前へ目次 次へ 67/71 初秋:いちじく まだ強い日差しを、吹く風の涼しさがやわらげる。 そうすると、いちじくの季節である。 私にとってはなじみ深い果物だ。 子どもの頃住んでいた家の庭には毎年、大きな実がなっていた。 ひと夏をかけてゆっくり、丸々と膨らみ、はじけて赤い部分が見えるようになれば、食べ頃である。 皮は柔らかくぐちゃぐちゃで、剥いてなどいられない。 たかっている蟻を吹き払い、そのままかぶりつくのだ。 太陽の光を吸い込んで熱くなった、とけるように甘い、やわらかな実。 もう食べるあてがないからだろうか。 今まで食べた物のなかで、一番美味かった気がする。