大魔王の新メニュー開発
(クックックッ…久しぶりじゃのぉ、勇者よ…)
威厳に満ちた声が脳内に響き渡る。
「その声は…大魔王!?」
(わらわの新たなる精霊の力、貴様にとくと見せてやろう…魔王城にくるがよい…)
ちょっと遠いから面倒だなとも思ったが、無視して脳内に呼びかけられ続けるのも嫌なので、魔王城に向かうことにした。
駅前から少し離れた所にある雑居ビルの一階、そこに魔王城は居を構えていた。
狭い店だが、定番を抑えた酒のラインナップと心の籠った料理、そしてなにより看板娘まーちゃんの気立ての良さが評判の、地元民を中心に根強い人気を誇る居酒屋だ。
準備中の札が掛かっているドアを開け、店内に入る。
大魔王は厨房の方で何やら作業をしていたようだが、ドアの開く気配に気づいたのか、声だけで応対してきた。
「ごめんなさい、まだ準備中なんですー。17時から開けますのでよろしくお願いし……来たか勇者よ!今こそ目に物見せてくれるわ!」
こちらの姿を確認して看板娘モードから大魔王モードに切り替わったようだ。
「で、今日は何なんだ?まーちゃん。」
「その名で呼ぶな!せめて大魔王と呼べ!……まぁいい、今日は貴様に精霊の力を宿した命の水を味わわせてやろう。」
「つまり…試飲会?」
返事の代わりにビールが注がれたグラスが4つ並べられた。
「まずは火の精霊の力を宿した”火ビール”じゃ!」
「アルコール度数高めか、空きっ腹に染みるな。」
「ストロング系が流行っておると聞いてな。」
「次に水の精霊の力を宿した”水ビール”じゃ!」
「火ビールとは打って変わって喉ごしも軽く飲みやすい…というか水で薄めただけじゃないだろうな?」
大魔王は目を逸らすだけで何も答えなかった。
「そして風の精霊の力を宿した”ビール風”じゃ!」
「ビール風…?」
「そう、何を隠そうポップも麦芽も使っておらぬのじゃ!」
…精霊は使役されてなさそうだ。
「最後に大地の精霊の力を宿した”地ビール”じゃ!」
「特徴がない…地味なビールだ…。」
ビールだけ4杯連続と言うハードな試飲会を終え、酔いが回りきる前に感想を告げる。
「精霊要素が薄いとか多少思うところもあったけど、概ねいいんじゃないか。」
「そうか!ではわらわの軍団に正式に加えるとしようぞ!」
かくして居酒屋魔王城に新メニューが誕生した。
精霊ビールを始めて数日後、魔王城に営業停止処分が下された。
酒税法違反だったそうだ。
「まさか闇ビールだったとは…」
なろうラジオ大賞が開催されていると聞き、折角なので滑り込みで投稿しました。
あまりにも煮詰まってなくて自分でもびっくりです。