夏:サルスベリ
子どもの頃、母からよく 「橋の下でミィミィ鳴いとった子猫を拾ってきて苦労して人間らしく育てたのがアンタよ」 と、からかわれていた。
私はそのたびに、泣きそうになりながら反論する。
「ちがうもん!」
「どこが違うん?」
「耳!」
「あーそれはねー、整形手術してとってもらって、つけなおしたのよ。だからアンタは猫だったの」
「うわぁぁぁぁぁん!(号泣)」
このやりとりを母はかなり楽しんでおり、成長してからもしばしば 「アンタは、人間と猫の違いなんていくらもあるでしょうに耳しか思い付かないんだから、もう。めっちゃ面白かったわぁ」 と、懐かしがられていた。
と、なぜいきなり、花と何の関係もない話を始めたかといえば、ちょうどこの年齢の頃に、サルスベリという木があるのを知って、「見てみたい!」 と切望してたから。
サルが滑るってどんだけ。
妄想の中で、サルをたくさん滑らせて遊んでいた。
本物はこの街に来て、初めて見たのだけど、確かに、幹がものすごいツルツルである。
サル、滑る前に登らないんじゃ。
と、思いつつ、ついつい、花よりもまず幹に注目してしまう。
そしてなぜか、『耳』 のやりとりを思い出す。
懐かしいというよりは、心の底から大迷惑だったんだけどね!?
ところが最近、下の子に 「アンタはクマちゃんのヌイグルミみたいでかわいいなぁ」 というと、真剣な顔で、こう返されるようになった。
「ちがう!」
「え? そう? どこが違うの?」
「みみ!」 (めっちゃ真剣)
…… ああ。
かわいいわ (納得)
しかし、この 「みみ」 には、大人が考えるよりも、たくさんの思いが込められてるはずなので、今後、下の子にはなるべく 「クマのヌイグルミみたい」 とは言わないように気をつけようと思います。
サルスベリ、漢字で書くと百日紅。
こちらは白花ですが、ピンクのほうがそれっぽくて、いかにも暑そう。
夏の間中咲いてくれてるイメージです。




