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Power Song19

君のために僕は詠う。

Power Song19




「―――――大丈夫かい?アキちゃん?」

 本条は言葉を選びながら薫から聞かされた事をアキに話して聞かせた。アキは黙ったまま、しかし真っ直ぐに本条の顔を見つめ、本条の話を真剣な面持ちで聞いていた。恩成坊一族が短命であるという言葉が本条の口から出た時、初めてアキの表情が微かに歪んだ。ケイはオロオロと青ざめた表情で、身体を硬くしてうつむいてしまったアキの手を握った。本条はアキの膝の上で握られたケイとアキの手を見つめた。

「アキちゃん…」

 アキはパッと顔を上げ、キュッと唇を結んだ。

「大丈夫です!先生!続けて下さい!」

「お茶でも飲もうか?…なぁ、ケイ…」

「先生!お願いします、続けて下さい!」

 アキは強い口調で言って、隣にぴったりと寄り添うように座っていたケイの顔を見て、穏やかに微笑んだ。

≪大丈夫、大丈夫≫

 アキは小声でケイに向かってそう呟いてから、本条の方へ向き直った。


―――この子は必死にケイの事を守ろうとしているんだ…


 本条は込み上げる熱い思いを堪え、小さく頷いた。

「ケイの父親、美成里という人の世話役をしていた人がイタリアのトスカーナという地方に今も暮らしているそうなんだ。その人がケイとアキちゃんに逢いたいと言っているそうだ…」

「イタリア…」

 アキは小さく呟いて、ケイを見た。ケイは眉をひそめ、本条を見つめた。

「その人…生きていたのか…」

「…うん…詳しい話はその人から直接聞いたらいいと浅井先生も言っていた」

 本条はそう言って鞄から白い長封筒を取り出し、テーブルの上に置いた。白い長封筒の左隅には航空会社の社名が赤い文字で書かれていた。ケイは徐にその長封筒を手に取り、中を覗いた。そして入っていた飛行機のチケットを取り出した。

「あの女が準備したの?」

 ケイの問いかけに本条は笑顔で頷いた。

「明日の午前の便を予約してある。フィレンツェまで浅井先生の部下の人が付いて来るそうだ。泊まる所はその世話役だった人が準備してくれるそうだ。…アキちゃん、この間パスポート作っていたよね?」

「はい、6月に伊藤君の結婚式に行かないとだったから…早めに作っといて良かった…」

 アキはそう言って、へへっと笑った。その笑顔に、ケイも思わず微笑んだ。

「よし、ちょっとバタバタだけど2人とも急いで準備するんだ。明日の朝は俺が空港まで送るからね」

「はい!」アキは勢いよく立ち上がった。そしてパタパタと2階へと上がって行った。ケイはそんなアキの後姿を、揺れる瞳で見つめていた。

「ケイ…」

 本条はそう言ってケイの肩に手を置いた。

「…兄さん…アキ、すごく無理してるよ…」

 ケイの言葉に本条は小さく頷いた。

 アキの白い細い手が微かに震えていた事に、2人は気付いていた。

「アキちゃんがあんなに頑張っているんだ。だからお前もしっかりしろ。それにその世話役だった人も言っていたそうなんだ。『大丈夫、心配いらない』って…」

 ケイはうつむいたまま、さっきまでアキの手を握っていた自分の手を見つめていた。

 アキの手の温もりが、ケイの掌から少しずつ消えようとしていた。
















 翌朝、早朝から居間中に甘い香りが漂っていた。昨晩からほとんど眠る事が出来なかった本条はいつもより早めにベッドから起き、洗面所へと向かい、その甘い香りに気付いた。本条は眉をひそめたまま台所を覗いた。

 台所ではアキが朝食の準備をしていた。ウゥーと回っていたレンジがチンッという軽い音を立てて止まった。アキはせかせかとレンジの前に行き扉を開けたら、ほわんとした湯気とともに甘い香りが一層濃くなった。

