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花火大会での決意と約束

本日も執筆できました。移動時間は偉大です。

「なあ、トモと若葉よ」

「どうしたの? シンくん」

「何ー? シン兄」


 今日は、シンくんが僕の家へきている。もちろん若葉もきている。

 今はちょうど、お昼ご飯を食べ終わったところだ。


「今日の夜にさ。花火大会があるらしいんだわ。三人で行こうぜ」

「え!? 花火大会なんてやってるの!?」

「何をそんなに驚いてるんだ? この時期ならあってもおかしくないだろう?」


 若葉は何を驚いているんだろう? シンくんの言う通り何もおかしくないでしょ。


「うん、いいね。三人で一緒に行こうよ」

「うっし! んじゃ、俺はちょっと準備してくるわ! また夕方にくるわ!」

「なら、わたしも着替えてからまたくるねー」


 そう言って二人は出て行った。


 部屋が静かになる。日中で誰かといないのはいつぶりだろうか。何だか逆に落ち着かない。

 思えばあの日からずっと二人は支えてくれたんだよね。僕は本当に幸せものだな。

 結衣がいなくなってしまったのは悲しいけれど、いつまでも落ち込んでたら二人にも、それこそ結衣にだって心配されちゃう。


「よし! 僕も着替えておこうかな」


 ――


 …………くん。ト……モ…くん。


 ん? 誰かの声が聞こえる。僕は誰かに肩を揺すられているようだ。


「もう! 急に黙っちゃってどうしたのトモくん?」


 結衣が心配そうに覗き込んでくる。


「ああ、ごめんね結衣。少しぼーっとしてたみたい」

「もーー。話が面白くなくて、無視されちゃったのかと思ったんだからね?」

「いや! そんなことないよ! 僕は結衣との話が面白くないなんて、思ったことないからね!」


 結衣はちょっとご立腹だ。全力で弁解させてもらう。

 今日は四人で花火大会へ行く約束をしていた日だ。今は花火が始まるまで、四人で出店を回っている。


「ほらほら遅いよ! トモ兄ー! 結衣姉ー! はーやーくー!」

「おら若葉! あんまり走るなって、転ぶと危ねえぞ?」

「ちょっとシン兄! 子供扱いしないでよ!!」

「はいはい。はぐれないように手でもつないでやろうか?」

「つなぎませんーー!! シン兄のばーか!」

「あんにゃろう……大人を舐めおって。分からせてやろう!」


 シンくんは若葉を追いかけて行った。若葉もシンくんが追いかけてきたのを見たのか「痴漢ですー!」と騒ぎながら逃げている。シンくんは「おい! 若葉ふっざけんなよ!」と言いながら追いかけている。シンくん強く生きて……


「本当に仲がいいわね。あの二人」

「似たもの同士ってやつなのかな」


 僕は呆れながらに言った。結衣はくすくすと笑っている。


「若葉はシンくんに任せて僕らはゆっくり回ろうか」

「うん。そうしましょ」


 歩きながら隣にいる結衣を改めて見る。今日の結衣は、なんと浴衣だ。

 白をベースに薄い青の花が描かれている浴衣で、髪型も後ろ髪を少し持ち上げている。覗いているうなじがなんとも色っぽい感じがする。可愛系というよりも美人系だ。


 僕が結衣に見とれていると、結衣は視線に気づいたのか。ん? っと首をかしげている。そんな仕草にもどきりとする。思わず顔を逸らしてしまった。結衣は「変なトモくん」と言って前を向く。僕の意気地なし! そこは何か一言あるでしょ。シンくんのように上手くはいかないなあ……


