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Power Song2

君のために僕は詠う。

Power Song 2




「―――――私の事をこんなに待たせた新人なんて、お前が初めてよ。智日…」

 薫は苦笑しながらタバコに火を点け、白い煙を天井に向かって吐いた。

「…す…すいませんでした…」

 智日は罰が悪そうに頭を掻きながら、部屋の隅で顔を真っ青にしながら立っている久田を見た。久田も智日の視線に気付き、険しい表情で首を振った。

「久田…」

「はっはい!」いきなり薫に名前を呼ばれ、久田は飛び上がった。

「お前はもういいわよ。下がりなさい」

「え?…」

「早く自分の仕事に戻れ、久田」

 大神の言葉に、久田は顔を紅潮させながら慌てて部屋を出て行った。そんな様子を智日は恨めしそうに見つめた。

「智日、突っ立ってないで座りなさい」

 薫の言葉に智日はソファに腰を下ろした。

「あの…本当にすいませんでした。俺、こんなに早く薫さん会えるなんて思ってなくて…」

 智日の言葉に大神が眉間にしわを寄せた。

「智日!奥様に失礼だぞ!」

「いいわよ、大神」薫は笑いながら言った。「本当に面白い子ね。気に入ったわ」薫は微笑みながら智日を見つめた。

「そ、そんなに見つめないで下さいよ…美人に見つめられると緊張しますよ…」

「クスクス…本当に調子が良いわね。そうやって何人の女騙してきたの?」

「ひどっ!俺そんな人間じゃないっスよ!」

「お前は十分最低な男よ。お前のせいでシステム担当の規則違反で謹慎中なのよ」

「は?」

 智日はキョトン顔で言った。

「お前、訓練中に組織のシステムに侵入したでしょ?何を知りたかったの?」

「…えっと…」智日は焦りながら言葉を詰まらせた。

「1人でやればいいものを女に協力させるなんて…ただ単に女を抱きたかったんでしょ?」

「…すんません…つい…」

「で?何を知りたかったの?」

 薫はタバコを消し、真っ直ぐに智日を見つめた。智日は気まずそうにしながら視線をずらした。

「…本条ケイ」薫の言葉に智日の顔から笑みが消えた。「組織のシステムに侵入するだけじゃなくてケイの情報まで盗み取るなんて…ねぇ?大神、お前の言ってた通り確かに神の域ね」

 大神はため息を吐きながらうつむいた。

「薫さんもさすがだよ。俺、完全に“足”消したのに…」

「フフフ…それで、納得できた?」

 薫の言葉に智日は苦笑した。

「本条ケイがすごいってのはよく分かったんですけど……薫さんも大神さんも彼を怖がる理由が分からないんですよ」

「会えば分かるわ」

「会えるんですか!?」

 薫は微笑みながら大神を見た。大神は無表情のまま智日の前に薄いファイルを置いた。智日は首を傾げながらそのファイルを手に取った。

「――――脇田大二郎(75)、Mグループの会長で政界にまで顔が利くいわば日本の影の“ドン”よ」

「へぇ〜…でもそんな顔してる。ブルドックみたい…」智日はそう言いながら笑い出した。「で?この爺ちゃんがどうしたの?」

「8年程前にケイに仕事でこっ酷くやられて以来、ケイにゾッコンなのよ。海外の会社1つ潰してまでケイの素性を調べてるのよ」

 薫の言葉に智日は顔を歪めた。

「…この爺ちゃん、そんな趣味あんの?」

「ただケイの強さに惚れ込んで自分専属のボディガードにしたかったみたい。でもどんなに手を尽くしてもケイの顔すら調べ上げる事が出来なかった」

「薫さん達が本条ケイの情報を握っていたんだからどうしようもないね」

「そうね…それにケイ自身もバレないように上手くやってたし…」

 そう言いながら薫は2本目のタバコに火を点けた。

「ところが最近事態が急変したの」

「急変?」

「そう…」薫はタバコの煙を吐きながら続けた。「最後の大金叩いて雇った“情報屋”がかなりの敏腕でね〜…下手したらこっちの情報まで盗まれそうなのよ。そうなると困っちゃうのよね。分かるでしょ?」