「…おはよう、アキちゃん…」

 本条の声にアキの身体がビクッと動いた。

「お、おはようございます!…早いですね?…もしかして起こしちゃいましたか?」

 あせあせしながら言うアキの顔を本条は見つめた。

 アキの目の下には薄いクマが出来ていた。

「…いや…それは大丈夫だよ…それより…もしかして、アキちゃん寝てないのか?」

 本条の言葉にアキは苦笑した。本条も苦笑しながら、アキが抱えていたレンジトレーの上に並べられた焼き立てのマフィンに目をやった。カップからモコモコともりあがったマフィンは狐色にこんがり焼けていて、ゆらゆらと湯気が立っていた。

「美味そうだな…」

「朝ご飯にいいかと思って…お砂糖は控えめですよ」

「砂糖控えめならたくさん食べれるね、アキちゃん」

 本条の言葉に、アキは嬉しそうに微笑んだ。

「―――良い匂い…」ケイがそう呟きながら台所へ入って来た。

「あ、ケイ君!おはよう!」

「おはよ…お!マフィンだ!」

 ケイはそう言ってマフィンを1個掴み、パクパク食べ始めた。

「ちょっ…ケイ君!これ朝のデザートなんだよ!」

「(もぐもぐ)…うん、うん!…(もぐもぐ)美味い…」

 ケイは口一杯にマフィンを頬張ったまま微笑んだ。アキは「もう!」と少し頬を膨らませた。




 空港の国際線ターミナル出発フロアの入り口付近で、1人の長身の女が立っていた。紺色のパンツスーツ姿のその女は、辺りをうかがうように切れ長の目をゆっくりと動かしていた。中央口から本条とケイとアキが歩いて来るのに気付き、女は表情を引き締めた。

「―――おはようございます」

 女は無表情のまま、3人に頭を下げた。

「あぁ…君が浅井先生の…?」

 本条の言葉に、女は小さく頷いた。


「―――じゃぁ、2人とも気を付けて…」搭乗手続きを済ませたケイとアキに本条は笑顔で言った。「ケイ、無理だけはするなよ…」

 本条の微かに滲む不安げな表情に、ケイは苦笑した。

「分かってるよ、兄さん…」

 本条は小さく頷き、ケイの横に立つアキに目線を落とした。

「アキちゃん、ケイの事頼んだよ」

「はい!」

 アキは笑顔で答えた。しかし本条には、その笑顔がどこか強張っているように感じた。

「時間です」

 女の機械的な言葉に、3人は思わず表情を引き締めた。

「行って来ます!先生!」

 女を先頭に、ケイとアキはセキュリティチェックゲートへと歩き出した。

 本条の表情が歪んだ。

 2人の後姿を見つめながら、急に、このまま2人にはもう会えないのではないかという不安が込み上げてきた。

「ケイ!!」

 本条の叫び声に、ケイとアキはパッと振り向いた。ケイは驚いた表情で、顔を歪めたまま立ち尽くす本条を見た。本条はハッと我に返り、慌てて笑顔を作った。その引きつった笑顔を見て、ケイは苦笑した。ケイは片手を軽く上げ、ゆっくりと本条に向かって振った。それを見ていたアキも、本条に手を振った。本条は微笑みながら2人に手を降り返した。

 ケイとアキの姿がゲートへと向かう人々に紛れるように、消えて行った。

 本条は、しばらくの間その場から動く事が出来なかった。




 薫が準備したファーストクラスの機内には、ゆったりとした空気が流れていた。ビジネスマン風の男性は、アームレスト付きのシートを後ろへ倒し、アイマスクを付け、もうすでに寝る体勢に入っていた。旅行客らしい老夫婦は穏やかな笑顔でパンフをめくりながらお互いの耳元で会話をしていた。

