2限目 限りなく透明に近い進路希望①
激しい閃光とそれに続けて豪雨のような銃声が戦場に駆け回った。
敵は瞬時に理解した。増援が来たと。閃光弾で目をやられ、十分に周りを確認できない者は近くの物陰に隠れたが、ほとんどの敵はこの戦場から離れた。
「ふぅ、なんとか間に合った。」
敵が視界を眩ませてる間に篠宮を救急キットで手当てを施した。今まで無茶な戦い方をして相当ダメージが蓄積されていたし、それに加え最後閃光弾で意識が飛んだんだろう。この状態だと2、3時間はログインできない。本当なら篠宮を抱え本隊と合流したいが、流石に敵地のど真ん中で負傷者を抱えて逃げるのは難しいか…………
一旦、篠宮を安全な場所に隠して、自分はあの人に助けを請おう。多分まだ近くにいるだろうし。その場から離れた矢先だった。
「おいおい、さっきはよくもやってくれたな兄ちゃんよぉ。」
流石に閃光弾の効果が切れ、物陰に隠れていた奴らが全員目が慣れてきた様子だった。
「悪気はないんだ。すまない笑」
こっちの引きつった作り笑いに相手も笑顔で返した。
「まだあの女すぐ近くにいるだろ?言ったら許してやるよ。」
どうやら彼女はまだ敵に見つかっていない様子だった。
「彼女ならウチの仲間が保護して本隊まで送ってる最中だよ。」
「嘘だな。さっき目を潰されて動けなかった時なんで殺さなかった?十分隙があったし数でゴリ押しできていただろ?」
見た目脳筋ゴリラに見えるが、かなり冷静な人だ。この状況だから多分何言ってもバレるだろうな。
「申し訳ない!今回だけ見逃して下さい」
両手を合わせながら笑って誤魔化そうとしたが脳筋ゴリラは満面の笑みで応えた。
「それは無理な相談だ。」
却下された。まあ、でしょうね。そうして相手が銃を向けた瞬間、ヤンは自分の目の前に閃光弾と音響弾を投げた。相手は自分に集中しているためモロにくらう人もいたが、やはりさっきの閃光弾もあってか警戒していた連中はとっさに腕で目を隠して防いだ。
「甘いぜ兄ちゃん。今からぶち殺し…」
そう言いかけた瞬間敵の真横にあった大木が突然倒れ敵のほとんどを潰した。さっきの閃光弾と音響弾はこちらに注意を向かせるためのフェイクで本命は大木を使って相手を潰す作戦だが、当然漏れる人もいるので、すぐにヤンは潰れなかった相手を両手サブマシンガンを換装させ一掃した。
「はあ終わったな、、、早く篠宮を連れてここを去ろう。」
そう独り言をぽつり言い、踵を返した瞬間だった。背後から殺気を感じた。
「おい、銃を下ろせ。」
まだ1人取りこぼしていた人がいた。おそらく声の感じから敵の班長だと分かった。
「すぐにぶち殺してもいいが、あの姉ちゃんの暗視ゴーグルが使えなくなる技術は厄介だ。居場所を吐けば2人とも捕虜にしてやる。」
「分かった。」
そう言い、銃を相手の足元のところに投げ、手を挙げた。
「まだアイテム持ってるだろ。全部出せ。」
用心深い。こちらが絶対反撃させないよう徹底していた。敵の班長はヤンが手放したアイテムを全て回収し自分の懐に入れた。
「ふん戦闘は狩り一緒だ。狩りをする時は必ず殺すまで徹底することだ。窮鼠猫を噛む、覚えておきな若造。」
そう言って敵の班長はヤンに近づこうとした時だった。班長の足元からワイヤーが現れ、そのまま体を吊られる状態になった。
「どういうことだ!」
「昔からよくある害獣を捕まえるトラップですよ。武器を放棄する時、僕の足元ではなくあなたのところに投げた時点で気付くべきでしたね。」
圧倒的にピンチの班長はなぜか余裕の笑みをこぼした。
「だが、ここまで追い詰めたわいいが君に武器はないだろ。すぐに追手を差し向けるよう連絡し……」
「たしかに武器は全部没収され手持ちのアイテムは全部空です。だけどあなたが僕の妄想通り動いてくれて助かりました。」
ヤンはそう言って地面を掘ってRPGを取り出した。
「おい、何でそんなもんがあるんだよ。」
「自分が丸腰になった時用で点々と武器を地面に埋めてるんですよ。」
