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RPG 009  作者: 初書ミタ
HP30で HP100万を倒せ
6/34

もふもふのリス

「綺麗な森ね」



 そう言った露原の顔は険しかった。


森と言うものは雑草が生い茂り、無秩序に木々が乱立する場所なのだ。


 つまり、「きれいな」と言うことは何者かが管理しているということだ。


 それなりに用心して先に進むと湿っぽい洞窟のような穴がぽっかりと開いていた。



 大きな石がその穴をふさいでいる。俺たちの力ではとても動かせそうにもない。


 その石の隙間から姿を見せた生物がいた、生物と言ってわからないが、


 それが俺たちの求めていた精霊カーバンクルだった。



「とよさん、こいつらって何匹くらいいるんですか?数が少ないなら


むやみに殺すと不味いでしょう。



「う~ん、ゴキブリ並みの繁殖力だよ。小石が当たっただけで死ぬからね。


増えるのはすごく早いよ。」



 俺はダメージを与えずにどう捕獲しようか悩んでいた。


 なにしろ、ヒットポイント 1 だ。


 睡眠魔法は魔法なので反射するだろうし、麻酔針などを撃ち込むと、


即死しそうだ。だが、カーバンクルは生ける化石と言うくらいで、


人間が誰も興味を示さなかったので、人間に対する警戒心はゼロだ。


見た目が可愛くて子供っぽいので少しかわいそうだが、


ペットになれば長生きできる。そう思い俺たちが近づいた時だった。


 目の前の大きな岩が動き出した。




ストーンゴーレムだ。こいつは体力と物理防御が高く、露原と相性が悪い。


「英島さん、頼みます」俺は黒魔導士の英島さんに魔法で葬ってもらおうと、


声を掛けたが、「あちちちち、ストーンゴーレムとカーバンクルが


パーティー扱いになってる。火炎魔法反射されたよ。


だから、肩に乗っているカーバンクルが邪魔で魔法が撃てない」



 英島さんはそう叫ぶとまったく期待していないのだろうが、露原に声を掛けた。


「何とかなるか?露原くん?」英島はそうおれの相方に声を掛けた。


 露原は即答した。「無理です!」


 即座にあきらめた英島さんは俺に声を掛けてきた。



「米原くんは、どうにかなる?」



「ペットでは難しいですね。スライムは打撃耐性ありますが、


ゴーレムには勝てません」



「ええー、絶望的・・・」



「はあ、もっと単純に倒せると思いますよ」



俺はそう言うと近くに落ちている小石をいくつか拾い上げて、


無防備なカーバンクルに投げつけた。



「スズメやハトだって、石を投げつければ逃げますよ。


ましてやヒットポイント 1 の即死確定の生物ですよ」



 俺が石を投げつけてカーバンクルが逃げ惑っているが、


徐々に数を減らし、すっかりいなくなった。


「英島さん、試しに水魔法とか撃ってみてください」



英島さんが中級範囲水魔法を放つとストーンゴーレムが何体か倒れた。



「よしっ、倒せる!」



元気よく英島さんがストーンゴーレムを全滅させないように釘をさす。



「ペット用に5体くらい残しておいてくださいね」



「あいよっ!」英島さんはそう言うと注文通り、ペット用にヒットポイントを


1割以下にしたストーンゴーレムを残しておいてくれた。


 さすがと言うか、それなりの熟練冒険者だ。



これで森を手入れする存在がいなくなって野生の動物やモンスターが


住みついたらカーバンクルもかわいそうだなと軽く考えつつおれは


洞窟に閃光弾を投げ込んだ。




 ウサギは恐怖を感じると精神ダメージで心臓が止まって死ぬことがあるそうだが、


カーバンクルは大丈夫なようだ。



 眩しさで目がくらみ、その場ですくみあがっていたカーバンクルを


籠の中に捕獲し、俺たちは実験、いや検証を始めた。



 この世界には継続ダメージを持つ魔法や薬がある。そしてそれらは


