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あの日からヒーローだった Episode.信一郎

大変お待たせいたしました。

体調を崩しておりました。季節の変わり目なので皆様もお気をつけてください。


誤字報告大変助かっております、誠にありがとうございます。

 俺は小学校の頃、大分すさんでいた。


 普通の小学生よりも高い身長、顔のほりも少しだけ深い。

 巨人やら外人やら名前が長いやらくだらないことで、よくからかわれていた。


 俺はどちらかといえば喧嘩っ早い方であった。

 からかっていたやつは全力で叩きのめしていたし、相手に怪我をさせては両親が謝りに行ったりしていた。

 俺は悪くない。こいつがからかってくるのが悪いと絶対に謝ることをしなかった。そんな両親は俺に大分、手を焼いていたと思う。


 父の都合で何度か転校をしていたが、俺は特に友達といえるやつもいなくて、悲しいとかそんな感情は一切湧いてこなかった。また転校かと思っていたくらいだ。


 周りにはくだらないやつらしかいない。俺は相当ひねくれていたと思う。

 でも俺が、変わるきっかけをくれたやつがいた。それが親友トモだ。


 トモは転校初日に俺にからんできたやつだった。

 身長が高くて羨ましい、名前が長いからシンくんでいいよね? てな感じで、俺に一番に話しかけてきたやつだった。今まで俺に対して、そんな風に話しかけてくるやつなんていなかった。

 

 トモは俺によく話しかけてくれた。今までそんなやついなかったから、俺は少し気圧されていた。どうやって話し返せばいいか分からず、素っ気ない態度をとってしまっていたことは自覚していた。


