偽りの幸せ
誤字報告ありがとうございます。大変助かりました。
花火大会の日の告白から数日が過ぎた。あれから特に関係が変わるといったこともなく、若葉は前と変わらずに接してくれている。
一つだけ変わったことと言えば、若葉が出かけることが多くなった気がする。前までは、一緒にゲームをしたり、家のことを一緒にしたりと一日を過ごすことが多かった。もちろん、若葉にだって予定があるはずなので、僕が何か言える義理はない。全面的に若葉に甘えてしまっていると自覚はしている。
「今日は若葉これないのか」
メールを確認してそう思わず呟いてしまい、自己嫌悪に陥る。若葉が気持ちを伝えてくれたのにその答えを保留にしている僕が何を言ってるんだと思う。
そうだ。気分転換に久しぶりに駅前のゲームセンターへ行こう。ストレスが溜まっていた時などによく行っていた場所だ。ここ最近は行ってなかったから何か新作が出ているかもしれない。
――
やっぱり、まだまだ暑いな。コンクリートからの熱と直射日光がつらい。早くクーラーがあるところで遊びたいね。文明の利器すばらしい。
駅前に着くと思ったよりも人が少ないことに驚いた。みんなどこかへ旅行に行っているのだろうか? そんなことを思っていた僕は、見知った顔を見かけた。
「若葉だ。誰かと待ち合わせしてるのかな?」
若葉に声をかけようとしたが、次の瞬間には固まってしまった。
「シンくん……?」
どうやら若葉が待っていたのは、シンくんだったようだ。二人だけで待ち合わせしてどこに行くんだろうか。
少しその場で話していた二人は、そのまま商店街へ向かって行った。僕はその後を少し離れて追いかけた。完全に声をかけるタイミングを失ってしまった。
二人は楽しそうに喋っている。どんな話をしているのだろうか。
それよりもどうして僕は誘われなかったんだろう。少しだけ胸がざわついた。
話に夢中になっていた若葉は、前からきている歩行者に気づいていない。
歩行者に気づいたシンくんが若葉の肩を掴み引き寄せていた。シンくんが若葉に何か耳打ちしている。
何かを聞いた若葉は顔を赤くして怒っている。でも、本気で怒っているんじゃないと分かる。シンくんはそれを見て、にやにやと笑みを浮かべ若葉をからかっているようだった。
傍から見ると二人は完全に恋人同士のように見える。
何だこれ? 若葉は僕のことが好きなんじゃなかったの? どうしてシンくんにそんな顔を向けているの?
若葉とシンくんが二人で喋っているところは何回も見ている。でも、いま見ているのはいつも喋っている雰囲気とどこか異なっていた。
若葉とシンくんはカフェに入っていった。二人が窓際の席に座ったことを確認すると、僕はカフェの目の前にあるファーストフード店へ入る。二階の窓があるカウンターの席に着いた。
二人の様子を観察していると真剣な感じで話していると思ったら、急に若葉が顔をほころばせた。
若葉のあんなとろけたような顔は見たことがない。頭の中は疑問と困惑で埋め尽くされている。
抱えていた頭を上げて再び窓を見たときには二人の姿はなかった。
「え!? いつの間にいなくなった!?」
思わず椅子から立ち上がってしまった。驚いていると時計が目に入った。
店に入ってからすでに一時間半ほど経過していた。僕にとっては一瞬の出来事だと思っていたが、かなり時間が経ってしまっていたらしい。
いつ二人が出て行ったかも分からない。今日は一旦、家に帰ろう……頭を整理したい。
――
気がつくと家に着いていた。正直、お店から家に帰るまでの記憶がない。
ソファーで呆然としていると玄関の扉を開ける音が聞こえる。
「トモ兄ー。夕飯作りにきたよ」
若葉の声にびくんと異常に反応してしまう。廊下の方へ顔を向けると若葉がリビングへ入ってくるのが見える。
「どうしたのトモ兄? 何だか顔がずいぶんと真っ青だけど……風邪?」
「あ、ああいや。大丈夫だよ。少し気分が悪いだけだから」
「そうなの? 今日は消化にいいものにしようか?」
「う、うん。ありがとう」
上手く言葉が繋げない。心臓がばくばくとして痛い。
聞いちゃいけないと分かっていても、確認せずにはいられなかった。
「ね、ねえ若葉? 今日はどこかに行ってたの?」
「うーん? どうして?」
夕飯の支度をしながら若葉が返事をする。
「あーいや。誰かと遊びに行ってたのかなって?」
「そうだよー。友達と遊びに行ってたんだよ」
若葉は不思議そうな顔をしてくる。と思ったら、何か思うことがあったのか意地悪そうな笑みを浮かべてくる。
「あーもしかしてトモ兄、やきもちやいてるの? 最近は一緒にいれる時間が少ないからって、可愛いー」
「なっ!? べ、別にそんなんじゃないし!」
若葉はいつも通りだ。いつも通りすぎて逆に不気味に感じてしまった。
「そう言えば、シンくんと最近遊んでないけれど、忙しいのかな?」
「んー? シン兄はわたしも最近会ってないから分からないかなあ」
……隠した?