 アキは落ち着かない様子でキョロキョロと辺りを見渡していた。

「…アキ、ミラノまで時間かかるから少し寝てたらいいよ」

 ケイはそう言って機内に常備してあるブランケットをアキの膝にかけた。

「ケイ君の方こそ休まないと駄目だよ!」

「うん…」

 ケイは笑顔で頷きながら、アキの手を握った。

 その手の冷たさに、アキの心臓が強く動いた。

「…ケ、ケイ君…体調は?平気?」

「うん…大丈夫…」ケイはにっこりと微笑みながら、アキの不安げな表情を見つめた。「そんな顔しないで。本当に大丈夫だから…」

 ケイの穏やかな口調に、アキは苦笑しながら小さく頷いた。そしてシートを少し倒して、足を伸ばした。

「…ねぇ、何でそっち向くの?」ケイとは反対方向へ顔を向けて目を閉じたアキに、ケイは口を尖らせた。「こっち向いて寝てよ」

「…えぇ?…だってケイ君も寝るでしょ?」

 アキは呆れたように笑いながら言った。

「ちゃんと寝るから…こっち向いてよ、アキ…」

 ケイの言葉に、アキは恥ずかしそうに口を尖らせながらケイの方へ向き直った。「ほら!ケイ君も寝て!」

「はい、はい…」ケイは笑いながら静かに目を閉じた。そしてすぐに目を開いた。目の前には、静かに目を閉じたままのアキの顔があった。ケイはアキの瞼がピクピクと動いている事に気付いた。手を伸ばし、アキの目の下に出来たクマに指で触れた。アキの身体がビクッと動いた。

「なぁに?」目を閉じたまま、アキは苦笑した。

 ケイはアキの頬に手を当て、しばらくの間そのまま動かなかった。

 アキの唇が微かに震え、ケイの心はキリキリと痛み出した。


――――こんなに君を悲しませるつもりなんて…なかったんだよ…


 ケイはゆっくり身体を起こし、自分の唇をアキの唇に静かに当てた。アキの暖かい息がケイの頬に触れた。アキは溢れ出そうとする涙を堪えるため、目をギュッと閉じたまま、顔を下に向けた。


―――アキ…


 ケイは込み上げる感情をなんとか飲み込み、アキの頬に手を当てたままアキの顔を見つめ続けた。



 5時間程でミラノの空港へ到着したケイとアキと薫の部下である女は飛行機を乗り継ぎ、フィレンツェへと向かった。そしてフィレンツェの空港へ到着した3人を、到着ロビーで、1人の痩せぎすの少年が待ち構えていた。

 その少年は彫りの深いくっきりとした二重ふたえの大きい瞳をパチパチと動かし、ケイとアキの姿に気付くと、嬉しそうな表情で駆け寄ってきた。

「…ケイサン…アキサン?」

「…はい…」少年の言葉に、アキはおずおずと答えた。少年はブラウンの瞳をパッと輝かせ、微笑んだ。

「ボク、ルカと言います。りんサンの代わりに2人を迎えに来ました」

 少年は流暢な日本語でそう言って、白い歯を覗かせながらハニカむように微笑んだ。











「―――そう、無事に彼の元へ向かったのね?…えぇ…分かったわ。ご苦労様…」

 薫はそう言って電話を切った。そして黒革張りのリクライナーに身体を沈めた。フゥ―…と長い息を吐いてから、窓一面の初夏の青空を仰いだ。

 その時、すぐ横にある机の上の電話機が鳴った。薫はゆっくりと身体を起こし、受話器を上げた。

[ …あっ…い、院長先生!…あの…]

「どうしたの?」受付の事務員の上ずった声に、薫は眉をひそめた。

[ あの…先生にお会いしたいと…お客様が…あっ!ちょっと!お待ち下さい!…]

