。


「あんたは隠れてて! 安全なところに!」

「大丈夫! 隠れて撮影してる!」


 姿は見えないけれど、そう声が届く。

 心海は舌打ちをする。

 撮影してる場合か、とも思うし、無闇に声をだすなよな、とも思う。

 敵に宗助自身の位置を教えるだけだ。

 隠れている意味がない。


 飛び移った鉄骨に、再び、キリンが近づいてきている。

 もう一度、心海は真知にささやいた。


「作戦は、さっきのでいいね?」

「もちろんです。もう、手、離していいですよ。自分で何とかできますから」


 そう言い終えると、真知は手に持っていた棒付きキャンディを口の中に入れてしまう。

 これで口の中に二つ。

 彼女のIRAに必要な、消費物。


「じゃあ、行くよ」


 キリンが首を曲げ、反動をつける。

 そのタイミングで、心海は真知の腰に回していた両手を離す。


 自身は、隣の鉄骨へと飛ぶ。

 その頂点には着地せず、鉄骨の中頃を三角跳びの要領で蹴り、すぐさまキリンの方向へと反転する。

 キリンは、さっきまで自分たちが立っていた鉄骨に、攻撃を終えたところだった。

 完全に足を止めているその胴体に、思いっきり、両足での蹴りを叩きこんでやる。

 ドロップキックだ。

 そしてキリンがバランスを崩す。

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