コーヒーカップィン
物書き仲間に『コーヒーカップの気持ち』というテーマをもらい、20分で書いたものです。
湯気をたてているが、これは私のため息である。
みな、私がため息をつく理由を知らない。
だからか知らないが、よく朝っぱらから私を握りしめ『朝はコーヒーが一番』などという言葉を吐くのだ。
一番? 溜まったものではない。私は朝にこぽこぽとコーヒーを私の体内に入れられ叩き起こされるのが一番嫌いなのだ。
しかも苦く黒くどこまでもそこが見えないコーヒーなどというものをどれほど私の中に注がれようと全くもって楽しくない。
もっとみなコーヒーなどより私を有効活用する方法を見いだせるはずだろう。
例えば、私を掴み嫌いな相手へ向けて投げる。私は壊れるが、握ったものはうさを晴らしスッキリした気持ちをもって朝を迎えられる。コーヒーなどというものでスッキリしない目覚めを送ることなんてなくなるのだ。
いい提案だろう?
あるいは、私の中身を想像するなんてどうだろうか。私の中身には何も無い。空っぽだ。この状態だとため息をつこうにもつけない。私にとって良い状態だ。しかも想像することによってその人の頭の中にたくさんの思い出を詰めることができる。恋人と温かい飲み物をこのカップで飲む風景や、美味しいものを飲んだあとの幸福感、充足感をひとしきり味わい、何も無いカップに注ぐ。
なんとも心地いい体験ではないか。
だから、私の中に何かを投げ込むな。とりわけコーヒーなどという飲み物はいけない。中に入れるとなると、コーヒーではなくもっと透き通ったものにするべきだ。そうすれば、中に何が入っているか分かるだろう。
コーヒーはいけない。
コーヒーだけはいけないのだ。
コーヒーが入っていると、その中に毒物を入れられた時、私は気づいていても私で飲む者はわからない。その中に怪物が潜んでいようと、一気に飲んでしまう。そして体内に入り、内部から侵略されていく。そうして知らないうちに違う人になってしまうのだ!
気づけば、コーヒーを飲むものは全てクローンとなり別人と化し、この世は崩壊してしまう!
それならば私を使え。私はため息をつき、みなを助けるため常に非常ベルを鳴らしている。
私のため息に気づけ。私が零している憂鬱も全て、そのためにあるのだ。
だから、今この時もため息をついている私に気づけ。
コーヒーが入っているこの体内には、お前に向けた結婚指輪が隠されていることを、お願いだから気づいてくれ。
だから私はコーヒーが苦手でため息を零すのだ。