たいてい割合ダメージだ。最大ヒットポイントの10%を5回とかだ。


「徐々に回復」や毒がそう言う類だ。カーバンクルが全魔法反射を発動するのは


身を守るためだろう。そして、ヒットポイント1では即死なので回復の必要が


無いのだろう。ヒットポイント『1』のカーバンクルの


 毒ダメージは『0』か『1』か、これは賭けだ。おれたちは、カーバンクルを


優しく抱きかかえると、軽い毒薬、『ポイズンビール』を飲ませてみた。


 ダメージは『ゼロ』だった。それどころか、酔っ払ったように


カーバンクルはおかわりを要求してきた。



 今度は薬草を食べさせてみる。すぐに結果は出ないが、


交代制の不眠不休で、毒と回復を繰り返した。



「きゅ、きゅ~。」



 カーバンクルは苦しそうな声をあげている。



「すんません、だんな。」



「すんません、だんな。」



 何かの聞き間違いか?誰かいるのかとそう思いふと視線を下げると



カーバンクルの声だった。



大阪のおっさんのような口調でカーバンクルが話しかけてきたのだ。


「お前ら人間の言葉を話せるのか?」


「旦那は言葉がわかるんですかい!こんな非道な拷問はやめてくだせい。」



今にも死にそうな顔で懇願してくる。



「旦那は、わいら カーバンクルをテイムしたいんですよね。


それならいい方法があります。」


俺は続く言葉を催促した。


「卵から育てれば簡単にテイムできます。」


「苦し紛れの嘘じゃないだろうな。」


 俺は疑り深くカーバンクルを見た。



 露原には「きゅー」としか聞こえないようだが、相談してみる。



すると露原が言った。


「スラリンも卵から孵ったらペットになってたでしょ。


別にテイムしてなかったし。」



「それもそうだな。よしわかった。卵10個で手を打とう。」



「今から作ります。」



「しかし、いくら苦しいからって、我が子を売り渡すとわな。」



さすがの俺もあきれるくらいドライな精霊だった。



「買う側の我々が言っても説得力ゼロだな。」



 英島は冷静にそう言った。


 ちなみに、「カーバンクルの死体」は魔法を反射しない。


死体が反射するなら、盾や鎧の材料として乱獲され、


今頃、絶滅危惧種に指定されているだろう。




 薬漬けにされたカーバンクルは、目には見えないが


精神的な部分で病んでいるようで、


 ポーションを飲ませると「キュ、キューッ」などと鳴きながら、


膝の上に乗ってきた。どうやら心が折れて一時的にテイム状態になったから


話ができていたらしい。



 卵をもらった俺たちは草原に出てモンスターを狩ることにした。


 今回は範囲魔法を持つ英島が居るので俺たちはついていくだけの楽な戦いだ。


 200匹ほどゴブリンやオーガを狩っていると


カーバンクルの卵が孵った。全魔法反射の特性を持ったペットの


『カーバンクル』は見た目がリスっぽいので、『クレインズ』と命名し仲間にした。


飼い主の魔法は反射しないので、これから色々と


役に立ってくれそうだ。




ああ、『クレインズ』というのはこの群体の呼称で、


『クレインA』から『クレインJ」までいる。


俺のペットはスライム100体、ストーンゴーレム5体、カーバンクル10体、



それとスラリンだ。スラリンははじめに持っていた卵から孵ったので


オリジナル枠で特別扱いなようだ。



 とある日、俺と露原はビギニングヴィレッジに一件しかない安酒場にいた、


ビギニングヴィレッジに一件しか酒場が無い訳ではなく、


安酒屋は一件しかない、ここだけだ。




 当然、飲み食いの代金など、薬草採集をやめて野宿生活者の


俺たちに払えるはずもなく、代金は最近仲間になったあいつ持ちだ。




クレイン達はポイズンビールの魅力に取りつかれたのか


浴びるほど飲んでいるもちろん薬草も食べれば元気いっぱい。


