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Power Song12

君のために僕は詠う。

Power Song12




「―――――なんでアキは僕や兄さん以外の男を家に上げて二人っきりでいれるんだ!?」

 ケイの言葉にアキは唖然とした。

「何かあったらどうするんだよ!!」

「…何かって何よ!ケイ君!智日君はケイ君の従兄弟なのよ!何にもあるワケないじゃない!」


 ソファに座ったまま言い合う2人を、本条と清子は腹を空かせながら居間のテーブルの椅子に腰を下ろし、見守っていた。

「…本当にくだらないわ…」

 清子は堪らず呟いた。

「何だよ、清子さん」

 ケイはテーブルの上で頬杖を付いた姿勢で自分達の事を見ている清子を睨んだ。清子は軽く息を吐きながら、ケイを見た。

「そんな事で怒るなんて、本当にくだらないわよ。ケイ君、あなたアキちゃんの事信じてないの?」

「信じるとか信じないとかいう問題じゃないだろ!?」

 清子の言葉にケイはムッとしながら言い返した。

「なによ、結婚したからってアキちゃんを自分のモノみたいに思っちゃって…これじゃぁアキちゃん息が詰まっちゃうわよ」

「清子…」本条の一言で、清子は渋々口を閉じた。「もういいじゃないか、ケイ。アキちゃんは智日君を弟みたいに思っていたから家に上げたんだろう?」

「はい…」

 アキはうつむいたまま答えた。

「もうその辺にしといて、早く飯にしよう。腹が減って死にそうだよ」

 本条の言葉に、清子は頷いた。「そうよ…今日ご馳走食べられると思ってお昼軽く食べたんだからね…」

 ぐったりと呟く清子に、アキは笑い出した。

「すぐ準備しますから…」アキはそう言ってソファから立ち上がり、ケイを見下ろした。「…ケイ君もお腹空いたでしょ?」そう言いながらケイの顔を覗き込んだ。「…ケイ君?…なんか目の周り赤いよ?」

 アキはケイの額に手を当てた。

「!!ケイ君すごい熱!清子さん!」

 清子は慌ててケイの顔に手を当てた。

「…やっぱり熱あったのね…まったく…アキちゃん、体温計持ってきて」

 アキは急いで台所から救急箱を持ってきた。

「…大丈夫だって…」

 ケイは清子の手を払った。

「何が大丈夫よ。ほら!早くわきに挟んで!」

「腹減った〜…」ケイはそう呟きながら体温計をわきに挟んだ。

「…ケイ君…ご飯食べれる?お粥作ろうか?」

 心配げなアキに、ケイは微笑んだ。

「大丈夫。今日ハンバーグだろ?ちゃんと食べれるよ」

 そんな2人のやり取りを横目で見ながら、清子はうんざりしながらため息を吐いた。





 清子が帰った後、本条が2階の自分の書斎へ上がり、ケイが風呂に入っている間にアキは麻衣子に電話を掛けた。

「…本当にごめんね…麻衣子ちゃん…」

[ 気にしないで下さいって!それより、もう仲直り出来ました?]

「…うん…なんとかね…」

 アキは苦笑しながら答えた。

[ やっぱり二人っきりで過ごした方が本条君喜んだと思いますよ、アキさん]

「…うん…」

[ …アキさん、あの背の高い男の子。あの子誰ですか?私の名前知ってたから驚いちゃった!]

「智日君?…あの子は…」アキは一瞬考えた。「…あの子は先生の親戚の子供さんなの…麻衣子ちゃんが来る事、私が話したの」

[ あぁ〜…そうなんですか…なんか本条君に少し感じが似てたから驚いちゃった]

 麻衣子の言葉にアキは驚いた。

「麻衣子ちゃんもそう思った!?」

[ はい。すごいキレイな顔立ちしてたから…] 

「ちょっとした仕草とかもケイ君に似てるの」

 アキの耳元で、麻衣子の笑い声が響いた。

[ なんか…アキさん嬉しそう…]

「え?…そう?」

[ 可愛い弟って感じですか?]

