1限目 長い坂の上にある校門を抜けるとそこは戦乱であった①
春のうららかな昼下がり、図書室の外から陽キャたちが校庭で飽きもせずはしゃいでいる声が聞こえる……もうすぐ戦争が始まるのに。
これが本当に命を懸けた戦いが始まるなら彼らも呑気に校舎で仮想現実スマブラごっこなんてやってないと思う。ただこの世界はゲームだから命の価値なんてその辺の砂利と同価値。もっと例えるなら今まで遊んだスーパーマリオで死んだ回数なんて誰も覚えてないのと一緒。それが当たり前の日常でこれから始まる戦争も特に不安や絶望を抱いてるプレイヤーは皆無だろう。略奪、殺戮、凌辱etc……現実世界では味わえない興奮をここで堪能できる。しかし残念ながら校内最低カーストに位置する自分は仮想現実でも餌食なる側の人間だ。お察しの通り戦う能力も才能も持ち合わせていない自分はこうやって端の方で1人アニメ、漫画、オフラインで楽しめるRPG……あと自作の俺TUEEEEEEの妄想とかして死ぬまでの時間潰しをしているのである。そうこうしているうちに時間が迫っていた。
「そろそろ準備をするか」
そう席を立とうとした時、自分の背後に女の子が立っていることに気づいた。
「昨日はありがとうヤンさん♪」
笑顔で近づくその女の子は150センチくらいの身長で白銀色のショートカットに、吸い込まれそうな青い瞳。長岡校専用のブレザーの制服を、っていろいろ説明したところで百聞は一見にしかず、見た目は端的に言うとラノベの『たんもしシリーズの○エスタ』を思いっきり意識してキャラデザした女の子が自分に話しかけてきた。
そしてこの女の子は先週の席替えで同じ53班なった科学部所属の篠宮だ。知り合ってそんなに経っていないのでこの子のこと全然知らない。そしていい歳したおっさんだが、女子との距離の縮め方も知らないのでそのまま撤退しよう。
「お礼なんていいですよ。同じメンバーですし。では失礼します。」
とりあえず、無難に大人の対応してその場から離れようとした時だった。
「待って、あなたに聞きたいことがあるの♪」
んー、早く帰りたい。
「……この後用事があるから手短にお願いします。」
すると彼女の目つきが変わった。
「あの時私を助けたのは計算だったのかそれとも偶然だったのか。返答次第では私の仲間にしてあげるわ♪」
昨日の昼、戦闘中に鴻巣山回廊で一人怪我で動けなくなった篠宮が敵の弓道部に狙われていたので、篠宮と弓道部の間に大樹を切り倒し、射線を遮る形で救助したのである。
まあ助けたのは同じグループのメンバーとして当然のことをしたから別にいいとして今、篠宮が言った仲間にしてあげるってもう既に同じ班なのに仲間とはどういう意味?えっもしかして、もう仲間はずれになってたのか?あれか、昔のラノベでいうところの追放系モノが自分の知らない間に展開しているのか?とりあえず質問の意図を聞かなければ……
「今の質問はどう言う意味?」
「まずは私の質問に答えてくれるかしら♪」
とりあえず答えないと話しは進まないらしい。
「いや、偶然だよ」
そんな自分を篠宮は一瞬怪訝そうな目で見たがすぐに普段のおちゃらけた雰囲気で答えた。
「そう、ならいいわ。あと、あなたが頼んでたモノ出来たわよ♪」
そう言い、僕に渡した後彼女は立ち去った。
内心緊張して今までの発言の内容に不備がないか心配だった。
はぁ、さっさと支度をしよう。
pm.9:00鴻巣山の山頂付近で戦闘開始。
我が長岡校は真後ろに鴻巣山があり、その山の反対には平尾校がある。半年前くらいに不可侵条約を結んで一時期平和で戦争なんて起きるわけがないと思っていたんだが……
この鴻巣山には山頂を挟んで南西側に1箇所、北東側に1箇所展望台があり、その山の中に山道が1本通っている。この回廊付近で今月で2回戦闘が発生。そして今回で3回目の戦闘に突入したのである。