 薫は思わず受話器を耳から離した。

 しばらくして、院長室のドアが慌しく開いた。

「…院長先生!…あの…お客様が…」

 青ざめた顔でオロオロと言う事務員の背後から、長身の男が顔を覗かせた。男は事務員の制止も聞かず、強引に院長室へ足を踏み入れた。

 薫は怪訝そうに眉間にしわを寄せたまま、その男を見据えた。

「…院長先生…あの…」

 事務員は今にも泣き出しそうに震える声で呟いた。薫はやれやれ…と小さくため息を吐いた。

「平岡さん、心配いらないわ。仕事に戻りなさい」

 薫の言葉に、平岡という事務員は「…でも…」と言いかけながらも、もうすでに部屋の中央に置かれたソファに長い脚を伸ばした姿勢で座っている男の気迫に圧倒され、おずおずと部屋から出て行った。

「…まったく…来る時はアポを取ってもらわないと困るわ、黒崎…」

 薫の言葉に、黒崎はクククッと笑った。

「久し振りに会えたっていうのに、随分冷たいねぇ〜薫さん」

 黒崎はそう言いながらソファからゆっくりと身体を起こし、テーブルの上に置かれたシガレットケースを掴んだ。

「1本、もらってもいいですか?」

「…どうぞ」

 黒崎は嬉しそうにしながらケースからタバコを取り出し、火を点けた。白い煙を天井に向かって吐きながら、薫の顔を見つめた。

「…本当に、相変わらず美人だねぇ〜薫さんは」

「…それはどうも」

 薫は苦笑しながら答えた。

「言っとくけど、別に薫さんを殺しに来たワケじゃないからな?」

「分かってるわよ、そんな事。もしそうならこんな人目の付くトコには来ないでしょ?」

 黒崎はクククッと笑いながら、煙を吐いた。

「今日は薫さんに良い話を持って来たんだ」

「へぇ〜…何かしら?」

「興味無さそうに言うなよ、薫さん」黒崎は笑いながら、長い脚を組んだ。「薫さんと<取引>しようと思ってわざわざ来たんだぜ?」

「<取引>?…私とあなたが?」

 薫の言葉に、黒崎は軽く頷いた。

「薫さんの<組織>、俺にくれよ。その代わり、薫さんや大神は悪いようにはしないからさ。他のメンバーも面倒見てやるよ?」

 黒崎の言葉に、薫は思わず吹き出した。「それが<取引>?冗談でしょ?」

「俺は本気だよ。…大体、よく考えてみろよ。もうあんたじゃ<組織>を存続させるのは無理だぜ?大神はもう使えねぇだろ?智日は…まだまだお子ちゃまだしなぁ!」

 黒崎はケラケラと笑いながら言った。「それに…」

 薫は眉をひそめたまま、黒崎を見つめた。黒崎は薫の方へ身体を向け、脚を組み直した。

「本条ケイ―――あれはあんたらだけじゃ手に負える男じゃない」

 薫は腕を組み、黒崎を睨んだ。

「薫さん、あんたは本条ケイに全く相手にされてないじゃないか?これから先だってどんな事があろうがあの男はあんたらの言い成りにはならないだろう…俺が言ってる事、分かるだろう?」

