春:ナガミヒナゲシ
道端などでよく見かける、かわいらしい朱色の花。
毎年、この時期に咲くことを忘れているので、たぶん毎年、「あー、アンタ今やったんか」 的な驚きを感じている。
子どもの頃から馴染み深い植物だが、当時、関心があったのは花よりもむしろ実の方だった。
熟して茶色く枯れたケシボウズをもぎ取り、手のひらの上で傾けるとザラザラと黒い砂粒のような種がこぼれ落ちる。
ただ、それだけの遊びである。
しかしその 『ザラザラ』 感が好きで、学校帰りに繰り返し種を撒き散らしながら歩いていた。
今どこにでも生えてるこの花はもしかしたら、そうした子どもたちによって広まったのかもしれない…… などと考えると、ちょっと楽しい。
同じく子どもの頃、このまだ青い実を集めて阿片を作ろうと試みたことが何度かあった。
宮沢賢治の童話で、ヒナゲシが悪魔に騙される話(『ひのきとひなげし』) に影響されたのだ。
ヒナゲシちゃんたちによると、「あたしの頭の青い実を傷をつけると、白い液が出てきます」。
んで、その白い液をかわかすと阿片になるんだそうだ。
こんな面白そうなこと、見逃すはずがないじゃないか。
結論をいえば、阿片は製造できなかった。
ナガミヒナゲシには麻薬成分はなく、青い実をどんなに傷つけても白い液なんて全く出てこなかったのだ。
使う気はないけど、作ってはみたい。
いや、もし、作ったとしたら、使ってみたくなるのだろうか……




