極竜の裏切り
逃げたのは将軍と副官だけだ。逃げたというより
スラリンが逃がすように命令されていただけだ。
必死に馬を走らせながら副官ピレスは考えていた。
スライム1匹に全滅。そのまま報告すれば、
確実に敵前逃亡で死刑だ。生存者が2人いれば証言に
齟齬が生じる、仕方なく将軍ルクスを殺害した。
王都に戻ると副官ピレスは司令官のもとに報告に行った。
司令官は驚きのあまり声を失っていた。
「全滅だと・・・地方領主の軍がそれほど強かったのか?」
副官ピレスは真実を告げれば最低でも死刑、
そもそも、スライム1匹に敗北など帝国の恥以前に、
信用してもらえない。
「かの都市の近郊には強力な魔物がおり、その数約10万
奮戦するも将軍が戦死、この情報を持ち帰らねば、
帝国の存亡にかかわると考え、生き恥を忍んで
帰ってまいりました。」
「この命を持って償わせていただきたい。」
心では全くそんなことは思ってもいないが、
そう言う理由でないと納得して許してもらえないだろうし、
副官ピレスが生き残る方法がない。
俺たちはスラリンを探しに来た。五感共有があるので
俺には位置も何が起きたかもわかっているのであるが、
正直吐きそうだった。
倒れた木に鎧ごとつぶされて内臓が噴き出していたり、
炎で生焼けになって筋肉が露出しているのは正視するのが
つらい。そんなものが三千近くある。死屍累々というやつだ。
「きっさま~。」そう叫ぶと、竜騎士、露原いつきは
俺に殴りかかってきた。
「ふざっけるなぁ!いつからお前は死刑執行人になったんだ。」
「軍隊とはいえ人だぞ。人をモンスターみたいに殺して良い訳が
ないだろう。」露原は俺を殴りながら高尚にも説教をしてきた。
この馬鹿は、小学生らしい発言をしやがる。
俺はこいつを説得するのは無理だと理解した。
なので殴られるままだ。ほかの面々もスラリンの作った生き地獄の
痕を見せられた時は言葉を失っていた。
「ちくしょう、おれだけが悪いのかよ。」
納得いかないが、汚れ仕事だと思ってあきらめた。
「第一弾 終了か。」俺は言った。
このあと5万体の野生のモンスターの群れを作る仕事が
残っている。
英島が尋ねてきた。
「どの程度の期間、騙せると思う?」
「一か月が限界だろうな。敵の司令官がうその報告をしているだろうが、
どんなモンスターが何体いたかの内容次第だ。」
残りの連中は森の木を切り倒していた。
5万体テイムしてもリリースすれば野生のモンスターが5万体いるのと
同じなので、当然、無抵抗な一般人を襲うし、残ったら退治する必要がある。
問題は露原いつきだ。おれはともかく、露原は「正義の味方」だという
意識だ。我々が直接、敵兵を殺すわけにはいかないだろう。
だからこんな面倒なことをしている。野蛮な軍隊であっても、人間を一方的に
皆殺しにできない。少なくとも露原にそれを言えば怒り狂うだろう。
恐怖してもらって生かしたまま撤退、Uターンしてもらわねばならないのだ。
テイムするといってもアンデッドのような気味の悪いものではなくては
いけないだろう。
ジェノーヴァ帝国は俺たちの予想よりも早く行動に出た。
森の木を切り倒して凶悪なモンスター5万体はスタンバイOKだ。
「いつでもこい」俺はひとりつぶやいた。
俺たちは森の奥で山火事を起こし、エスタ軍80万に野生のモンスター
5万体をぶつけることに成功した。これで引いてくれるといいんだが。
だが、竜騎士・露原いつきの予想は外れ、恐怖して退却するどころか
強行突破をはかろうとしている。
俺の用意したモンスターはレベル20程度、それが5万だ。
レベル1から7程度の人間80万など一瞬で溶けるだろう。
だが、あのバカは予想を超えるバカだった。
ジェノーヴァ帝国の軍隊を守るために戦いだしたのだ。
1回の攻撃で千程度のモンスターが撃破されている。
考えている時間はない、用意したプランが白紙になる。
「グッギギ ガガ」
ドラキチは苦しそうにうめくと、口を大きく開けた。
その瞬間、極竜は竜騎士を喰らった。
首から上がない竜騎士の体は地面に落下し無残に晒された。
単独で上空にいたため油断したのだろう。
不意打ちだったためあっさりとしたものだった。
ウルティメットドラゴンが竜騎士の乗り物ではなく
俺のペットだということが完全に意識から抜け落ちていたようだ。
総戦闘値99億の極竜は俺の命令に素直に従った。一撃だ。
「ぉお、竜騎士様はあなた様方の御仲間なのですね。」
投稿用に真面目に書いた初めての作品です。
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