きっかけ
「ぴぐー、ぴぐー」ひとなつっこい声を出しながら俺にすり寄って来る。
「ぴぐー」しばらく見ていた露原はやがて我慢できないというように、
ピンクのスライムをぎゅっと抱きしめていた。
レベルはまだ1だが仲間が1匹増えるのはうれしい。
しかも、薬草採取のみで卵を孵したためか、回復魔法が使える様だ。
露原も俺もこいつがいれば、戦闘しても赤字になることはないだろう。
俺はピンクのスライムに『スラリン』と言う名前を付けた。
スラリンの感覚は調教師である俺と共有されるらしく、
露原の感覚が伝わってくる。まあ、銅の鎧を着ているので
硬い鎧の感覚だが。
スラリンはムスメスライムと言う種類らしい。本人がそう言っている。
縦横10センチメートルほどで肉まんのような形だ。非常にかわいい。
「はぁ~今日も、薬草採集か~」
うんざりした声で俺が言うと、「文句言うな!お前が弱いからだろ」
ツユハラから罵声が飛ぶ。薬草はたいてい水際に生えている。
「スラリン~、薬草集められる~?」
「ぴぐ~」スラリンと一緒に川沿いに行って薬草を採集し始めた。
スラリンは薬草を食べらられるらしいが、集めるのは無理なようだ。
食べれば食べるほどスラリンの回復魔法が強化されるようで、
たくさん食べるように指示を出しておいた。
何故そんなことがわかるのかと言うと、スラリンは俺とだけは
意思疎通が可能だからだ。
ほかの人には「ぴぐ~」としか聞こえないが、
俺には何を言っているか理解できる。
スラリンが黙々と薬草を食べるかたわら、俺と露原は必死に薬草を集めていた。
俺はスラリンが回復魔法を使えるらしいことを露原に伝えると、
「うん、いいよ。私も半腰で薬草摘んでたら、腰痛がしてきた」
「ついでにそこいらのスライムを5~6匹テイムして仲間にしたい」
「いいね、それ」露原も賛成してくれた。
「スライムでも数がいれば戦力になるよ」
露原の攻撃だと1撃でスライムを倒してしまうため、俺が露原から
銅の槍を借りて、そこいらにいるスライムを適当に狩っていく。
うまく1割以下にできたらテイムする。
5匹ほどスライムをテイムしてスライムA~スライムEと名付けた。
スラリンの回復魔法はかなり強力で最大ヒットポイントの50%を
回復できる様だ。さらに魔法を使わなくても触っているだけで
1秒にヒットポイントが5回復する。
スラリンの体液は高濃度の薬草でできているようだ。
昼過ぎまで頑張って薬草採集した俺たちは、薬草をマーケットに出すため
始まりの村、正式にはビギニングヴィレッジに戻って来ていた。
表通りに出ると急に露原が歩く速度を上げ俺を引きはがしにかかる。
「お前のその服装はどう見ても乞食だ。一緒にいると私まで恥ずかしい。」
露原は痛烈な罵詈雑言を吐いて、おれから離れて前方を歩いていく。
俺の姿がみすぼらしいので仕方がないことは認めるが、
そこまで言うことはないだろう。
「早くまともな装備が欲しい。」
マーケットのコンソールに到着するとおれは少し離れたところで
露原を見ていた。
「よっし、登録完了っと!」
この星全体に張り巡らされているネットワークにアクセスして、
採集してきた薬草200束程度を売りに出した。
俺たちの唯一の楽しみはウインドウショッピングだ。
露原はこのあたりでは最強の、銅の鎧と銅の槍を装備しているが、
俺が戦力として役に立つのが分かったらしく、これからのことを考え
より強力な装備を探しているようだ。
マーケットのコンソールをいじりながら一人つぶやいている。
「たっかいな~、鋼鉄の鎧、金貨7万枚か~、とても買える値段じゃあないな」
「なあ、露原さん。露原さんの買い物の前に俺の服装を何とかしてください!
ずっと初期装備で耐久度もやばくなってきています」
「このままいくと裸です・・・」
露原はやるせない様子を表すかのように深くため息をついた。
「検索 5ゴールド以下 布製防具」露原が何となとなしに、そう入力すると、
「検索結果 1件 身かわしの服 3ゴールド」
おおっ、安い!
露原もそう思ったのか、すぐに購入ボタンを押した。
コンソールから出現したその服を受け取り、装備してみた。
涙が出るほどうれしかった。
もう乞食じゃない。
翌日、身かわしの服とスラリンとスライム5体を使った、
試験的な戦いをしてみた。当然のことながら相手はスライムだ。
のんびりと歩いている無防備なスライムにスライムAからスライムEが
体当たりを仕掛ける。ほぼ瞬殺だ。スラリンの回復の使いどころがないのが残念
ではある。レベルが5上がったところでいったん中止し露原に報告に行く。
「よかったじゃないか、私も肩の荷が下りたよ」
そうつぶやくと露原は宿屋の部屋に帰ってしまった。
ちなみに俺も露原の支払ってくれた宿代で、初めてベッドで寝ることができた。
木の板に藁を敷き、布をかぶせただけのものだが、寝心地はすごくよかった。
「ふぁぁああ~、よく寝た」俺は翌朝、いつもより早めに起きると
宿屋の食堂にいった。意外なことに露原はもうそこにいた。
俺が遠慮気味に向かいの席に座ると、無言で布袋を差し出してきた。
「2000ゴールドある。お前の取り分だ。今までありがとう」
「ちょっと、待てよ。取り分って何だよ!」
「1人立ちできたんだ、これからはひとりで生きていけ」
「ふざけるな、俺たち仲間だろ!」
俺が大声で怒鳴ると、うるさいとばかりに露原は耳を塞いでしまった。
身支度を整えた露原にストーカーのごとくついてく俺に
少しうっとおしそうに、少し寂しそうに薬草をとりに行こうとしていた。
そんなとき、ここ、始まりの村、正式には『ビギニングビレッジ』の
メイン通りを歩いていると突然真っ黒い姿をした、
一見して黒魔導士だとわかる人物に声をかけられた。
ドスの利いた声で話しかけているが、おそらく女性だろう。
投稿用に真面目に書いた初めての作品です。
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