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プロローグ

 スゥーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー・・・・ハァハァハァハァハァハァハァハァ。



 三鷹凛子の匂いを、肺がパンパンになるまで取り入れる。先ほどからこんな事をずっと続けているので、頭がクラクラして倒れてしまいそうだ。


 しかし、これは神様がくださったご褒美だ。この僅かばかりの至福の時間を一時も無駄にすることはできない。



 三鷹凛子。可愛いらしい顔立ちと誰にでも気さくに話しかける明るい性格で男子の人気は高い。


 そんな自分も三鷹凛子を想う一人ではあるが、俺は身の程をわきまえている。


 俺のようなスクールカーストの中の下段辺りに所属しているような人間がいくら頑張ったところで、三鷹凛子とどうにかなる可能性はないに等しい。

 だから俺は、彼女を見ているだけで満足しようと思っていたんだ・・・・つい先ほどまでは。



 ◻



 物理の授業は選択科目の為、1組と2組の物理を選択した生徒合同で授業が行われる。

 授業は俺のいる3年1組で行われ、2組の生徒は空いてる席に適当に座って授業を受けるのだが、ここで奇跡が起きた。


 目の前の席に三鷹凛子が座ったのだ。


 この高校に入学して二年半過ぎたが、これほどまでに三鷹凛子に近づいたことがあっただろうか。


 こんな間近で三鷹凛子を長時間感じることは一生ないかもしれない。このチャンスに俺は何をするべきか必死に考える。


 考えに考えた結果、三鷹凛子の匂いを体に取り込むことに決めた。



 ◻



 そして、今に至る。

 授業開始から40分を過ぎ、残りリミットは後10分。ラストスパートをかける時間帯だ。


 思い切り鼻から空気を吸い込んで、三鷹凛子の香りを体内に取り込む。高原のお花畑が瞼の裏に浮かんでくる。


 まさに至福。


「おい!山田。さっきから息づかいが荒いけど大丈夫か?」

 突然教師に名前を呼ばれ、びっくりして立ち上がる。



「はい!なんでも・あり・ま・・」

 勢い良く立ち上がったせいで、激しい立ち眩みに襲われる。


「あっあれ。」

 さっきまで、思い切り吸って吐いてを繰り返していたから、足がフラフラして・い・る・・


 バタン!!






 ◻





 ここはどこだろう?


 真っ暗な部屋の中、目の前にはスーツ姿のお姉さんが立っている。


「あ、あの。すいません。ここはどこですか?」


 スーツのお姉さんはゆっくりと喋りだす。


「あなたは死にました。」


「・・・・はい?」


「あなたは教室で倒れ、頭を強く打って死にました。御愁傷様です。」

 事務的に衝撃的な事を言っている。


「えっ、マジか・」

「マジです。」

 被せぎみで言わなくても良いではないだろうか?



「山田様のゴミみたいな人生は終わりましたので、次の生を始めましょう。」

 オイオイ、サラリと嫌な事を言う人だ。まぁ、そういうのも嫌いじゃないが。



「次の生って、生まれ変わるって事ですか?」

「はい、記憶を消してからあちらの『生まれ変わりの扉』をくぐれば、生まれ変わり完了です。」

 女が指差した方向を見ると、手垢が沢山付いたみすぼらいしい木の扉がある。



 まぁ、俺のスペックではこの先大した人生でもなかっただろうし、生まれ変わって新しい人生を始めるのも悪くない。

 次の人生はイケメンに生まれて、前世で使われることのなかった『息子』の無念を晴らしてやろう。



「では、記憶を消すのでこちらの書類に拇印かサインをお願いします。」

「あっ、じゃあサインで。ペンあります?」

 適当に書類に目を通してサインをしようとする。



「んっ?」

 書類の一番下段に何か黒い汚れが・・・・違う!これはとても小さな文字!?



 書類に顔を近づけて、小さな文字を凝視する。



『※ご希望に添わない生物に生まれ変わったとしても、クレーム等は一切受付ませんのでご了承下さい。』



「オォぉおい!姉ちゃんこれはどういうことだ!?」



「チッ」



 うわー・・・・マジの舌打ち。引くわー。



「スミマセン、説明不足でしたね。」

 女は全く謝罪の気持ちがない謝罪の言葉を口にする。


「次に生まれ変わるものは、基本的にランダムで決められます。なので個体数の多いものに生まれ変わる可能性が自動的に高くなります。」


「え・えーと。一番生まれ変わる可能性が高いものってなんでしょうか?」


「微生物です。およそ八割の方は微生物に生まれ変わります。」


「えっ、マ・」

「マジです。」

 人を苛つかせるのが上手な女だ。


「ちなみにですが、人間に生まれ変わる確率は0.00002%ぐらいです。スマトラサイになると0.0000000000000001%以下です。スマトラサイ凄いですねー。さっ、サインして下さい。」


「できるかーい!!おい!女、俺を生き返らせろ!」


「それは無理です。あなたの体はもう灰になりました。」


「えっ、・」

「マジです。」

 この女殺したい。


「さっさとサインして行きますよ。運が良かったらナンキョクオキアミぐらいになれるんじゃないですか・・・・プークスクス。」


 殺す!この女を殺して俺はここに居座る。


 女が後ろを向いた瞬間に後ろから飛びかかった。


 ドスッ!!


