少年
少年は知らない街にいた。
目眩がするほど高い建物が空に向かっていくつも建っている。見上げるとこちらにひしゃげて倒れてくるように錯覚して、急いで目を落とした。
大きなものを見た後だからだろうか、周りの大人がまるで7つの自分のように小さく見えた。伏し目がちに背中を丸めて歩くその街の人々はやけにちっぽけで、キレイな身なりをしているのに、その顔は炭鉱夫のように黒く思えた。
そういえば空も灰色がかっている。晴れているのか曇っているのか・・・、あまり上を向かないように建物の隙間を覗いていた。
誰かと肩が当たった。
よろけた少年はそのまま黒い人波に押し出されるように、道に小さく生えた木々よろしく、道路の隅っこに追いやられた。
少年は仕方なく壁にもたれかかり、そのまましゃがみこんだ。
ここはどこなんだろう・・・
ボクはどうやってここまで・・・?
・・・・・・思い出せない
お父様は・・・・・・・・・お母様・・・どんな顔だっけ?
・・・・・・わからない・・・あれ?ボクはなにをしてるんだ・・・?
・・・あれ?
・・・・・・ボクは
・・・ボクは
オレハ?
振り向いたガラスの壁には痩せた男が映っていた。街の人と同じキレイな身なりをしていたが、シャツの襟はくたびれていて、ボサボサに困惑して見える顔は、まるで何回も絞った雑巾のようだった。
「・・・・・・さい!起きなさい!」
グッショリと目を覚ました。起き上がると見知った女性が立っていた。
「・・・お母様」
「いつまで寝てるんですか、さっさと支度をなさい」
ベットから降りるともうカーテンは空いていて、太陽の光が部屋中に入り込んでいた。
背伸びをして外を覗き込むと、朝露に濡れた緑と茶色のなかに小さな家がいくつかあるだけだった。