どんどん緊急通知のSOS信号が届く。
第一防衛ラインが突破され、さらに第二防衛ラインの中央部隊が押されてる。特に下級生が死地に出されバタバタやられている。また敗戦確定か、流石に展望台まで陣地取られたらこの戦争の勝敗が決まる場面。こっちの第二防衛ライン右翼部隊は膠着状態に陥り、そろそろ動かないとこの戦争自体決着がつきかねない事態でもあった。あの剣道部エースのショウマさんも倒されてもう誰もが敗戦濃厚だとそう思った刹那、あり得ないものを目にした。自分の背後から大量のドローンが編隊を組んで前線へ滑空していったのである。今日ネットでは攻略サイトがあるから有効な作戦はもちろん武器や乗り物など軍事技術はだいたい出回っている。したがって軍事ドローンを戦場に導入する機会が増えた一方で、だいたいの学校はその対策としてドローンガンの応用つまり妨害電波を展開している。
なのにドローンなんてこの山の中妨害電波だらけなのになんで飛んでいるんだ……
そう戸惑っていたところ聞き覚えのある声がまた背後から聞こえた。
「あら、まだこんなに手をこまねいているのかしら♪」
軽装備の篠宮がしたり顔で仁王立ちしていた。
アホだ。そんな堂々と戦場のド真ん中にいたら集中砲火食うぞ。
そう思っていたのに敵は篠宮を正確に撃てず、頓珍漢な方へ撃っていた。相手は暗視ゴーグルを着けているのだから容易に攻撃ができるはずなのに。敵の隙が生じてる間に篠宮はマスケット銃で連続倒して行った。
私に続けー!!その掛け声に応えるように篠宮に続いて味方の剣道部や弓道部も突撃して行く。そして置いてかれる自分。今まで何も打つ手がないこの均衡を破ってくれるのは助かる。まあ助かるのだが、班行動してくれ。もう何回転んだことか。足場が悪い、辺りが見えないのによく猛ダッシュできるな(呆れ)。おかげでHP1/15削れて捻挫のデバフが追加されたわ。自分はどちらかと言うと武官ではなく文官寄りなタイプなので、つまるところ運動音痴だからもうちょっとゆっくり行ってくれー!そんな思いは届かず篠宮は猪突猛進で戦場を駆け抜けて行った。正直あんな軽装備ですぐに返り討ちに遭うかと思いきや相手をどんどん撃破し前線を押し上げていた。あいつも科学部だから文官寄りじゃないのか。天はあいつに二物を与えてキャラ濃くしてどうするんだよ。途方に暮れていたが篠宮は死体のアイテム回収せずに突っ走ったもんだから周りにゴロゴロとアイテムが散乱していた。どうやら天はアイテムを与えてくれたみたいです。
そんなこんなで篠宮の奮闘も虚しく当然返り討ちに遭う。善戦はしているが徐々に後退していく。あんなに大立ち回りしていた篠宮も苦戦し後退。最初のいた前線より100m後退した。ここまで平尾校が磐石なまでに強い理由はやはり一人ひとりの圧倒的な戦闘力の高さだ。兵数、武器や装備の性能、物資も恐らく全て互角だと思われるが、やはり相手の学区には現実世界の市内で唯一の警察学校があり、そのチームが組んだ“白虎隊”の戦闘力いわゆる熟練度は折り紙付きというのは聞いている。またさらにその白虎隊ではない一般兵ですら、こちらの猛攻に怯まず、恐ろしいくらい冷静で、なかなか倒せないのも現状である。今回の戦闘で白虎隊は出てないと報告で聞いていたが、自力の差が出たのか篠宮の奇襲もなんなく対応して撃破。そこからズルズルと前線を押し返されてしまった。
