王
ある小さな村に王が生まれた。
王は1人。後に魔王と呼ばれるもう一人の子を除いて…
双子は共に才を得た。しかし、魔術によって支配されたこの国で暴力という名の、人が生まれながらに持つ力とは必要とされない。
例えば、100tもある大岩を持つ大男でさえ、火で炙れば死ぬ。
水に沈めれば窒息死するし、心臓を貫くただそれだけで、どんな力を持っていようと死ぬ。
この世の中では魔術こそが絶対的であり、支配する権利を持つ。
10年後…
(…)
「朝か…」
いずれ王となる男は目を覚まし、空を見上げる。
まだ10歳の読み書きも出来ぬ小僧は、森の中で目を覚まし小石を投げる。
「うぎゅう…!!!んぅ…!あぐっ…あぐぎゅ…!」
今日は大収穫らしい。
見事に魔物の群れにあたり、片手で投げた小石は10km先の奴らを捉えた。
もちろん魔法は使っていない。
しかし、彼は紛れもなく王である。魔術が支配するこの世で、魔術を使わず魔物を倒し、この樹王の森で魔術を使わずして夜を過ごし、この森の支配者の1人として君臨した、暴力という名の小さき力を振りかざした化け物である。
王は1人である。
親に見捨てられ、この樹王の森に捨てられた悲しき王。
時は遡り、3年前の出来事である。
彼は捨てられた。父は、魔術の一切を身につけることの出来ない王を見捨てた。父は厳しく厳格であり、魔術の才能に溢れた兄ばかりに愛を注ぎ、王には失望の暗い顔を見せた。
突然のことである。
父は王を連れ出し、森に捨てた。力だけには才に恵まれた王は、父を追いかけるも渓谷に阻まれ足を止めた。
先程まではそこになかったはずのそれは、父が王を離した途端に現れ、人が容易に渡ることの出来ないほどの渓谷へと変わり、全長100km以上の深さ1kmに及ぶであろう大渓谷を一瞬にして創り出した。
初めて目の当たりにした父の力と自身の未熟さと、未だに広がりを見せる渓谷は王を苦しめると共に、血縁を断ち切られたような、そんな気がするのであった。
「うぐご…ぐぎゅ、ぐひひ!!」
霧がかる森から出てきたのは小さくも、不気味な血色を浮かべ大きな牙を身に纏う、混合種と言われる様々な魔獣を吸収した高位の魔獣である。
樹王の森であるなら当たり前である。
そんじゃそこらの森とは違い、神獣クラスの化け物が住み着く程の危険な森であるからだ。そんな中、出会ったのが目の前の雑魚で運が良かったのかもしれない。しかし、王は7歳の暴力の才しか持たぬ雑魚。
いまだ状況は最悪である。…が、やはり王である。運命は王を生かした。
「おら…っ!!待ちなっ!この反吐虫がっ!!」
森中に轟く声とともに、ドシドシ…と近づく足音。
「ぎひひ…!」
現れたのは、火の粉を纏いし、ヒトであった。