「…でもケイは私達の…」

「<組織>出身者だろうがなんだろうが…本条ケイはあんたのモノにはならねぇんだよ…」

 薫は小さく息を吐き、ニヤニヤと笑いながら話す黒崎を見つめた。

「一体、何が言いたいの?」

 黒崎はチリチリと細い黒い煙の立つタバコを潰し消した。

「本条ケイを始末しようじゃないか」

 黒崎の言葉に、薫は思わず息を呑んだ。「なんですって?…」

「もう知ってるだろうけど、俺のバックにはグリーソンが付いてる。グリーソンにちょっと手伝ってもらえば…まぁ、そう手間取らずに片付くだろう…なぁ?、薫さん?」

 薫はクスクスと笑い出した。黒崎は一瞬表情を歪めながらも、すぐに片頬を上げ、ニヤついたように笑った。

「ハッキリ言わせてもらうけど、あなた達じゃまず無理よ」

 黒崎は両手を広げ、大袈裟に目をパチパチと大きくさせながら首を傾げた。

「何で?やるなら今しかないだろ?」

 薫の表情が青ざめた。黒崎は肩を揺らしながら笑い出した。

「黒崎…ケイを追いかけるの?」

「まさか!そんな卑怯なマネしないぜ?…せっかく女房と最後の旅行を楽しんでるんだ。それに、今あいつとやり合うのは病人苛めてるみたいでフェアじゃねぇしな…」

 黒崎はそう言って、ソファから腰を上げた。

「まぁ、よく考えなよ。壊滅寸前の<組織>から無条件で手を引けるんだ。しかも“不発弾”の処理までタダでしてやろうって言ってんだぜ?こんなオイシイ話ねぇだろ?」

 リクライナーに座ったまま黒崎を睨みつけている薫の前に黒崎は立ち、薫を見下ろした。

「2週間―――2週間後に返事を聞きに来る。今度は<組織>の方にな。大神も話ぐらいは聞けるようになってるだろ?駄目なら…智日にでも相談すればいい」黒崎はそう言って、机の上に腰を下ろし、薫の顔に手を伸ばした。そして、薫の青白い頬をゆっくり撫でた。

「あんたは、そうやって大人しく座ってればいいんだ。その方がうんとイイ女に見えるぜ?」

 薫は黒崎を見上げるように見つめ、微かに微笑んだ。

「2週間、じっくり考えさせてもらうわ」

 薫の言葉に、黒崎はニッと笑った。

「じゃぁ、良い返事待ってるよ」黒崎はそう言って腰を上げ、笑い声を部屋中に響かせながら出て行った。

 薫は唇を噛んだまま、さっきまで黒崎が座っていた机の上を睨み続けた。













 フィレンツェから普通列車に乗って目的地へと向かう道中、ルカと名乗る痩せぎすのイタリア人少年は延々と喋り続けた。最初は流暢な日本語だったが、時間が経つにつれ、興奮してきたのか、所々イタリア語が混ざるようになってきた。アキはだんだんルカの言葉が理解出来なくなり、何度も横に座っているケイに助けを求めた。ケイはルカに対して半分呆れながらも、アキにルカの言葉の意味を説明した。

 フィレンツェから1時間半程で、目的地であるカムーチャ駅へ到着した。

「―――凛サンが迎えに来てくれるはずなんですが…」

 ルカはケイ達の旅行鞄を手に持ったまま、キョロキョロと無人駅を見渡した。アキは微かな不安を感じながら、傍らにいたケイの顔を見た。

「―――ケ…」

 ケイの顔を見て、アキは言葉を失った。

 ケイは真っ青な顔で胸を押さえたまま、その場に倒れ込んだ。

「ケイ君!ケイ君!!」

 ケイの顔面からドッと汗が噴出した。苦しそうに顔を歪めたケイの身体を、アキは必死に抱きかかえた。

「ケイ君!!」

 突然の事に、ルカは呆然と立ちすくんでいた。


≪ あぁ!!どうしよう!!どうしよう!!≫


 アキはパニックに陥りながら、懸命に考えた。

「ケイ君!!しっかりして!!」

 その時、アキの目の前に1人の男が駆け寄ってきた。アキはパッと顔を上げ、その男の顔を見た。黒いキャソックに身を包んだ小柄な男は目尻のしわを上げ、穏やかに微笑んだ。

「もう大丈夫。心配はいりませんよ」

 男はそう言って、ケイの腕を自分の肩に回し、ケイを抱えるようにして立ち上がった。

「ルカ!ケイ様の足を持ち上げて!急いで車に運ぶのです!」

 男の言葉に、ルカはハッと我に返った。

「ハイ!凛サン!」


 凛……さん?


 アキは慌てて男に駆け寄った。

「あっ…あなたが凛さん!?」

 凛はにっこりと微笑み、アキの蒼白の顔を見つめた。

「さぁ、アキ様。早く車にお乗り下さい!」



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