少女①
・・・・・・なあ、お前さあ・・・何してんの?
・・・はい!すいません!
なんでこんなことして生きてられんの?
・・・はい!すいません!
お前言われたことも出来ねえならなあ!その目も耳も潰すぞ!クソ野郎!!
・・・・・・ハイ!スイマセン!!スイマセン・・・・・・・・・
「・・・い、おい、聞いてるか?」
父の呼びかけにハッとなった。少年は慌てて椅子を引いて姿勢を正した。
「まったく・・・どうもすいません、神官様」
「いえいえ、まだ朝も早いですから、ウフフ・・・」
「ご、ごめんなさい」
父は少年の頭をコツンと叩くと神官に笑ってみせた。神官も目にシワを寄せて首を傾げた。
今日は村の領主である父と共に神官の元へ、秋に行われる祭りの打ち合わせに来ていた。
魔法というものが研究されて数百年、魔法が使えない平民たちにも魔道具が普及し、いわゆる現代的な暮らしとなった今でも、お祭りは特別だ。
人々が暮らす土地に恵みをもたらし、平和を与える『神』に感謝と祈りを捧げる。農耕や狩りをある程度魔法で行えるようになった現在においても、これは変わらない。
そして、『神』を信仰し、崇め、人々に教えを伝えるのが、神官。都にあると言われる大神殿において幼い時から修行を積んだ孤児の女性たちは、やがて方々に散らばり、その行く先々の町や村に住み、土地神を納める神官として、その生涯を終える。
彼女も十数年前に村にやってきた。先代の神官に劣らぬ才色兼備な女性だとして、村での信頼も厚かった。
「あ、あの、遊んできてもいいですか」
「あら、いいですよ。そろそろ朝食も済ませてる頃でしょうから」
神官には娘がいた。正確には拾い子である。
少女は神官がこの村に来て間もない頃、神官の家の前に捨てられていた。どうやら外部の人間の仕業らしく、その子の親の正体は探しようもなかったが、神官は、その親が名乗り出るまでこの子を育てる、といった。
神官は少女にたくさんの愛情を注いだ。少女もそれに応えるように、神官を本当の母親以上に慕った。その姿は本当の親子のようで、村人たちも温かく見守っていた。
悲劇は少女が7つのとき、自宅で神官が家事をして目を離した際、居間にあった火鉢の杭が少女の目に当たり、光を奪った。
「あれは本当に残念でしたね、どうか自分を責めないで」
「お気遣いありがとうございます・・・わたくしなんかでは、母親の代わりはちょっと荷が重かったんですかね・・・」
「そんなことないですよ!・・・私もあの子が生まれてから大変なことばっかりで・・・いつもあなたとあの子のようにステキな親子になりたいと思ってるんです・・・・・・!あなたは立派な母親ですよ」
「領主様・・・・・・」
神官は少し涙ぐんでいるようだった。
「・・・お互い、歳を取りましたね」
「そうですね、私もおばさんです、ウフフ・・・」
神官は涙を拭い、ついでに目尻をグイと上に持ち上げた。
「でね!でね!お母さんはね!とっても綺麗なの!」
少女は潰れた目を輝かせている、もっとも大きな眼帯で隠れてはいるが。今年でもう17か8になるというのに、話す様は7つの少年よりよっぽど無邪気だった。
「もう、お母さんの話しばっかり、本当に神官のことが好きなんだね」
「あ、ごめんね・・・」
「ううん、いいんだよ!なんかね、好きな人のことを話してる時、本当に楽しそうだから、聞いてて楽しいよ」
「そっか・・・ウフフ!ありがとう!」
「あ、その笑い方」
「え?」
「神官様とおんなじだ」
少年がそう言うと、少女は照れ臭そうにした。人差し指で眼帯の下を掻くと、皮膚の硬くなったところが少し落ちて、太陽の光でキラキラと舞っていた。