 智日は頷いた。

「で?俺は何をしたらいいの?」

「お前の初仕事はその“情報屋”の調査と彼らが握っている情報を奪い取る事」

「―――そして、抹殺」

 ニッと笑いながら智日は言った。

「その通り。ただその“情報屋”のメンバーには凄腕の殺し屋もいるらしいから気を付けなさい」

「はぁ〜い!」智日は元気に返事した。「ところで爺ちゃんはどうすんの?生かしてたらマズくない?」

「脇田会長には“静かな最期”を準備してるから、お前は自分の任務の事だけ考えなさい」

「はぁい…」

 薫の言葉に智日は力なく答えた。

「ちなみに、今回の初仕事の報酬は無いからね、智日」

「は!?何で!?」

 智日は目を大きくして言った。

「当たり前でしょう。お前、組織の規則破ったのよ。本当なら謹慎処分だけどお前にはやってもらいたい仕事がたくさんあるからね。だから報酬ゼロで許してあげるわよ。その代わり、もう二度と規則は破らない事!いいわね?」

「…そんなぁ〜…」

 がっくりと肩を落とす智日を見ながら薫は微笑んだ。

「…智日…父親に似なくて良かったわね…」

「…え?」智日は穏やかに微笑む薫を見た。

「お前は母親にそっくりよ。目とか鼻の形とか…栗色の髪とか…」

 薫は短くなったタバコを灰皿の中で潰し消し、何かを思い出すように苦笑した。

「―――母さんと母さんのお姉さんってよく似てたんだ。写真見せてもらった事あったけど…本当にそっくりだった…2人共、すごい美人でしたよ」

 智日はそう言いながら子供のように笑った。薫は智日の屈託無い笑顔に思わず表情を緩めた。

 そんな薫の様子を、大神は静かに見つめた。

「薫さんは母さんのお姉さんと親友だったんでしょ?母さんに会った事ないの?」

「…お前の母親には直接会った事はないわ。でも曄は…お前の母親のお姉さんは本当に綺麗な人だったわ。そしてとても頭の良い人だったわ…」

「……その話、ケイさんにはした事ある?」

 薫の顔から笑みが消えた事に智日は気付いた。

「話した事ないわ。時期がくれば私から話すわ…」

 薫の言葉に智日は頷いた。

「…俺、どうしても理解出来ないんですけど…」

「……何が理解出来ないの?」

「どうしてケイさんは自分の両親の事気にならないんだろう?…いくらそういうプロジェクトだったとはいえ、自分を産んだ母親の事ぐらいは知りたくならないですか?俺だったら気になって調べ尽くすけどな…」

 フフフ…と薫は笑った。

「ケイにとって自分の産みの親の事なんてどうでもいいのよ。…まぁ、そういう風に育てたのは私達だけど。それに、ケイの関心の中心はただ一人」

「松田アキ?」

「もう本条アキになってるわ。…智日、ケイとは仲良くしてよ。ケイに嫌われるような事はしないでよ」

「えぇ〜!?そんな事約束できないよ!俺、何にも悪い事してなくてもケイさんに嫌われるかもしれないし…」

「理由無く嫌われるならまだ良いわ。…智日、絶対にアキちゃんには手を出しては駄目よ。もしそんな事したらお前だけじゃなく私まで殺されちゃうわ」

 薫の言葉に、智日は口を開けたまま動かなかった。

















 都心から離れた閑静な住宅街には複数の建築会社が競って建てたマンションが建ち並んでいた。その中でも最も新しい高級マンションのエレベーターホールの前に悠輔ゆうすけは立っていた。最上階から下りて来たエレベーターに乗り、すぐに閉まるボタンを押した。悠輔はエレベーターの隅の壁にもたれ掛かかるように立ち、ズボンのポケットに手を突っ込んでいた。

 エレベーターは止まり、ドアがゆっくり開いた。

「――――随分遅かったね、悠輔さん」

 エレベーターの前で悠輔が来るのを待っていた蒼太そうたは嬉しそうに微笑んでいた。悠輔は眉をひそめながらエレベーターを降りた。

「わざわざお出迎えか?ちゃんと“仕事”は終わったんだろうな?」

「当の昔に終わってるよ!!あんまり退屈だったからわざわざ迎えに来てやったんだよ!…それで?ボスは何て言ってたの?」

「その話は部屋に入ってからだ。俊哉しゅんやの方も終わってるのか?」

 悠輔は白い息を吐きながら寒そうに身を縮めた。そして鼻の頭を赤くさせながら自分の横を歩く蒼太に尋ねた。

「うん!悠輔さんが帰って来るの待ってるよ」

「そうか…」

 悠輔はそう言いながらドアノブに手を掛けた。



 俊哉はタバコをくわえたまま、パソコンのゲームに没頭していた。悠輔は部屋中に充満した白い煙を手で払いながら部屋の窓を勢いよく開けた。冷たい風が一気に部屋に流れ、俊哉は飛び上がった。

