失ってしまった日の記憶
大まかな話の構成は考えておりますが、ストックはありません……。
「――!!」
飛び起きた僕は、身体中が汗まみれだった。呼吸も荒く、胸も苦しい。
窓を開けて扇風機もつけていたが、部屋の中は暑く外から蝉の鳴き声が聞こえる――
あのキャンプ日の事故から毎日のように夢に見る当時の光景。みんなで和気あいあいとして胸を躍らせていた時に起こった事故。ガタンと音がしたと思ったら視界が傾き身体中に衝撃が走った。次に目が覚めたときには病院のベットの上で、安堵したような顔で僕の顔を覗きこんでいたのは、幼馴染の若葉とシンくん二人だった。
寝起きで僕は少し混乱していたが、頭が働いてきたのか段々と状況が整理できるようになっていたことで気がついた。結衣がいない。
「あれ? シンくん、若葉。結衣はどこ?」
二人は若干気まずそうにしたと思ったら意を決したのかシンくんが落ち着いた口調で言った。
「いいかトモ。落ち着いて聞いてくれ。結衣はな……この世界にはいないんだ――」
言われた瞬間に僕は目の前が真っ暗になってしまい、その後のシンくんの話も耳に入ってこない。急に頭がひどく痛み、そのまま僕は気を失ってしまった。
僕はあの日に大好きだった幼馴染を失ってしまったと知った。心が崩れそうで身体の一部がなくなってしまったかのような錯覚に陥った。
でてくるのは後悔。僕がキャンプに行こうなどと提案しなければ、こんなことにはならなかった。僕は彼女にこの想いを直接伝える機会を永遠に失ってしまった。
退院と同時に僕は家にふさぎ込んだ。そんな僕を心配して二人は、毎日僕の家にきてくれた。特に若葉は僕とほとんどの時間一緒にいてくれた。
――階段を上ってくる音が聞こえる。
「トモ兄。起きたー?」
部屋に入ってきた若葉はエプロン姿で可愛らしい。
「ああ。ごめんね。いまちょうど起きたところだよ」
「トモ兄すごい汗だけど大丈夫?」
心配そうな顔で尋ねてくる若葉を見て、僕は落ち着いてきた。
「ちょっと部屋が暑かったみたいだから大丈夫だよ」
若葉は、「部屋そんなに暑いかなぁ?」と呟いている。
「それよりトモ兄、ご飯できてるから降りてきなよ」
「ありがとう。着替えたらすぐに行くね」
僕は身体中が汗で気持ち悪かったので、着替えようと起き上がる。
干してあったシャツとズボンを手に取り着替えようと思ったら、なぜかずっと若葉が部屋にいる。
「あの若葉さん? 見られてると恥ずかしいんですが」
「えー? そんなの気にしなくて大丈夫だよ!」
「いやいやいや。僕が気にするの!」
「いいじゃん! プールの時だって見てるし――」
謎理論で騒いでいる若葉を「はいはい」と言いながら背中を押して、部屋から物理的に追い出す。「ちぇ、けちー!」と言いながら一階へ降りていく若葉。一体、何がけちなんだ……
着替えを終えて一階に降りた僕は席につく。
ご飯に味噌汁に卵焼きと焼き魚。朝からこれだけ用意するのは大変だっただろうに……申し訳ない気持ちになった。
「ねえ若葉。やっぱり朝は大変でしょ? 毎日はさすがに悪いよ。ただでさえ夕食も作りにきてくれてるのに」
そんな僕に若葉は呆れた様子だ。
「トモ兄ほっとくとインスタントとかレトルトばっかになるでしょ? それに、夜ついでに朝の分も一緒に用意してるから手間ではないよ。ほとんど夕飯の残りみたいなものだし」
ジト目を向けながらも、やれやれと僕を心配しているかのように話す若葉。頭が上がりませんね。
「ほら冷める前に食べようよトモ兄」
そうだねと言った僕は、手を合わせて感謝の気持ちを込めながらいだたきますをした。
若葉の料理は昔から大変美味しい。僕も多少は料理ができるが、若葉とは比較にならない。卵焼きでさえも壁を感じてしまうレベルだ。
若葉は料理だけでなく家事全般が得意なんだよね。なんだこの嫁力。将来はいいお嫁さんになれそうだ。
一方で結衣は、家事はそこそこだったが料理に関して絶望的なレベルだったな。彼女が卵焼きを作ると黒い炭がでてくる。頑張って作っているところを見ると文句も言い出しづらかったな……
そんなことを思い出していたら、なんだかまた胸が苦しくなってきた。
作中では語る機会がなさそうなので四人の紹介になります。
加賀見 結衣
高校三年生。友幸の幼馴染の一人で初恋の相手。
ブラウンの内巻きのショートカット。少しタレ目なふわふわ系女子。
誰にでも優しく頭もよい。運動はちょっと苦手。
頑張り屋さんの面もあるため男女共に人気があるアイドル的存在。ちなみに家はお金持ち。
地場 友幸
高校三年生。どこにでもいる平凡な男の子。
黒髪で男子にしては長髪。顔立ちもどちらかといえば中性的。
幼いころは行動力が高く色々な行動を起こしては両親をハラハラさせていた。
年々可愛くなっていく結衣に対して自分は釣り合っていないと思っている。
初恋の結衣と少しでも釣り合うように日々努力を重ねている。
神宿 若葉
高校二年生。友幸の幼馴染の一人。
黒髪でポニーテール。大きめのリボンが特徴的。
家が巫女の家系である。神宿家の者はその身に神様を降ろすことから神力が備わっているといわれている。
甘えんぼうで人懐っこい性格からみんなの妹的存在。
幼馴染全員のことが大好きで特に友幸が大好き。
桜林 信一郎
高校三年生。友幸の幼馴染の一人で親友。
祖父がヨーロッパの方で髪色がダークブロンド。スッキリとした短髪。
困っている人を見捨てられずみんなの頼れる兄貴的存在。
顔面偏差値も高い上に長身で勉強もでき運動神経も抜群なのでかなりモテる。
友幸は信一郎のような男子になりたいと思っている。あと名前が長い。