そしてヤンは班長に向け照準を定めた。
「自分もあなたに一つ言っておきたいことがあるんです。狩りは獲物を狩る瞬間が一番不用心なんですよ。」
平尾校との戦闘は右翼が善戦し、その後相手の中央前線の側面から攻撃することができた。その結果半包囲の形になり、その後相手が撤退。それから両校睨み合いのまま終結、そして翌日図書館でゲーム実況動画を眺めて今に至る。
ほんの数年前まで、こんな人生送るなんて想像しなかった。28歳まで郵便局配達で365日社畜の人生で、生きたいように生きれない人生を歩んでいたが、ベーシックインカムと模擬戦争学園バトル、通称“戦学”には頭が上がらない。ベーシックインカムは割愛して、戦学とは政府が推進している擬似戦争シミュレーションである。昔から戦争は開発の母と言われているから世界各国が掲げているSDGSや我が国のムーンショット計画など様々な課題や目標があるが、それを達成、解決するためにこのシミュレーションを通じて先ほどの課題や目標のヒントを見つけようという魂胆だそうだ。その代わり選挙権が与えられている満18歳以上の成人は毎日1時間以上戦学にログインしないといけない法律がある。まあ、お偉いさんの考えることは凡人の僕からすると到底理解が及ばないけど、世間ではこのゲームのおかげで退屈しのぎにはなってるみたい。ただ野良の自分はチーム戦は向いてないから戦時中はクソゲーだけどそれ以外の平穏な毎日なら、このままこのゲームの中で人生終えてもいいかもなんて思い老けていたら通知が来た。
『校舎裏に来て。』
こんなラブコメでしか見たことがないテンプレの文章を見て頭がお花畑のリア充だったら罠にかかっていただろう。人生経験豊富の私ヤンは差出人が篠宮を見てすぐに察した。昨日の件いろいろ問いただして来そうな感じがする。もう一周回って果たし状にすら見えてきた。絶対面倒なことになるからこれは見なかったことにしよう。そのまま図書館で動画の続きを見ていた。それから5分後に私の目の前に篠宮が腕を組んだ状態で立っていた。
「昨日もありがとう♪」
顔は笑顔だが目は明らかに殺気を飛ばしていた。
「なんのことかな?」
「あらー忘れたのかしら?あの閃光弾前から仕込んでたよね?」
「僕がやった証拠はあるの?」
「まだ森に隠してた閃光弾からデータを見たら所有者は君の物だったよ♪」
めちゃめちゃ誇らしげにドヤっていた。
「つまり君はあの一帯だけトラップを仕掛けていたのね♪ただ分からないのはなんで君は2回も私を助けたのにそれをひたすらに隠すのか♪」
「結果的に君を助けたけど、もともと味方の部隊が容易に戦場から撤退できるように事前に仕込んでおいたものなんだ。特段お礼してもらいたいとかないからあえて黙ってたんだよ。」
今言った発言は本当のことなんだけど、今回の助けた件を掘り下げられると自分が別件でたまたま2回も君のピンチ出会して助けたハメになったから正直この話を切り上げたい。。。しかし僕の意にも介さず彼女は言った。
「なるほど、分かったわ♪ただ、あなたに2個借りができたのは既成事実ね♪」
篠宮はビシッと人差し指を自分に向けた。
「君に貸しを作ったつもりはないから忘れてくれ。」
「それは無理な相談ね♪科学と義理だけはきっちりかっちりしておきたいの♪」
強情なひとだな。もう適当でいっか。
「じゃあまた閃光弾と音響弾作ってほしいな。」
「えぇー、いつも作ってあげてるでしょ!なんか恩を返した気がしないから別のにして!」
彼女は口を尖らせてプンスカ怒っていた。
「んー、思いつかないから、また今度言うよ。」
「じゃあ、ご飯奢ってあげる♪あなた現実世界はここの近く?」
「そうだけど、別にいいよ。あと、わざわざ現実世界で顔を合わせるの嫌なんだけど…身バレしたくないし。」
「別にあなたの正体はどうでもいいわ♪借りさえ返せたらいいの♪」
あれっ。借りを返すってこんな一方的だっけ?
「じゃあ19時に食堂集合ね。」
そう言って彼女は上機嫌に退出した。