 女に触れた瞬間、俺の体は宙を舞って地面に叩きつけられる。

 そのまま、倒れた俺に女が馬乗りになり拳を振り上げる。


「あっ、待って、待ってください、冗談なグフッ!!」


 ゴッ!ゴッ!ゴッ!ゴッ!

 見事なマウントポジションから顔面にパンチが何発も飛んでくる。


「痛い痛い痛い!死んでるのに超痛い!オゴッ!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめウグッ!」




「フゥ。」

 しこたま顔面を殴ってから、マウントポジションを解いて女が立ち上がる。



「たまにいるんですよ。逆上して暴れる馬鹿が。」

 女は血だらけ拳を真っ白なハンカチで拭き取る。白いハンカチが真っ赤に染められていく。




 シクシクシク・・・・

 痛いし悔しいしで涙が止まらない。


「なに泣いてるんですか。早くサインして下さい。」


「はぁはい、わがりまじだは・・・・。あれ?ペンは?」

 さっきまで書類の上にあったペンがない。



「あそこに落ちてますよ。さっき暴れた時に飛んでいったのでしょ。」

 女が指差した方向を向くとペンが落ちていた。

 女はペンを拾いに行く気がなさそうなので自分で拾いに行く。




「ハァ、生きていても死んでも良いことなんて何もないな。」


 床に落ちていたペンを拾い上げる。


「んっ?」

 周りが暗くて今まで気付かなかったが、生まれ変わりの扉の奥にもう一つ同じような扉があることに気が付く。



「あのー、奥にあるあの扉も生まれ変わりの扉ですか?」


 女は俺の指差した方向に顔を向ける

「あー、あれですか。あれも生まれ変わりの扉ですが、貴方には関係ないですよ。」



 女の言葉に首をかしげていると、めんどくさそうに女が奥の扉の説明を始める。


「あの生まれ変わりの扉は、望み通りのものに生まれ変われる扉です。ただ、誰しもが使える訳ではなく、生前素晴らしい功績を残した者だけ使うことができる特別な扉となっています。」


「素晴らしい功績?」


「そうです、たとえばキリスト教を広め、人々を苦しみから解放した『キリスト』であったり。固まって泳げば襲われ憎い事を発見した『スイミー』などがあの扉を使いました。」


 す・す・スイミーって実在したの!?


「ちなみにスイミーはサメに生まれ変わって、小魚を喰いまくったらしいです。」


 スイミーさんマジクズじゃねーか!!


 それはそうと、あの扉をくぐればなんにでも生まれ変わることができるだと!これは・・・・やるしかないだろ。



「おい!ゴミクズ野郎!」

 急に女に呼ばれてビクリとする。


「まさか、変な事を考えてないですか?」


「へ・へ・変な事なんて考えてないですよ。」

 女がツカツカと俺の側に近づいてきた。恐怖で膝がガクガクと震えだす。



 俺の目の前で立ち止まり、急に右手で俺の首を握り絞めた。


 オゴッ!


「あんまり馬鹿な事を考えていると、もっと酷いめにあいますよ。」

 片手で俺の首を握り潰さんばかりに締め上げる。



 ウグッ!ウッ!やめ!ググッ・・・・



 ゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロゲロ


 勢い良く胃の中の物を全て吐き出す。



「こいつ!汚い!」

 女が首から手を放し、後ろに飛び退く。



『い・今しかない!』



 後ろを振り向き、もう一つの『生まれ変われの扉』めがけて走り出す。



 俺の行動に気付いた女が叫ぶ。

「このゴミクズ野郎が!止まれ!止まらないと殺す!!!」



 女の声を無視して走り続ける。


 扉まであと少し。


「止まれ!ゴラぁぁぁぁぁぁぁ!」



 どんどん女の怒号が近づいて来る。

「止まれ!!」



 手を伸ばし扉を開く。



「やめろー!!マジでぶっ殺すぞ!!!!!!!!!!」

 女が大声で叫ぶ。





「殺してみろ、もう死んでるけどな。」


 人生で最高のドヤ顔を決めて、扉の先にある白い世界に飛び込んだ。



























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