「さっむいなぁ!いきなり開けるなよ!」

「換気はちゃんとやれって何回言ったら分かるんだ!肺がんになるぞ!」

「っるっせ〜なぁ〜…」俊哉はブツブツ言いながらタバコの火を消した。「で?ボスは何て?」

 悠輔はコートを脱ぎながら椅子に腰を下ろした。

「予定通り…“薫様”が動き出したって。だからしばらくの間は大人しくしてろって」

「大人しくねぇ〜…なぁ!ここには居ていいんだよな?悠輔」

 俊哉の言葉に悠輔は頷いた。

「やったぁ!ねぇ!若菜ちゃん泊めてもいい?」

 蒼太は興奮気味に言った。

「馬鹿!何考えてんだよ蒼太!ここは会長が準備してくれた仕事場だぞ!俺達以外誰も入れるなよ!いいな!!」

 すごい剣幕で怒り出した悠輔の言葉に、蒼太は眉間にしわを寄せた。

「なんだよ〜ケチ!滅多にこんな高いトコ住めないんだよ!若菜ちゃんだって楽しみにしてるのに…」

「若菜に言ったのか!?」

「うん。…仕事の事は言ってないよ。ただ、今超高級マンションに住んでるって言ったんだ…それだけだよ」

「…勘弁してくれよ…」

 悠輔は頭を抱えたまま呟いた。

「ほぉ〜ら…だから若菜には言うなって言っただろ、蒼太」

「何で?仕事の事は一言も話してないんだよ?何が駄目なの?」

 俊哉の言葉に蒼太は首を傾げながら言った。

「蒼太…俺達は今までで一番ヤバイ仕事してるんだぞ。命なんていつ狙われるか分からない状態なんだ。そこらへんの事分かってるのか?」

「え?だってボスが守ってくれるんだよね?そうでしょ?悠輔さん?」

 蒼太は不安そうな表情で言った。悠輔は呆れたように大きくため息を吐きながら、ソファから腰を上げた。

「若菜の事想うなら仕事が終わるまで会うな。いいな、蒼太…」

 悠輔はそう言って、キッチンへと向かった。蒼太は顔を強張らせたまま俊哉を見た。

 俊哉はタバコをくわえたまま、パソコンのゲームに夢中になっていた。

















 月曜から金曜まで、朝6時に起床、8時半までに研究所に出勤。6時から7時まで仕事して愛妻の待つ家に真っ直ぐ帰宅。土曜日はジムに行くか、ジョギングに行くか…で、昼から愛妻とイチャイチャ…日曜日は愛妻を仕事場まで送り、愛妻が帰宅するまで図書館へ行ったり、自宅で仕事したり…そして昼過ぎに帰宅する愛妻とイチャイチャ…イチャイチャ…


「一体……何が楽しいんだ?」

 智日は眉をひそめながら呟いた。


 夜の7時から“Jun−Cafe”を貸し切って<ケイとアキの結婚を祝う会>が開かれていた。

 智日は店の右横に隣接する立体駐車場3階に車を停め、3本目の缶コーヒーのプルリングに指をかけた。

 店の窓はロールカーテンが下ろされ、外から店内が見えないようになっていた。智日は店内に仕込んでおいた小型隠しカメラから受信した映像をパソコンの画面で見ていた。


 店内には本条有治、永田昌男、空閑くが清子きよこ。大木美枝子と美枝子の息子・博一、博一の妻・百合子と2人の子供・諒。加茂昇・夕貴夫妻と中島なかしま裕翔ゆうとと恋人の有尾麻衣子。そして“Jun−Cafe”店長の谷口純子、店員の相模加奈、塩谷理子、前田春菜が満面の笑みでケイとアキを祝った。

