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残念なイケメンってこういう奴のことだと思う。

部活動申請書


【部活名】

 超能力部

【活動の内容、計画など】

 超能力を活用して困っている人を助けることを目的とする部です。

 校内の清掃活動、部活動のピンチヒッター、ボランティア活動、気になるあの子の恋愛相談、世界滅亡を企む組織との対決、等々どんな相談も超能力を用いて他にはできない解決方法で解決します。

 あと、超能力の使い方次第では合法的に邪魔な奴の排除なんかもできないでもないです。あいつを蹴落としてやりたい。あいつの弱みを握りたい。そんなどうしようもないクズ達の助けにもなることができます!

【主な活動場所】

 特別棟、多目的室2

【部長】

 学年:二年二組

 氏名:椎名(しいな)(しん)

 住所:○○市△△町□□□-□

 電話番号:☆◎■-△♡●▲-▽◎▼★

 メールアドレス:▼▼▼▼▼▼▼@■■■■

【副部長】

 学年:二年二組

 氏名:千路(せんじ)ナギ

【部員数(申請時)】

 二名

【備考欄】

 超能力者を敵に回すのはおすすめしませんよ?


◇◆◇◆◇


 放課後、誰もいない二年二組の教室で渡された部活申請書を読み上げた。

 こうして読み上げてみると、ただ目を通した時より多くのことが分かるように思う。例えば、こんな申請書は二度と読みたくないなとか。

 酷い。ほんと酷い。何考えて生きてたらこんな怪文書が出来上がるの?文明に取り残されたの?そもそもこれほんとに申請書?呪いの手紙の亜種とかじゃない?

 椎名は思わずため息をつく俺を見ると、まるで分からないとでも言うように首を傾げた。


「あのさ……椎名」


「なに、ナギっち?」


「お前……これ、本気で通ると思ったの?」


「んー、書くべきことは全部書いたんだけどね。おかしいなぁ……」


 おかしいのはお前の頭だ。

 言ってやりたいのをグッと堪えて「そうか……」とだけなんとか絞り出すようにして返した。

 もう無理。ほんと無理。限界。勘弁して。

 俺のそんな想いなど知る由もなく、机の上に投げ捨てた申請書を拾い上げると顎に手をやって椎名は独り言を呟く。


「……何が、いけなかったのかな?」


 全部、なんだよなぁ……。

 つくため息すら失って、視線だけを椎名に向ける。

 少し茶色がかって短く切り揃えられた髪、すらりと伸びた長い手足に同性ながら思わず見惚れるほどに整った造形をした顔。

 改めて、それはそれは「イケメン」だった。そのうえコミュ力に優れいつも友人に囲まれているような陽キャなのだからもはや嫉妬の感情すら湧いてこない。嘘、やっぱ死んでくれ。

 視線を外すと窓に反射した自分の姿が見える。

 黒髪黒目、身長は高くも低くもなく、若干細身なのを除けばどこにでもいそうな無個性な男子高校生。なんなら、かけてる眼鏡の方がまだ個性があるまである。挙げ句の果てにコミュ力に劣りいつも周りは台風の目かよってくらい誰もいないボッチの鑑な有り様。こんな個性はいらない。

 ねぇ、神様。ちょっと不公平過ぎませんか?努力が足りない?へへ、ぐうの音も出ねぇや。


「……はぁ」


 超能力部。

 その些かシンプルかつパンチの利きすぎた部の申請書に再度を目を通して思わずため息がもれた。

 これ、やっぱり無理があるだろ……。


◇◆◇◆◇


「千路君ってさ……超能力者、だよね?」


 十七年生きてきて、その経験から言えることだが、超能力なんてものない方がたぶん人生は楽しい。

 少なくとも、余計なトラブルに巻き込まれることはない。例えば、隣の席の一生関わることとかないんだろなって思ってた陽キャ君に放課後いきなり頭のネジが外れてるような質問をされるとか。


「僕もね、そうなんだ! 人の思ってることが聞こえる能力。千路君のは透視でしょ? 覗……凄く便利な能力だよね!」


 突然の質問。ボッチって奴は常日頃会話がないものだから、話しかけられても咄嗟には言葉が出てこない。それに加えて質問の内容も内容だけにどう答えるべきかちょっと考えてしまった。具体的にはどう答えれば明日から椎名の取り巻きに嫌がらせをされないだろうかという方向で。

 しかし、そんな風に迷っている間に話は進んでしまう。それと同時に納得した。

 つーか、こいつ覗きって言いそうにならなかった?人の超能力なんだと思ってんの?


「でさ! 提案なんだけど……僕らで部活作らない?」


「……え? ……は?」


 俺、何か聞き逃しただろうか。

 残念なことに何も聞き逃してはいなかった。再度同じやり取りが繰り返されただけだった。


「僕さ、昔からこの超能力を使って世界を救うことになるって思ってたんだ。いざ、能力について聞かれたときに格好いい感じで説明したいから『以心伝心』って名前もつけたし」


「あぁ……そう……」


「でもね、最近気づいたんだ。世界の滅亡を企む秘密組織なんて……いないんだ、この世界には」


「うん……それは……そう」


 窓際でイケメン特有の「首が痛くなって抑えていると突然吹く爽やかな風」に髪の毛やカッターシャツを揺らしながら悲しそうに微笑みを浮かべて語る椎名。

 この辺りで俺は気づいた。こいつさてはアホだな、と。

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