 俺は、変なやつだと最初は思っていたが、時間が経つにつれてトモといるのが楽しいと思えるようになってきた。初めて友達と呼べるやつに出会えたんだと思った。


 トモはクラスの中心的存在で俺はすぐにクラスの他のやつとも打ち解けることができた。

 学校がこんなにも楽しいものだとは思わなかった。俺はトモから教えてもらうことばかりだった。


 そんな俺らも小学三年生になった。俺はトモと同じクラスだった。離れなくてよかったとほっとしたのを覚えている。


 三年生になってすぐに一人の女子が男子三人にからかわれている現場を目撃した。

 俺は昔に自分をからかってきたやつらを思い出して、その男子三人がとてもくだらないやつらだと思った。

 冷めたような目で俺が見つめているとトモはその女子の方へ走り出して行った。


 トモが男子三人にかっこ悪いと言って女子を助けている。

 俺はそれを見て、自分が恥ずかしくなった。


 俺は男子三人がくだらないやつだと見つめていたが、その三人にからまれていた女子を助けに行こうとはしていなかった。

 めちゃくちゃかっこ悪いやつだと思った。所詮、口だけのやつだと思った。


 そして俺は、さっと助けにいったトモがヒーローに見えた。その日からトモは俺の憧れの人となった。


 その日から俺は何でもやった。勉強、スポーツ、手伝い、人助け。俺は困っている人を助けてやれるヒーローになりたいと思った――



 ――


 目が覚めた。不思議な感覚だ。

 そして俺は同時に理解していた。自分が死んだことに。


「ここは……どこだ?」


 俺はあたりを見回した。違和感があった。


「ここは……俺たちが住んでいた町……?」


 どうして俺がこの場所にいるのかは分からない。もしかしたら幽霊になってしまったのだろうか。でも、足はあるし……一体どういうことだ。


「とりあえず、ここにいてもどうにもならねえ。他の場所に行ってみるか……」


 俺は他に誰かいないか探すためにその場から移動した。

 しばらく、歩いていると違和感が襲ってきた。人が少なすぎる。


 本当にこの世界は一体なんなんだろうか。俺たちが住んでいた町と似ているが、どこかが違う気がする。

 しばらく歩いていると俺は無意識だったのか、トモの家に着いていた。


「ん……? あれは、若葉?」


 トモの家の前には若葉が立っていた。ぼーっとトモの家を見ている。

 とりあえず、声をかけてみることにした。


「おーい! 若葉ー!」


 若葉は俺の声に驚いてこちらを見てくる。


「え……? シン兄?」

「お! お前はどうやら俺の知ってる若葉のようだな」

「どういうこと……?」


 若葉は怪訝な表情でこちらを見てくる。何だか俺の言葉に引っかかりを持っているかのようだった。


「いやさ、気づいたら俺たちが住んでいた町と似ている世界で目が覚めてさ。色々、見て回ったんだけど誰とも会話できないからさ。若葉に話しが通じてよかったぜ」

「なるほどね……」

「なあ、若葉気づいてるか?」

「何を……?」

「俺たちが死んじまったことに……さ」


 若葉は目を見開いて驚いた表情だ。若葉は気づいていなかったのか?


「シン兄、気づいてるの?」

「ん? 気づいてるのってことは、若葉も死んじまったことには気づいてるってことだよな」

「そうだよ。わたしは自分が死んでしまったことに気づいてるよ」

「ならこの世界が何なのかは分かるか?」

「それは……ごめん。ちょっと、分からないかな……」


 どうやら若葉にも分からないらしい。

 若葉がいるってことは他の二人もいるのか? いや……そうとも限らないか……


「なあ若葉、なんでトモの家の前にいたんだ?」

「なんだか、トモ兄がこの世界にいる気がして。結衣姉はいないみたい」

「そんなことが分かるのか?」

「うん。何となくだけどね……」


 どうやら若葉には、トモがこの世界にいるということが分かるらしい。感覚的なものだと言っている。

 俺にはさっぱり分からん。やっぱり、巫女ってのが関係しているんかね。


「ならトモは今、家にいるのか?」

「ううん。見にきたんだけどいないみたい」

「まじか。ならどこにいるんだ?」

「もしかしたら……病院かもしれない」

「それも、感覚ってやつか?」

「そうだね。何となくだけど、数箇所ここじゃないかなって感覚があったんだ」

「なるほどな。それで次は病院ってわけか」


 若葉は頷くと歩き始めていった。俺は若葉の後へ続く。


 この世界にトモがいるってことはトモも死んじまったってことか……

 結衣がいないのなら、結衣は生きてるってことか? 結衣は一人になっちまったてことか。生きててくれてよかったてのもあるけど、一人にしちまったな。

 俺が一人になっちまったら、相当凹む自信がある。結衣、ごめんな。


 ――


 病院に着くと俺にも何だか分かる気がした。

 ここにトモがいるってのが分かる。たしかにこれは感覚の問題だな。もしかしたら俺がトモの家に向かったのも若葉がいるってのが感覚で分かったからなのかもしれない。

 トモはベットで寝ていた。俺もベットで目を覚ましたかったぜ。


「トモ起きねえな」

「うん。でもその内、起きると思う」

「それも感覚ってやつ?」

「そうだよ」


 若葉ってこんな淡々としたやつだったか? トモのことが絡んでいるから、いつものテンションではないのか?

