動きだした歯車
平日は執筆できないと思いますので、休みの間でなんとか。
「遊園地、久しぶりにきたよー!!」
若葉は目をキラキラさせながらはしゃいでいる。
「若葉きたことあったんか!?」
「ひどーい! わたしだって遊園地くらいきたことありますーー!!」
シンくんが驚いたように言った。若葉は頬をプクーっと膨らませて、不服そうにしている。
若葉の家は巫女の家系で、休みの日は大体、巫女修行や業務をさせられていたらしい。若葉の両親は忙しいので、きっと祖母の菊代さんが連れて行ってくれたのだろう。
「最近は毎日家にきてくれてるけど、大丈夫なの?」
「うん! 最近は何も言われなくなったから大丈夫だよ!」
遊びに行くのすらも制限されていたのに……若葉の両親に何か心境の変化でもあったのだろうか。菊代さんが取り計ってくれたのかな。
「夏休みだってのに結構人が少ないな」
「最近の若い人は、外で遊ばなくなったんじゃない?」
「いや……若葉は何目線なの……」
シンくんの言う通り、人が少ない気がする。そんなに小さい遊園地でもないだろうに。前にきた時は、かなり人が多かったと思う。
「でも人が少ないなら、あまり並ばずにいっぱい回れるね!」
「まあ、たしかにそうだな。何から並ぼうか?」
「まずはジェットコースターでしょ!」
若葉は我先にと走って行ってしまった。若葉……テンション高いな……
僕らも後を追った。人が少ないとはいえ、はぐれたら大変だ。
そこからはジェットコースターのフルコースだった――
「おいトモ、大丈夫か?」
結果僕は、ジェットコースターで酔った。今は木陰のベンチで休んでいる。
「ごめんシンくん。僕、ジェットコースターそこまで得意じゃないんだ」
「そうだったんか。言えばよかったのに」
「若葉が楽しそうにしてたからね……言い出しずらかった……」
「トモは相変わらず若葉に甘いなあ」
若葉は飲み物を買いに行った。ここにいるのは僕とシンくんの二人だ。問題なく弱音を吐ける。
「もう大丈夫そうだから、僕も若葉のところに行って飲み物買ってくるよ」
そう言って立ち上がろうとした僕は、足の竦みがとれていなかったのか、よろけてしまった。シンくんが大丈夫か? と言いながら支えてくれた。イケメンだった。
僕を支えてくれたシンくんは、なぜか固まっている。
「……? どうしたのシンくん?」
「ああ……いや、すまない。ちょっと考えごとしてた」
今日のシンくんは何だか難しい顔をしていることが多いな。どうしたんだろうか。
しばらく黙っていたシンくんだったが、急に僕の目を見つめてきた。
「なあトモ。やっぱり――」
なんだ? 急に目の前が真っ暗になって、頭が痛い。だめだ、立っていることができない。
「おいトモ! どうした!?」
最後に見えた光景は、焦ったような顔をしていたシンくんだった――
――
なんだろう。頭の後ろが柔らかい。それに……何だかいい香りがする……安心するような。
そっと目を開けると若葉の心配したような顔が目の前にあった。
「あ、起きた。トモ兄大丈夫?」
「あーごめん。僕、頭が急に痛くなって……それで」
「トモ。急に倒れたからびっくりしたぜ。やっぱり今日は、体調悪いんじゃないか?」
シンくんもベンチの隣に立って、心配そうな顔で見ている。
「ごめんね。もう大丈夫だから」
そう安心させるように二人に語りかける。
「それよりどう? わたしのひ・ざ・ま・く・ら」
若葉はニヤニヤしながら呟く。シンくんもニヤニヤしながらこちらを見ている。
はっと気づいた僕は、恥ずかしくなってがばっと起き上がる。顔が熱い。
「なな、何してるの!?」
「トモ兄ったら動揺しちゃってかわいいー」
若葉はくすくすと笑っている。その表情はどこか妖艶で胸がどきどきした。小悪魔め……
文句を言おうと思ったが、急に立ち上がったせいかまだ少しふらふらする。
「今日はもう帰ろうよ。トモ兄も体調悪そうだし」
「そうだな。今日はもう解散しようか」
僕は一言ごめんと言った。二人はそんなこと気にしなくていいと言ってくれた。二人には、本当に心配をかけてばかりだな……僕も甘えてばかりじゃだめだね。
――家に帰ると僕は布団へ倒れ込んだ。なぜだか分からないけど、ひどく疲れているようだった。
さすがに今日は、若葉には家に帰ってもらった。
先ほどのことを思い出す。
急に頭が痛くなった時、あの時の感覚が前にも覚えがある気がする。なんだったっけ?
だめだ。思い出せない……それに……すごく眠い。
僕は何かが引っかかっている気がしたが、眠気に逆らうことはできなかった。
段々と物語が動いてきましたね。※BLじゃないので安心してください。