 麻衣子の言葉に、アキの顔を緩んだ。

「そうなの。なんかね…ケイ君がまだ高校生だった時の事思い出すの。高校生の頃のケイ君って智日君みたいにコロコロ笑ってて可愛かった…」

 アキはそう言いかけて、慌てて口を閉じた。

 麻衣子の楽しそうな笑い声がアキの耳に響いた。

[ 本当に夫婦喧嘩なんてしたんですか?]


 電話を切った後、アキは居間のソファの上で物思いに耽った。


―――ケイ君のお母さんって…どんな人だったんだろう…智日君のお母さんと似てたんなら智日君のお母さんの写真とか見れたらなんとなく分かるかなぁ…


 アキはそんな事を考えながら、居間の天井を見つめた。


―――きっとすごい美人なんだろうな…お父さんも…すごいかっこいい人なんだろうなぁ…


「―――アキ!」

「わぁ!!」目の前のケイの顔に、アキは飛び上がった。

「また考え事?…いつも何をそんなに考えてんの?アキ…」

 ケイは、濡れた髪にタオルを当てながら言った。

「ケイ君、ドライヤーで乾かさないと駄目だよ!せっかく熱下がったのにまた上がっちゃうじゃない!?」

「もう大丈夫だって!」

 ケイはそう言いながら、アキの身体とソファの間に入り込み、アキの身体を強く抱きしめた。

「…ケ、ケイ君!本当にちゃんと乾かさないと風邪ひいちゃうって!…」

 アキはそう言いながらケイの額に手を当てた。まだ少し熱い額に、アキは言いようの無い不安を感じた。

「ケイ君…まだ少し熱あるんじゃない?…早く寝た方がい…」

「さっきはごめんね…」

 アキの言葉を遮るようにケイは言った。

「…アキの事、疑ったワケじゃないんだよ…だけど…僕以外の男と二人っきりの時間なんて過ごさないでよ…」

 ケイはそう言って、アキの細い身体をさらに強く抱きしめた。

 アキはケイの額に頬を付け、小さく頷いた。

「…分かった…分かったから、ケイ君にもお願い。麻衣子ちゃんと智日君にちゃんと謝ってね…」

 ケイはしばらくの間黙っていた。

 アキは小さくため息を吐いた。「ケイ君?」

「アキの頬っぺた…冷たくて気持ち良い…」

 とろんとした口調で言うケイに、アキは肩を落とした。

「もう!ケイ君!」アキはケイの頬をつねった。

「痛い!痛い!…分かった!…有尾にはちゃんと謝るから!…」

「智日君にも!」

「あいつに謝るのは嫌だ!」

 ケイの強い口調に、アキは困惑した。

 ケイは自分の頬をつねるアキの手を握り、自分の頬に当てた。そして静かに目を閉じた。アキはケイの頬から伝わる温もりを手のひらで感じながら、ケイの長い睫を見つめた。

 長い睫がゆっくり動き、ケイの澄んだ瞳がアキの思考回路を麻痺させた。

 その時、一瞬だけ、アキにはケイの瞳が黄金色に光ったように見えた。

 アキは強く打つ鼓動を感じながら、瞬きをしてもう一度ケイの瞳を見た。

 いつもと変わらない吸い込まれそうなくらい澄んだ瞳で、ケイはアキの顔を見つめていた。


―――何?さっきの…目の錯覚?…


 ケイのくしゃみに、アキはハッとした。

「ほら!早く髪乾かして!」

 そう言いながらアキはケイの身体を押した。ケイはソファの下にあった物につまずき、転びそうになった。

「ご、ごめん!ケイ君!大丈夫?…」アキはケイの足元にあった白い紙袋を見た。「あ!そうだった!これ!誕生日プレゼントじゃない?会社の人からもらったの?」

 アキの言葉に、ケイは…あぁ…と思い出したように呟いた。

「それ、捨てといて。」

「え!?どうして!?」

「どうしてって…いらないから」

 平然と言うケイに、アキは唖然とした。

「せっかくのプレゼントなんだよ!ケイ君!」

「だって…本当にいらないんだよ…」

「そんな…」アキはショックを受けながら呟いた。「そんな物を粗末にするような人に私はプレゼントなんか絶対あげない…」