 俺は何だか若葉とは違うやつと話しをしている気分になった。


 俺と若葉はトモの目が覚めるまで待った。何度か俺は若葉に話しかけたりしていたが、生返事ばかりだったので黙ることにした。きっとトモが心配? なんだろう。


 二時間ほど経ったころにトモから呻き声が聞こえた。

 俺はトモの元へ駆け寄った。眩しそうにしながらもトモの目が開いていく。


 俺と若葉が安堵して声をかけたら、トモは少し混乱していたようだ。

 トモが結衣がどこにいるか聞いてきた。

 トモはどうやら自分が死んだことに気づいていないみたいだ。俺はどう伝えようか迷っていたが、思いつかず、そのまま伝えてみることにした。


「いいかトモ。落ち着いて聞いてくれ。結衣はな……この世界にいないんだ」


 トモは何を言われたのか分からないような顔をしていた。

 それは、そうだよな。自分が死んでしまったなんて思ってないだろうし……


「そして、トモ。どうやら俺たち三人は死んでしまったみたいなんだ……」


 そう俺がトモに死んでしまった事実を伝えたら、トモが頭を抑えて苦しみだした。


「おい!? トモ、どうした!?」


 俺がトモの上半身を支えようとしたら横から若葉が割り込んできた。


「大丈夫? トモ兄?」


 そう言って、若葉はトモを支える。そのままトモは意識を失ってしまったようだ。

 俺はわけが分からず、トモに手を伸ばした体勢のまま固まってしまった。


「若葉? トモは大丈夫なのか?」

「うん。ちょっとショックだっただけだと思う」

「そうなんか? 意識失うってやばくないか?」

「大丈夫。すぐに目を覚ますと思うから」


 若葉は何か確信しているようだった。俺にはない何かが見えているのだろうか。


 ――


 あれからトモは意識を取り戻したが、結衣のことでふさぎ込んでしまったらしい。

 トモは結衣に死んでほしかったのだろうか? トモなら結衣が生きてるって知ったらきっと辛そうにしながらも喜んでくれたと思ったのだが……一人にしてしまったことに落ち込んでいるのか?

 若葉がトモが混乱するからその手の話は避けようと言っていたので、俺からはあれ以来何も伝えてはいない。若葉の方から、それとなく分かってもらうとのことだった。


 ――


 何日か経ち、トモも大分落ち着いてきたようだ。俺も何度かトモの家に行って、三人で遊んだりしていた。

 

 最近は、近場で遊ぶことが多かったからたまには少し遠くへ行ってみようと思った。

 そこで俺が考えたのは遊園地だ。気分転換に盛大に遊ぶのもいいだろうと思ったからだ。

 早速、トモへメールを送る。トモから今から向かうと返信があり、俺は駅へと向かう。


 駅前に着いてから十分ほど待っていると、二人がきたのに気がついた。

 トモは待たせてごめんと申し訳なさそうに言ってきた。若葉はいきなりタックルを決めてきたので頭を鷲掴みにしてやった。トモの目が覚めてから昔の若葉のテンションにだんだんと戻ってきている気がする。


「おうトモ! 全然待ってないから大丈夫だぜ」


 俺がそう言うとトモは少し考えるように顔を見てきた。どうしたんだ?

 それよりも近くにきて気づいたが、トモが汗をかいていた。


「トモ汗すごいけど大丈夫か? 体調悪い?」


 トモは暑いから汗をかくのは当たり前だと言っている。

 俺はこの世界にきてから汗など一回もかいたことがない。魂だけの存在になってしまったからだろうか。生きていれば汗もかくような暑さなんだろうな。

 なら、トモは何なんだ? 身体によって差があるのか? 若葉は……汗かいてないみたいだな。


「そうか? そうでもないと思うけどな」


 俺はわずかな引っかかりを感じていた。若葉がトモは大袈裟だと言っていた。

 若葉が突っ込んでいないあたり、何か問題があるってわけじゃなさそうだ。


「そうなんか。まあトモは昔から大袈裟なところがあったからな」


 俺がそう言うとトモが釈然としない顔でこちらを見ていた。

 トモがどこに行くか聞いてきた。俺は遊園地へ行くと答えた。


 ――


 遊園地へ着くと、若葉が久しぶりに遊園地へきたとはしゃぎ始めた。

 俺とトモは若葉の家のことを知っているので、若葉が遊園地へきたことがあるのが意外だと思った。


「若葉きたことあったんか!?」


 俺は思わずそう口に出してしまった。若葉は不服そうにぶーたれている。


 トモが若葉に毎日きてるけど家は大丈夫なのか。と心配したように尋ねている。

 そこで俺はまた少し引っかかりを覚えた。

 俺たち三人は死んでしまっている。トモがそのことを知っていればそんな質問は出てこないはずなんだが……もしかして、若葉まだトモに話してないのか?