 テーブルには色鮮やかな料理や純子手作りの2段ウェディングケーキが所狭しに並んでいた。人々は料理に舌鼓を打ちながら、会話に花を咲かせていた。

「――――ケイ君、本当にアキちゃんの事よろしくお願いしますね」

「はっはい!」

 深々と頭を下げながら言う美枝子に、ケイは慌てて答えた。

「あの人も天国で喜んでるわ…本当に良かった…」

「おばさん…」

 涙ぐみながら言う美枝子の肩に、アキは優しく手をおいた。美枝子は小さく頷きながら嬉しそうに微笑んだ。

 そんな様子を、少し離れた場所で中島と麻衣子が見つめていた。

「…おい、見てみろよ。本条の奴、顔ユルユルだぞ…」

「本条君、嬉しいのよ。アキさんも幸せそう…」

 麻衣子はそう言いながら微笑んだ。

「…まったく…アキちゃんにはやられたわ…」

 突然、背後から響いた声に麻衣子は飛び上がった。

 夕貴はブツブツと文句を言いながら皿いっぱいに盛った料理を頬張っていた。その横で昇は小さくため息を吐きながら苦笑した。

「夕貴さん…明音ちゃんは?」

「実家に預けてきたわよ。…そんな事より…まさかアキちゃん、ケイ君と結婚しちゃうなんて…そんな話全然してなかったくせに…大体そんな仲だって事すら知らなかったのよ!私!!麻衣子ちゃんも知らなかったでしょ!?」

「え…いや…まぁ…」

「え!まさか知ってたの!?麻衣子ちゃん!!」

 すごい剣幕で詰め寄る夕貴に麻衣子はうろたえた。

「もう、いい加減にしろよ!夕貴!」

 昇の言葉に夕貴は口を尖らせた。

「あぁん!もう!友人である私に一言も相談せずに結婚しちゃうなんて!納得いかないわ!」夕貴はそう叫びながらアキのもとへ行った。

「おい!夕貴!…まったく、あいつは…」

 昇は呆れたように呟いた。

「夕貴さん、アキさんの事すごく心配してましたもんね…」

 麻衣子の言葉に昇は苦笑した。

「そうなんだけどねぇ…俺にアキちゃんに誰か紹介できる真面目な男いないかって、しつこく言ってたもんな〜…結局、アキちゃんがケイ君のモノになっちゃったから寂しいんだよ…」

 昇は微笑みながら言った。中島も麻衣子も笑いながら、泣きながらアキの手を握る夕貴の姿を見つめた。



 そんな店内の様子をパソコンの画面で見ながら、智日は小さく息を吐いた。

≪本当に…一体何が楽しんだよ…ワケ分かんねぇ〜…≫

 智日はそんな事を考えながらタバコに火を点けた。

≪大体、何だあれ?よくあんなお子ちゃまみたいな女と結婚なんて出来るよな〜…胸なんてメチャクチャちっちゃいし、あれじゃぁ揉んだ気しねぇだろ?いや…あんな色気無いなら抱く気にもなんねぇだろ?≫

 白い煙を吐きながら、智日は笑いながら話すケイとアキを見つめた。

≪…まぁ、そこまでブスじゃないけど…ケイさんとはどう見たってつり合わないんだよな〜…≫

 智日はタバコを灰皿で潰し消し、少し残っていた冷たい缶コーヒーを飲み干した。

≪…でもケイさんの方が惚れ込んでるんだよな…何がどうなったらそんな事になるんだろう?≫


―――――私の姉さんには、心から愛する人がいたのよ―――――


 智日は母親・沙智の言葉を思い出していた。

 徐に、コートのポケットから銀色の懐中時計を取り出した。完全に止まってしまっている時計の針を見つめながら智日はしばらくの間、動けなかった。


≪…心から愛するって…どういう事かな?…母さん…母さんは愛してなかったはずの男の子供なんか…何で産んだんだよ?…≫


 冷え切った車内の空気を肌で感じながら……智日はハッと我に返った。

 パソコンの画面には何も映し出されていなかった。チラチラと揺れる映像を見つめながら、智日はパソコンのキーボードを叩いた。それでも画面は元には戻らなかった。

≪なっ…何が起こったんだ!?≫

 その時、智日はある気配に気付いた。

 静まり返った空気に、遠くから流れてくる自動車のエンジン音や誰かの叫び声がコンクリートに跳ね返り、薄暗い駐車場内に響いていた。

 智日はゆっくり車のドアを開け、外へ出た。白い息を吐きながら、ゆっくりと辺りを見渡した。

 ヒュッ!! という音が智日を襲った。智日は自分に向かって飛んできた黒い物体を寸での所でけた。黒い物体は壁に激しくぶつかり粉々に砕けた。智日はその砕けた物体の欠片を指でつまんだ。

