第四幕:わたしがVRを始めたわけ
中学も終わりに近づくと、わたしはあいつの事が好きになっている自分に気がついた。最初はあんなに気に入らなかったのに、あいつと戦うたびに好きになっていた。
理由は良くわからない。同世代でわたしと対等に戦えるのはあいつだけだったから、二人で過ごす時間が多かっただけかもしれない。わたしに対して手加減せずに向かってきてくれたことが嬉しかったのかもしれない。あいつが、自分と同じように武道に真剣だったからかもしれない。
でも、それ以上に自分が追い抜かれていくのが悔しかった。女だから負けるって事が許せなかった。それに、負けたからあいつと恋仲になるってように感じがするのも、私のプライドが許さなかった。
もっと言えば、あいつとそういう仲になれば、絶対にお互い武道の事を話すことになる。その度に惨めな思いをすることは分かってた。
わたしが道場に顔を出すのをやめた後、父さんは「強さだけが武道じゃない」とわたしに言った。確かに、精神面での成長は武道の大事な目的だけれど、そのときのわたしにはそれが屁理屈にしか思えなかった。強さ以外の別の目標を持つのと、戦いから逃げるのは、大差がないように感じた。
そんなときに、父さんが事故で死んだときは本当に悲しかった。それまでの自分の全てが失われてしまった。わたしには何もなくなった。どうやって生きていけば良いのか分からなくて、とりあえず普通の高校生になろうと考えた。勉強して、化粧して、友達と遊んで、バイトして。全く面白くないわけじゃないけど、何にも夢中にはなれなかった。
そうして、なんとなく大学生になったとき、VRゲームというのを友達に進められた。最初は、当時流行っていたファンタジー世界のゲームで、剣と魔法を使って遊んだ。最初の頃のゲームは、技術も進歩していなくてそこまで精巧な作りではなかったけど、リアルで出来ないことが出来ることが素直に面白かった。
VRゲームの進化は信じられないほど早かった。実際にその世界にいるように感じられるゲームが、次から次へと発売された。そのうちに、リアルで人気のスポーツをベースにしたゲームが出てきた。VRサッカー、VRベースボールなど、リアル路線VRと呼ばれる流行が一世を風靡した。
もちろん、VRなので実際の世界とはいくつかの違いがある。リアルでは出来ない動きがVRの世界では可能だ。リアルだけどちょっと違う。そういうものが、プレイしていて、そして見ていて面白いものだと皆が認識した。
そんな中、VR Fightersというゲームが発売された。VRの格闘ゲームだ。それまでの総合格闘技の人気を踏み台にして、このゲームは一気にVR格闘のデファクトスタンダードになった。
VR Fightersの中では、男も女も関係ない、本当の真剣勝負が広げられていた。
今、わたしはこのゲームのトッププレイヤーだ。