 アキの言葉に、今度はケイが愕然とした。

















≪―――マジで本条ケイってムカつくよな……≫

 智日はムカムカしながらも、“Jun−Cafe”の店内を動き回るアキの姿を少し離れた場所から監視していた。

≪…あぁ!くそ!あのハンバーグ食べたかった!≫

 そう思った途端、智日の腹の虫が鳴った。

 智日はのろのろと立ち上がり、“Jun−Cafe”へと歩き出した。


「―――いらっしゃいませ!…お一人様ですか?」

 理子はしげしげと智日を見つめながら言った。

「…はい、一人です…」

 智日はそう言いながら店内の奥にある厨房へと目をやった。ちょうどその時、アキが徐に顔を上げた。

「!智日君!!」

 アキの声に、智日は笑顔で手を振った。


「この間は本当にごめんね…智日君…」

 アキは申し訳なさそうに頭を下げた。

「別にアキさんが悪いんじゃないから、気にしなくていいよ」

 智日はそう言いながら、3つめのベーグルサンドを頬張った。

「…智日君、もう少しゆっくり食べないと喉に詰まるよ?」

「うん?…うん…」

 智日は口いっぱいにベーグルサンドを頬張ったまま頷き、ホットコーヒーをすすった。

 そんな智日を見つめながら、アキは微笑んだ。

「本当に美味しそうに食べるね…」

「うん!だってすげぇ美味いもん!」

 智日は嬉しそうに言って、フライドポテトを口へ運んだ。

「…本当にケイ君の食べ方によく似てる…」

 アキはくすくすと笑った。

 智日はそんなアキの穏やかな表情を見つめながら、息を吐いた。

「アキさんって…いつも俺とケイさん比べてるんだね?」

「え?…」アキは言葉を詰まらせた。

 智日は焦りだしたアキを見ながら微笑んだ。

「…今日はアキさんにイイもの見せてあげようと思って来たんだ」

「イイもの?」

 首を傾げるアキに、智日は羽織っていた薄手のジャンパーのポケットから財布を取り出し、財布に挟めていた写真をアキの前に置いた。

 アキの表情が変わった事に、智日は気付いた。

「…これ…もしかして…」

 アキは震える手でその写真を持ち上げた。

「長いウェーブヘアのが俺の母親で、その横にいる人がケイさんの母親」

 アキは息をするのを忘れたまま、2人の女性が笑顔で写っている写真を見つめた。

 双子ではないか?と思うくらいよく似た2人の美しい女性の顔に、アキは見入っていた。

「…あぁ…本当に綺麗な人ね…」

 アキはそう呟きながら、2人の女性の顔を指で撫でた。

 アキの心臓は激しく高鳴っていた。その反面、心の奥底で温かい感情が込み上げていた。

 智日はアキの瞳から流れる涙を見て、一瞬言葉を失った。


 店の奥で2人の様子をうかがっていた純子達は心配げに見つめていた。

 智日はそんな店内の雰囲気に、ハッと我に返った。

「ア…アキさん…ここでそんなに泣かれたら…俺…立場的にちょっとマズイんですけど…」

「え?」

 アキはようやく自分が泣いている事に気付いた。

 店内にいた数名の客達が智日とアキを見ながらひそひそと話をしていた。アキは慌てて涙を拭った。

「―――アキちゃん…」純子が静かにアキに近寄った。「良かったら(店の)奥に行く?その方が話しやすくない?…」

 純子は小声で言いながら、智日の顔を怪訝そうに見た。

「え?…あっいや…大丈夫ですよ!純子さん!」

 アキは慌てて言った。















 薫は大きくため息を吐いた。

「智日の奴…あれほどケイとは仲良くしろって念押したのに…」

 薫はイライラと呟きながら、タバコに火を点けた。

「智日はまだケイの性格を把握していないようです」

「…だからってアキちゃんと仲良くなり過ぎよ!……ケイの父親の事もまだ分からないみたいだし…本当に何やってるのよ!あの子は!!」

 憤慨する薫を見ながら、大神は苦笑した。