「……これ……」

 智日はしばらくの間、店に設置しておいたはずの小型隠しカメラの残骸を呆然と見つめた。

「――――お前の仕事は“情報屋”の始末だろ?」

 智日は背中をつたう汗を感じながら自分が乗っていた車に目をやった。

 助手席で、ケイが智日のパソコンのキーボードを叩いていた。智日は慌てて車に駆け寄った。

「ちょっ…何やってんだよ!…」

 ケイは智日の声に見向きもせず、黙々とデータを削除していった。

「や、やめろよ!」

 智日はケイからパソコンを取り上げた。

「何で僕の事調べるんだ?あの女から言われた仕事はもう片付いたのか?」

 ケイはそう言いながら、眉間にしわを寄せたままの智日を見た。ケイの冷たい空気に、智日は圧倒された。

「…あぁ…」

 智日は絞り出すように呟いた。

「話せよ。その“情報屋”の事…」

 ケイの言葉に、智日はすぐに返事をしなかった。しばらくの間、ケイの澄んだ瞳から目が離せないでいた。

「…分かった…でもいいの?大事なパーティー抜け出して。奥さんが心配しちゃうんじゃない?」

「だから早くしろよ。あんまり時間ないんだ…」

 智日は苦笑しながら車に乗り込んだ。


「“情報屋”といってもメンバーはたったの3人。リーダーの筒井悠輔(25)、そして藤村俊哉(25)、坂本蒼太(19)…この3人は同じ施設を出ていて…」

「その3人の事はいいよ。それよりバックにいる人間の事話して」

 ケイの言葉に智日はムッとしながらも、パソコンの画面を切り替えた。

「…友田なんとか…名前がコロコロ変わるからどれが本名か分からないけど…この男はプロの殺し屋。この男が筒井に直接指示してるみたい」

 ケイは画面に映し出された友田の顔を見つめた。

「脇田の爺さんはこの友田って男だけ雇ったんじゃないだろ?」

「…何?ケイさんは一体どこまで調べてんの?」

「お前と同じ程度だ」

 ケイの言葉に智日は目を丸くした。

「脇田の会長さんはかなりの大金叩いて随分厄介な殺し屋を雇ったみたいなんだ…まだそれが誰かは分からないけど…」

「そんな殺し屋雇ったんなら僕じゃなくてそいつを専属にすればいいのに…しつこいな…あの爺さん…」

 ケイがそう言ったので智日は思わず吹き出した。

「俺もそう思う!なんか俺達気が合うと思わない?」

「思わない」智日の言葉にケイは即答した。

「…本当に冷たいっスね、ケイさん」

 智日の言葉にケイは返事をしなかった。智日は≪やれ、やれ…≫と首を振りながら外に目をやった。

 暗がりの中、男が1人車に向かって歩いてきた。

「…大神さん…」

 智日の言葉に、ケイは顔を上げた。

「久し振りだな、ケイ」大神は微かに笑いながら言った。「ケイ、そいつは新人の池上智日だ。情報屋の始末は智日がやる。ケイ、お前も手を貸してやってくれ」

 大神の言葉に智日は驚いた。

「な!?何だよそれ!俺1人で十分だよ!大神さん!」

 顔を紅潮させながら憤慨する智日に、大神は首を横に振った。

「情報屋3人のバックに付いている殺し屋はお前には少し荷が重過ぎる。ケイと2人で任務を遂行するんだ」

「…そんな…」

 大神の言葉に智日はがっくりとうな垂れた。そんな智日と大神の様子を見ながら、ケイは呆れたようにため息を吐いた。

「言っとくけど、僕はそっちの仕事には手を貸す気は無いんだ。…どうせあの女が言ってる事だろ?僕はあの女の言い成りにはならないよ、大神」

「しかし、このままではいずれ松田アキの身にも危険が及ぶ事になるぞ。ケイ…」

「もう本条だよ…」ケイは眉間にしわを寄せた。「アキの事心配する暇あるんなら、早くその情報屋片付けてよ」

 ケイはそう言うと車のドアを開け、降りた。

「ケイ、明日奥様が一緒に食事しようと言っておられる。会社まで迎えに行くから…」

「行かない。あの女にそう言っておいて」

 大神の言葉を遮るように、ケイは言った。そして振り向きもせず、さっさと行ってしまった。智日はしばらくの間、呆然とケイの後姿を見つめた。









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