僕は見ていたよ。若葉はさっきまでシンくんに会ってたでしょ?
そう言葉にする勇気は、僕にはなかった。
「そ、そうなんだ。後でちょっと連絡してみようかな」
「それがいいと思う」
すごく居心地が悪く、この場にいることができない。
「ちょっと、気分が悪いから少し部屋で休んでくるね」
「分かった。できたら呼ぶね?」
「うん。ごめんね」
僕は胸のもやもやを抱えながら二階にある自分の部屋へと向かった。
しばらくベットに横になって、ふと携帯を手にとる。シンくんへ連絡するためだ。
何コールかした後に携帯越しにシンくんの声が聞こえる。
『どうした、トモ?』
「あ、ああ。ごめんねシンくん。いま忙しかった?」
『いや、大丈夫だぞ。何かあったか?』
「最近遊びにきてくれないから、どうしたのかなって思ってさ」
『あー。ごめんなトモ。最近は、少し忙しくてさ。また時間できたら連絡するわ』
「うん、分かった。忙しいのにごめんね?」
『いや全然大丈夫だぜ。むしろ連絡あんがとな』
シンくんもいつも通りだ。シンくんなら答えてくれるかな?
「……シンくん。今日さ……何してたの?」
『今日か? 今日はずっと家にいて、勉強してたぞ? それがどうかしたか?』
「え……いや、何でもないよ。勉強頑張ってね」
『おう! あんがとな』
またねと言って電話を切った。
……シンくんも隠した? 二人して何を隠してるの……やましいことがないなら言ってくれればいいのに……僕に知られたらまずいことなのかな?
考えがまとまらない。二人と話をして、さらに困惑した。
「トモ兄ー! ご飯できたよー!」
一階から若葉のそんな声が聞こえてくる。とりあえず、一階に降りようか。
「トモ兄、体調は大丈夫?」
「うん、心配かけてごめんね。少し休んだら、大分楽になったよ」
若葉は心配そうな顔をしている。僕を気づかってくれているようだ。
いつもは美味しいはずのご飯も今日だけは何の味もしなかった。胸がすごくもやもやする。
「トモ兄、もしかして美味しくなかった……?」
そんな僕を見た若葉が不安そうな声をあげる。
「いやそんなことないよ! 美味しいよ! ちょっと考えごとしてたんだ。ごめんね」
「そうなの? やっぱりトモ兄今日ちょっと変だよ。元気ないし」
それはそうだよ。二人が僕にうそついてるんだから。
「まだ、体調が悪いのかも。明日にはきっとよくなってると思うよ」
「ならわたしがトモ兄を元気づけてあげるね」
そういって若葉はおかずを僕の口の前に差し出してくる。
「ほら、美少女からのあーんだよ? 嬉しいでしょ?」
「自分で言っちゃうんだ……」
「いいから食べてよ……結構、恥ずかしいんだから……」
「う、うん分かったよ」
若葉は耳まで真っ赤だ。恥ずかしいならやらなければいいのに……
でもそんな若葉を見ていたら胸のもやもやが晴れてきた。単純だなあ。
きっと二人は何かしら事情があったんだと思うことにした。
僕は二人を信じてみたいと思う。大事な幼馴染だから。
二十話以内には完結できると思います。




