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秋:コバルトセージ
コバルトセージ。
冬に枯れ眠っていた地下茎は、初夏に芽吹き、夏に伸び、初秋から秋いっぱいかけて目の覚めるような鮮やかな色合いの花を咲かせる。
特に手入れもいらず、勝手に育ってくれるため、毎年の楽しみになった。
だがなぜか、この花が咲きだすと 「母に見せたかった」 という妙な感傷にも囚われる。
これには困ってしまう。母は私にとっては少々厄介な人だった覚えしかなく、あまり思い出したくないのだ。
――― いずれ、この花を見せる機会があることを、当然のように考えていたのに、その日は来なかった。
2度と来ない。
それだけである。
それだけのことなのに、私の中では誰に言っても満たされることのない 「これだけは成功だったわ」 という他愛もない自慢が、ぽつりと残されている。