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第五幕:VR即席手術室

 俺は今、近くの「病院」に来ている。病院といっても、俺が知ってるそれと全然見た目が違う。見るからにハイテク感満載の電光投影ディスプレイがそこらじゅうに並んでいるし、受付は人間によく似た女性のロボットだった。


「これが……病院?」

「そうヨ。VR適合化チップの埋め込みとかアバター作成用のボディフィッテイングの専門にやってる病院。VRの流行で相当儲かってるらしいし、ブランディングのためにもこういう最新機器が揃ってるんでしょうネ」


「とりあえずVRを試すだけのつもりだったのに……」

「そんなに時間もかからないから、埋め込み手術を受けちゃったほうが早いのよ。チップなしだと大きなVRデバイスが必要になるし、今はそういうデバイスは逆に高価なのヨ」

「はぁ……」


「もうすぐアナタの番ヨ」

「何だか怖いな……」



  ◇ ◆ ◇



「響アツシさん」

女性型ナースを模したロボットに呼ばれて処置室に入る。処置室の中には若い男の医者がいた。側には椅子があるが、その上には頭がすっぽり入るほどの大きさの円筒形の機械があった。


「本日、お体の調子はいかがですか?」

「……特に問題ないですけど」


 医者は俺の体をペタペタと触り、目の瞳孔をライトでチェックした。本当に簡単な検査だけをすませると。


「それじゃ手術を始めますね」


 医者がそういうと、ビーっという機械音と共に円筒形の機械が俺の頭を覆った。視界が真っ暗になる。


「ちょっ、いきなりですか?」

「はい。全部機械がやってくれますのでご心配なく」


 俺には不安しかない。


「はい、麻酔入りますよ。頭がチクッとしますのでご注意下さい」


 頭に何か針が刺さったような感覚がする。少し意識がおぼろげになってきた。


「はい、メス入りますよ。痛かったら教えて下さい」


 何も感じない。しかし気持ち的は落ち着かない。


「はい、開きました」


 何が開いたんだろう?


「はい、入りました」


 いや、何が? どこに?


「もう、終わりますよー。空けたところを縫合中です。はい……閉まった」


『閉まった』が、何か失敗したときの『しまった』じゃないかとハラハラした。


「はい、お疲れ様です。何かお体に異常を感じたら教えて下さい。」

「はぁ……今の所なにも」

「じゃぁ次はボディフィッテイングです。外でお待ち下さい」

 

 医者が退室を促したので部屋の外に出た。そばにあった時計をみると、入ってから五分と経っていない。


「お疲れさん。簡単だったでショ?」

「まぁ……確かに。なんか怖かったが……」

「意外とビビリなのネ」

マネージャーはそういって、ふふっと笑った。


「次のボディフィッテイングはもっと楽ヨ。というか本当は医療行為じゃないの。どこでもできるんだけど、ここの病院とアバターデザイン会社が提携して、ワンストップサービスにしてるのヨ」

「……そうなのか。金の臭いがプンプンするな……」

「まぁ、それだけVRが流行ってるってことネ」


 またすぐに別の女性型ロボットが現れた。なぜか修道女のような格好をしている。

「響アツシさま、こちらへどうぞ」

「わたしもついてくワ」


 案内された部屋には、なんだか洋服店の試着室みたいなカーテンが掛かっていた。カーテンの横には、これまた最新式の電光投影ディスプレイがある。鎧をきた騎士の格好をした3Dモデルがぐるぐると回転している。


 その中も試着室のような部屋だった。ただ普通の試着室にあるような鏡はなく、四方の壁からうっすらと光が出ている。どこからか機械の声が聞こえた。


「これからボディフィッテイングを始めます。私の指示に従って体を動かして下さい。」

「おう」

意味はないかも知れないが、一応返事をした。


「右手を挙げて下さい」

「おう」

俺は指示に従って手を挙げる。


「左手を挙げて下さい」

「おう」

バンザイのポーズになる。


「左手を下げ……」

左手をさげた


「――ないで、右下げて」

「紛らわしいな、おい!」



  ◇ ◆ ◇



 そんな感じで三分ほど指示に従うと、すぐに終わったらしい。

「外に出て、アバターを確認してね!」

プリクラの撮影が終了したときのような気安さで機械は言った。


「終わったわね」

マネージャーが待っていた。


 先程の騎士の3Dモデルがなくなっている。代わりにその場所には「アバター作成中」という3Dの文字が回っている。一分ほど待つと、魔法使いのような黒いローブのコスチュームを着たキャラクターが立っていた。


「なんだこれは!?」

「自動作成のアバターよん♪ あなたにオススメのキャラクターらしいわ。自分でデコることもできるのヨ」

「気に入らん! そもそも、俺はこんな顔じゃないだろ」


「まぁ、皆普通はリアルの顔なんてVRで使わないからねぇ」

「俺は俺の顔がいい!」

「やん、アツシちゃんってナルシストだったのネ」


「……そういうことじゃない! 別の顔を使うなんて気味が悪いんだ」

「……まぁ、そういうことなら自分の顔を使うこともできるけど……」

マネージャーは少しためらった後に続けた。

「アナタ、一応リアルの世界チャンピオンでショ。そのチャンピオンがVRで負けまくったりしたら、恥ずかしいんじゃない?」


「……俺は負けん!」

そう言って、俺は自分と同じ顔にして、服装も空手の道着に変更した。

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