「夏休みだってのに結構人が少ないな」


 この世界は向こうの世界に似せていたから遊園地はさすがに人が多いと思っていたのだが、かなり少ない。全部を似せているわけではなさそうだ。

 若葉が、人が少ないからアトラクションにいっぱい回れると言っている。なるほど、その考えはなかった。


「まあ、たしかにそうだな。何から並ぼうか?」


 若葉はジェットコースターと言って、走って行ってしまった。あいつ……テンション高えな。まあ前の淡白な態度よりは数千倍マシだな。

 トモは少し微妙そうな顔をしながらもやれやれと若葉を追いかけて行った。俺も二人の後へ続く。


 ――


「おいトモ、大丈夫か?」


 トモはどうやら乗り物酔いをしてしまったらしい。そら、あれだけジェットコースター三昧だったら平衡感覚も狂って、気持ち悪くなるわな……

 俺は……全然何ともないな。そこも身体によって差があるのか?


 トモはどうやらあまり、ジェットコースターが得意ではなかったらしい。


「そうだったんか。言えばよかったのに」


 そう言うとトモは、あははと小さく笑いながら、若葉が楽しそうだったからと言っていた。


「トモは相変わらず若葉に甘いなあ」


 トモは昔から若葉に甘かった。トモが若葉に怒っているところを見たことがない。そして、若葉もトモに一番懐いている。何だか兄妹みたいだな。


 トモは落ち着いたから飲み物を買いに行ってくるとベンチから立ち上がったが、足元がおぼつかないのか、よろけていた。そんなトモを支えてやった。

 そこで俺は、はっとした。

 熱い……?

 トモの体温はかなり高い。いやもしかしたら、生きていればこれが正常なのかもしれない。俺の肌はひんやりとしているので、体温が高くないことが分かる。おまけに汗もかかないしな。

 まて……生きていれば?

 俺は何となくだが、トモが生きているんじゃないかと思った。


「なあトモ。やっぱりお前生きてるんじゃないのか?」


 俺がトモの目を見てそう伝えると、トモは頭を抑えてその場にしゃがみ込んだ。

 トモは苦しそうにしながら、そのまま意識を失ってしまった。

 これは……あの病院の時を同じ? 一体、トモに何が起きてるんだ。


 意識を失ったトモを運んで、ベンチに寝かせた。

 

 運んでいる時にも感じたが、トモの体温は高い。いや、平熱なのかもしれない。そう、生きていれば。

 俺はそれを確かめるためにトモの胸に手を当ててみた。


 …………動いてる。


 俺の胸からは感じることのない動きを。トモの胸からたしかに心臓の鼓動を感じた。

 トモが生きている俺がそう確信すると頭の中にあった霞が晴れた感覚がした。俺がここ数日で引っかかっていたことが解けていった。


 そこで俺は気がついた。

 トモが意識を失ったのは、トモの生死に関して俺が口で伝えた時だ。


 病院の時は、トモに関して気づくことができなかったが今回は気づくことができた。

 それは、なぜか。そう…………若葉がいないからだ。


 一回目にトモが意識を失った時、俺はトモに触れることができなかった。若葉に阻まれたからだ。

 あの時は、トモが心配で駆け寄ったのかと思っていたが今ならはっきりと分かる。

 トモが意識を失った時に俺が大丈夫なのかと尋ねたら若葉は、確信したように大丈夫だと答えた。若葉は、トモが生きていたことを知っていたんだ。

 それを俺に悟らせたくなかったんだ。


 俺がこのタイミングで気づくことができたのは、ここ数日でトモが明るくなったから若葉も油断していたのか? もしかしたら、若葉の手のひらの上なのか?

 これは……後で直接聞いてみるか、トモに関わることだしな。返答次第では、若葉を許さないけどな。


 若葉――――お前は何を考えているんだ?

次回も信一郎視点になります。


予定としては、あと三話ほどで完結です。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 2話の意識を失った下りには、この会話があったんですね。 事と次第によっては若葉を許さないという今回の話の引きからどのようにして、トモの心を追い詰める行動を取ったのか凄く気になります。 [一…
2019/11/24 15:25 退会済み
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