我が逃走②
血の海の中にいる清水にシスター歩み寄り、銃を向けながら話した。
「俺さー、いまいち共感できないんだよねー。」
清水はうつろな目でシスターを見ていた。
「○ンパンマンに出て来る無免ライダーとか○ヴァンゲリオンの碇○ンジとか、あと毎年初戦敗退する野球部とか。絶対勝てないって自覚してるし、結果も見えているのに立ち向かうって馬鹿だと思うんだよねー。君も最初からこの結果が分かってて突撃したろ?意味分かんないよ。」
「俺も最近まで意味わからなかったよ。」
ぽつりと呟いた。
「でもようやく理解したんだ。意味はなくても、やったことに価値はあると。今まで逃げ続けてきた無価値な人生をあの人たちは肯定してくれた。あの人たちに出会わなかったら俺はまた逃げてと思う。でも今日、俺の【回避】で障害を乗り越えろと言ってるんだ。」
「ヤンと篠宮がそそのかしたのか笑」
「あいつらじゃない。俺の魂がそう囁くんだよ!」
そう言って清水はシスターの腕を掴み部屋の奥の方に向かって巴投げで投げ飛ばした。そしてすぐ隙をついて外に逃走した。
クソっ、あいつ瀕死じゃなかったのか。シスターは清水の血を触って確認した。これは血じゃなく、血のり……だとしたら防弾ベストも着用しているか。最近の装備は知らないのに防弾ベストだけはしっかり着てるんだな。。。
危なかったー。まさかニートの呼吸伍の型 仮死状態が見事に決まるとは思わなかった。まあ姐さんの防弾ベストと自前の血のりが功を奏したけど、姐さん軽くて丈夫な防弾ベストお願いしたのに銃弾の衝撃全然吸収してくれないじゃん!!
まあ防弾ベストならぬ防弾全身タイツのおかげで太ももも損傷しなかったのは認めるしかない。そしてそのまま清水はまたジグザグと市街地を駆け抜けた。
シスターは先ほどと同様、上空に上がって清水を捕捉した。あの野郎、さっきと言ってることが違うじゃねーか。そうイライラしていたが、清水の向かっている方向を見て勝利を確信した。
清水はがむしゃらに走った。どうやら撒いたか、そう思った矢先だった。
「甘かったな」
シスターは上空から清水のもとに着地し立ち塞がった。
「お前、ここをどこだか分かってないようだな」
そう、ここは公園で完全に開けた場所だった。
「もうお前の隠れる場所はねえぞ。」
そう言いシスターは警棒を取り出した。防弾ベストを着ている相手にわざわざ弾を消費するのはもったいないし、清水程度なら近接戦闘は勝てるそう判断したものだった。それに対して清水は素手でファイティングポーズを取っていた。
「おいてめー、武器はどうした。」
シスターは尋ねると清水は答えた。
「素手喧嘩で十分」
そう言って清水はシスターに走って向かった。それに対応するようにシスターも清水の頭をかち割るように警棒を振り下ろしたが、清水は避わしそのままシスターを通り去り逃亡を図った。
「逃すか!!」
シスターは立体起動装置ですぐに清水を肩を掴んだ。その瞬間だった。
「待っていたぜ、この時を。ニートの呼吸漆の型 強制脱出」
そう言って彼は上に羽織っていたパーカーだけ脱ぎ脱走した。そのまま市街地の方に逃げず、踵を返して地面に膝をついた。
これで最後だ。ニートの呼吸終の型 土下座
彼は命乞いをした。
「申し訳ございません。もう走る体力がありません。ポイントあげますので見逃してください。」
「それを受け入れるバカがいるかー!」
そう言ってシスターは清水の顔を蹴り上げ、そのまま馬乗りになって言った。
「ここまで私を手こずらせやがって。簡単に死なせると思うなよ。」
そして一方的に殴り続けた。
目も腫れ、鼻も歯も折られた。顔パンパンになっていた。殴ってた本人ももう息が上がり最後銃を突きつけた。
「最後は眉間にぶち込んでやる。」
そう言い、引き金を引こうとした瞬間だった。
「おい、そこ何やっている!」
見知らぬ声が聞こえた。そこに目を移すと平尾校の制服を着た風紀委員だった。
「今すぐ彼から離れろ!」
なぜ風紀委員がここに……まさかここは平尾校の学区だったのか。
「ようやく気付いたな。そうだお前こそこの場所を把握してなかったな。ここは平尾校目の前にある平和中央公園だ。」
あそこまでジグザグに走っていたのは方向感覚を鈍らせ、ここまで悟らせないようにしていたのか。
ようやく理解が追いついたシスターに風紀委員から銃を突き付けられ言われた。
「おい、何してる君!今すぐ敵から逃げなさい。」
だが、今の風紀委員の連中わざわざ俺たちを一網打尽にすればいいのになぜ離れろと言った。それにさっきから風紀委員の連中の言っている内容もチグハグで違和感を覚えた。
しかし彼の疑問も清水に視線を移してすぐに理解した。彼はなぜか平尾校の制服に換装していた。そして清水はシスターにボソッと耳打ちをした。
「さっき民家の中を走り回っていた時にアイテムボックスの中に制服があってね。しっかり拝借させてもらったよ。」
あの時か。ようやく理解が追いついた頃に平尾校校舎から続々と風紀委員が応援に来た。
もうこうなったら清水を諦めて逃げよう。シスターは風紀委員の体を跳ね除け立体起動装置で逃亡を図ろうとしたが、ガス欠で上空に逃げることができなかった。
馬鹿な。そんなにガスを消費してないはず。そう思い、ガス噴射器に目を移すと小さい穴が開けられガスが漏れていた。その瞬間シスターは気付いた。家の中で清水がタックルをして体を締めていた時に同時にアイスピックのような物で開けられていたのかと。そこまで距離を稼げなかったためすぐに風紀委員に包囲された。
ニートの呼吸参の型 おとり作戦
【回避】 × 【戦術眼】の化学反応が上手く作用したな。
そうして彼は平尾校の生徒の中に紛れてその場を立ち去った。