ここ最近平尾校の生徒会が変わってから軍事開発に多額の投資しており、暗視ゴーグルしかり軍事ドローンの導入を積極的に行なっているらしい。まあ実戦で試したいのはよく分かるが、宣戦布告なしに奇襲とは本当に卑怯極まりないと思う。他の学校がそれを良く思わないし、ヘイトが集まるが、裏を返せば平尾校はこの一帯の学校を潰せる自信があるのかと思うと末恐ろしい学校である。まあ、実際あの“白虎隊”はかなり脅威であるのは事実、我が長岡校は開戦からずっとあの山を越えられず、ずっと連戦連敗。こちらの生徒会もいろいろ試行錯誤して対応はしているみたいだが……やはり白虎隊の戦力差を埋める方法として「兵力」、軍事技術の「基礎研究」、そして「物資」である。この3つのうちどれか一つでも秀でてるものがあれば、それは大きなアドバンテージであり、また戦時中でなくても「兵力」、「基礎研究」、「物資」が外交カードとして利用できるのだが、うちの学校はあの“白虎隊”に対抗できるカードがないのである。そりゃあまあ負けるよね。
いろいろ市内の学校情勢を語ったが、今現在の戦況をソナーで確認したところ第二防衛ライン右翼部隊も壊滅的被害を出しており、一旦後退して体勢を改めている状況である。図書委員の自分の見地から言わせてもらうと人員も物資も不足しているためさらに後退して第三防衛ラインと合流するのがベストだと思われる。一応ダメ元で学級委員長に後退の合図を右翼全部隊に送るよう打診すると、さすが前時代の名残りが垣間見える返信
『ピンチこそチャンスだ!必ずこの前線を維持しろ!絶対無理ってことはない!士気があれば何でもできる!』
ブラックパワハラ学級委員長に打診したこと自体そもそも間違いだった。物理的に厳しいから定石通りでいくと物資の配給、増援を打診したのに士気で盛り返せって図書委員の存在意義ないじゃん………。あぁ、まさかここでも鼻つまみ者のスキルを発動するとは。自分にもっと学級委員長を説得させる交渉力とか普段から親交があって信頼される力があれば……。
もう別にいいや…………。そんな感じで思い老けていたら一通の通知が届いた。
篠宮は現在、最初の前線の位置にいた。近くに味方がいない孤立無縁の状態。誰か応急処置してもらわないと、、、肋骨が数カ所、左腕も折れてる、右足はもう動かない。このゲーム痛みや疲労はないが、怪我するとその度合いによって動きが制限される。ようやく安全そうな大木の洞穴に身を隠して救援SOS飛ばし待機した。アイテムからマップを広げ味方の前線の位置を確認したが、10分、20分と時間が経つにつれどんどん味方の前線が後退していった。もう救助に来てもらうのは絶望的と悟った。そしてさらに、絶望的な状況になった。敵に発見された。
「おい姉ちゃん、さっきはずいぶんやってくれたねえ。」
平尾校の部隊15人が篠宮を囲み、敵の班長らしき人物が篠宮に話しかけた。
「さっきまで俺たちの暗視ゴーグルの視界に白いモヤが映り込んでいるんだけど、どうやったの?」
不敵な笑みで彼女は口を開いた。
「なんでドローンが飛んだのかは聞かないんだ♪」
「ああ、ドローンは俺たちの専売特許だから飛んできたのは驚いたが、まさか原始的な有線を繋いでいるなんて逆に思いもしなかったよ。しかも途中有線が限界で立ち往生して返り討ちにあうってもう少しどうにか出来なかったのかよ笑!まあ本題に戻ってあのモヤの方を答えてもらおうか。」
「白いモヤの方は企業秘密♪」
敵の班長もやれやれといった様子で言った。
「まあこの件に関しては多分この女は口を開かんだろうな。捕虜にするぞ。」
「あなた達モブには無理ね♪こういう展開は私に返り討ちにあって踏み台になるのがオチよ♪」
苦笑いしながら言った。実際もうこれ以上時間稼ぎはできないみたいね……一点突破は難しいし、もうすでに手足が損傷し、回復アイテムを持ち合わせていない。もう負けるのは確定してるわけだからせめて、数を減らしてやる。最後の力を振り絞り、アイテムから自爆用の爆弾を出した瞬間だった。
激しい閃光が目の前に光った。その時気づいたのであった。昨日の昼なぜ彼が早く大樹を切り倒すことが出来たのか、そしてこの閃光も…私は気絶され、後のことはよく覚えていない。
すみません処女作がゆえに文が無茶苦茶だと思います。ご指摘も含めて感想、レビュー、ブクマ、評価、待ってます!!