 ――


「トモ兄……折角、いい雰囲気だったのに何してるの?」

「若葉。分かってる。今はほっといてください……」

「あそこは褒めちぎっていい感じになったら、手でもつなぐ流れでしょ?」

「ごめん。頭真っ白になっちゃって……それに手をつなぐなんて、付き合ってもいないし……」

「トモ兄のへたれ」

「うぐっ!! その言葉は効く」


 若葉はジト目で見てくる。視線が痛い。


「いい? トモ兄? 結衣姉は美人だよ。学校でも人気者だし」

「う、うん。それは分かるよ」

「結衣姉が誰かにとられちゃってもいいの?」

「え!? そ、それは嫌かな……」

「なら、さっさと告白しちゃいなさい!」

「で……でも」

「でもじゃない! もし告白しないまま、結衣姉が他の誰かと付き合っちゃったらきっと後悔するよ? 分かったら早く行ってきなさい!」

「うん、そうだね! 分かった! ありがとう若葉。僕、行ってくるね!」


 よし、結衣のところへ向かおう。おっと、伝え忘れてたことがあった。


「若葉。その浴衣すごく似合ってて、可愛いと思うよ」


 それだけ言って僕は、その場から離れた。


 ――


「なっ!! それはずるいよ……トモ兄」


 わたしは遠ざかっていくトモ兄の背中を見つめている。


「すごいな。若葉は」


 シン兄がいつの間にか隣に座っていた。


「いつから聞いてたの?」

「んー最初からかな。出てきづらい雰囲気だったし」

「そっか……」


 シン兄は特に何か言うわけでもなく、ただ隣に座っている。会話はないけど別に嫌ではなかった。


「ねえ、わたしってばかなのかな? 敵に塩を送るような真似してさ」

「何をいまさら、若葉がばかなんてとっくに分かってただろ?」

「わたしは真面目にきいてるの」

「そう怒んなって。若葉は、ばかだよ。でも若葉のばかは、自分の気持ち隠してまで、他人を思いやれるばかだろ? それって誰にでもできることじゃないよ。お前はすごいやつだよ」

「なにそれ……良いこと言ったみたいにしちゃって…………ばっかみたい」


 夜空を見上げてるとちょうど花火が上がった。すごく、すごく綺麗だった。きらきらしてて、すごく綺麗だった。


「花火、綺麗だな」

「……うん」

「浴衣似合ってんな」

「……うっさい」

「今、花火の音で何も聞こえないからさ」

「……余計な…………お世話……」


 堪えていても涙が溢れてくる。流れ出た涙を止めることはできない。わたしは今日、失恋をしたんだ。


 ――


 僕はいま人生で一番緊張しているかもしれない。


「よし、落ち着けー落ち着けー。人の字を飲もう」


 先ほどからその場を行ったりきたりしている。傍から見たら僕は挙動不審かもしれない。だって仕方ないよ! 告白だよ!?

 だからと言って、このままってわけにもいかない。若葉にも発破をかけられたし……

 結衣は一人でベンチに腰かけている。よし、行こう! 覚悟を決めろよ僕!


「や、やあ結衣」

「あれ? トモくん一人なの? 二人は?」

「あ、ああ。ちょっとお腹が空いて、また出店回ってくるって言ってたよ」

「そうなの? 結構、食べてたと思うけど」

「ははは。よく食べるねー」


 やばい。緊張しすぎて会話が続かない。さっき食べた、たこ焼きが出てきそう……


「花火まだかなー」

「そ、そうだね。そろそろだと思うけど」


 だめだ。また頭が真っ白になりそうだ。


 ――どんっ! どんどんっ!


「あ! トモくん! 花火上がったよ!」


 結衣は、綺麗と言いながら花火を見ている。その横顔は花火なんかよりも綺麗だった。

 何となくだけど、少し落ち着いてきたかも。今なら言えそうだ。


「ねえ結衣?」


 結衣は、どうしたの? と首をかしげてくる。


「僕、結衣に釣り合えるように頑張るから! どんな努力だってしてみせるから! だから……だから! ……これからもよろしく!!」


 ああぁーー!! やってしまった! 何を言ってるんだ僕は……

 結衣はきょとんとしている。そら、そうだよね。


「う、うん。よく分からないけど、これからもよろしくね?」


 僕はまだ、結衣に想いを伝えることができていない。


 後日、結果を教えろと言ってきた若葉とシンくんにことの顛末を話したところ、盛大にため息をつかれた。


 ――


 僕は目を覚ます。

 どうやら、着替えてソファーでくつろいでいたら、うとうとして眠ってしまったようだ。


「夢……か」


 ちょうど去年の今頃だったっけ。花火大会。懐かしいなあ。


「なんで今、こんな夢見ちゃったんだろう」


 僕は目の端が濡れていることに気づく。


「若葉とシンくんがくるまで少しだけ時間があるな。なら……少しだけいいよね」


 僕はくぐもった声を上げながらも静かに涙を流した。

少し過去のお話も混ぜてみました。

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