「…ちょっと大神?笑ってる場合じゃないわよ。あの子をここに連れて来たのはお前なんだからね!あの子がミスしたらお前が責任負わないといけないのよ?分かってるの?」

「はい、十分承知しております」

 薫は落ち着き払った大神を横目で見ながら、タバコの煙を天井に向かって吐いた。

「…奥様、やはり黒崎はアキを狙っているようです」

「アキちゃんを交渉の道具にしようとしてるのね…まったく…そんな事でケイが味方に付くとでも思ってるのかしら…」

 薫は呆れたように言った。

「黒崎は頭の良い男です。何か考えがあるのでしょう…それに、今のケイの身体の状態は我々にとっても好ましくありません」大神の言葉に、薫の顔色が変わった。「どうやら…黒崎は身を隠していた3年間で、この組織とそして浅井を殺したケイを潰すために<HMG>を味方に付けたようです」

「…<HMG>って…あのグリーソン一派の事を言っているの?大神…」

 薫の言葉に大神は頷いた。

「…アメリカの機密部隊も手が出せないという凄腕殺し屋集団を味方に付けた?…まさか…そんな事…可能なの?…」

「黒崎なら可能でしょう」

「…あぁ…参ったわね…」

 薫は灰皿の中でタバコを潰し消し、大きく息を吐いた。

「…とにかく、智日にケイの父親の事調べ上げるように伝えてちょうだい」

「分かりました」

 大神はそう言って頭を下げた。

「それから、大神…」

 大神はゆっくりと顔を上げた。

「そろそろ手術の事、考えてくれないかしら?」

 薫の言葉に、大神は苦笑した。















「―――はい…はい…分かりました。大神さん…はい…」

 智日は小さく頷きながら大神の話を聞いた。そして玲奈のマンションのリビング・ダイニングルームの開けた窓から、今にも降り出しそうな星空を眺めた。

 智日は携帯を切っても、そのまま動かず窓一面の星空を見つめた。

「…仕事、忙しそうね?智ちゃん…」

 玲奈はワインとグラスを抱え、革張りのソファに腰を下ろした。

 智日は微笑みながら、玲奈の横に腰を下ろした。

「…今日はもう帰らないといけないよ…」

 智日はそう呟きながら、グラスにワインを注ぐ玲奈の肩に顎を乗せた。

「あら、そうなの?…残念…」

 玲奈は悲しそうに苦笑しながらワインを口へと運んだ。智日も黙ったまま、ワインを一口飲んだ。

「……ねぇ、玲奈さん…」

「なぁに?」

 智日はグラスの中でゆっくりと揺れるワインを見つめながら呟いた。

「…嬉しい時に…泣いた事ある?」

 智日の言葉に、玲奈は首を傾げた。「悲しい時じゃなくて?」

「嬉しい時に…感動した時とかに…泣いた事ある?」智日は真剣な面持ちで玲奈に訊いた。

「もちろん、あるわよ」

「…最近?」

 玲奈は考えるように、口に手を当てた。「最近はないなぁ…昔は色んな事で泣いたり笑ったりしていたけど…30過ぎちゃうと、なかなか感情を表に出せなくなるものなのよ…」

「…そうか…」

 玲奈はうつむいたままの智日を見つめた。

「…智ちゃんは、嬉しい時に泣いたりしないの?」

 玲奈の言葉に、智日は顔を上げた。

「…記憶に無い…あんまり…泣いた記憶が無いんだよね、俺…」

「そう…そしたら、嬉しい時に泣ける人は智ちゃんにとってすごく新鮮な人なのね?」

「そう、そう!」

 玲奈の言葉に、智日は笑った。

 玲奈は微笑みながら智日の頭を撫でた。

「嬉しい時に泣けるなんて…とても素敵ね、その女性ひと…」

「え?」

 智日は驚いた表情で玲奈を見た。

「きっと…とても心が綺麗な女性ひとなんでしょうね…」

 玲奈はそう言って、穏やかに微笑んだ。

「…そ…そうだね…」

 智日はそう呟きながら―――――今まで感じた事の無い胸の高鳴りに困惑していた。



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