増えた様子はないが理論上は最大ヒットポイントも増えるはずなので


推奨したいくらいだ。まあ、本物のビールもアルコールから発生する


アセトアルデヒドは毒物だし、クレイン達が中毒になるのも仕方がないか。





しばらく時間をつぶしていると、依頼主であり新しい仲間でもある、


「えいじま とよ」がやってきた。



 かの英島さんはさっそく極龍こと、ウルティメットドラゴンを乱獲する気満々だ。


ちなみに俺のレベルは五だ。レベルと言ってもスキルの平均値らしく


よくあるレトロゲームのレベルとは違う。某オンラインゲームのようなものだ。


ちなみになぜ守銭奴の英島を信用したかと言うと、英島が俺たちに約束した金額は


半端なものではない。失敗すれば破産状態、俺たちの仲間入りだ。


お金大好きな英島にとってそれは死に等しいだろう。




 この世界では装備品に何か制限がかかっているということはなく、


自由に装備可能だ。例えば「力三〇以上」とか「レベル五〇以上」とか


「戦士職」などと言う条件はない。ただ戦士が杖を持ってもカッコ悪いし


杖は木製で攻撃力が低く脆い。金属製のものは思いが丈夫だ。




そのため、高レベルの装備を揃えれば、それだけで強くなれる。


 ドラゴンからは龍燐やドラゴンの皮「ドラゴンハイド」が獲れる。


 噂に聞く、龍燐の鎧やドラゴンローブの材料だ。


 レベル三〇台の馬くらいの大きさの龍燐でも非常に強く、


稀少価値が高い。レベル二五五のドラゴンの龍燐やドラゴンハイドが


性能面でどのくらいなのかは想像を絶する。




 ウルティメットドラゴンの攻撃のうち、『ドラゴンブレス』や『咆哮』


『地鳴らし』は魔法扱いらしくすべて反射する。



 頻度は多くないが直接攻撃は黒魔法士の英島が『暗闇魔法』で何とかするらしい。



 どうしてもだめなら大量にいるスライムが犠牲になる計画だ。


 だから逃げ回って、直接、殴られなければいいだけだ。


 クレインの住んでいた森の奥に洞窟があったが、その先に縦穴があり、


上ったところにちょっとした平野があり、そこに目当ての


ウルティメットドラゴンがいる。素手で露原が縦穴を登っていき


上からロープを垂らしてきた。それを上って山の頂上を見上げる位置に来ると


それは見えた。想定はしていたが想像を超えていた。



 具体的なイメージを持たずにやってきた俺たちはただ茫然とそれを見上げていた。


でかい、ものすごくでかい。ジャンボジェットは生物ではないので平気だが


腹を空かせてよだれを垂らす巨大な猛獣には、ただ、ただ、恐怖を感じた。




ウルティメットドラゴンはそのアギトを大きく開くとおれたちの頭上を越えて


ここから直線で100キロメートルは離れているであろう連なる山脈を


『かじったリンゴ』のように吹き飛ばした。



「どこが雑魚なんだ!ボスだろ」



 俺は震える膝で座り込みそうになるのを抑え、じっと耐えていた。


英島はこんな光景を目にしてもなお、アイテムと金貨を大量に得るため


戦おうというのだ。ある意味、勇者の素質を持っている。



 ものすごい度胸で感覚のずれたやつだ。



「おぃおい、こいつと遣り合うのか?」



 露原はそういうと頭をポリポリと掻いていた。


こいつは、そういう部分は竜騎士らしく、ドラゴンには驚かない。


何せこいつはこれを乗り物として見ているようで、


自転車程度にしか思っていないのだろう。こいつも勇者の素養がある。



 お前はレベル15の槍戦士、スライム相手に無双できても、


スケルトンとは互角だろ、そう呟きながら、おれはペットのカーバンクルの


「クレインズちゃん」にすべての運命を託した。








投稿用に真面目に書いた初めての作品です。


面白いと感じてもらえたり


続きが読みたいと感じられた方がいらっしゃったら


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