平家物語異聞
弓張月異聞のスピンアウト?の短編です。
アルファポリスで、弓張月異聞「リアルチートは大海原を往く」を投稿しています。今月中には、伊豆諸島御伽草子が完結しそうです。
描き切れない小話を、こちらに投稿しました。
源平合戦は、壇ノ浦で平家滅亡で終幕となった。
全国に勢力圏を持った、平家そのものがそう簡単に滅びるわけではない。駿河という国にも、惜しまれつつ亡くなった、平清盛が嫡男重盛の子が駿河介として赴任していた。嫡男重盛が亡くなった後、清盛が三歳に遡って、藤原経宗の猶子とした。
重盛が生きていた時、源為朝が娘、一姫と宗実が契りを交わして、嫡男八幡が産まれていた。平家一門が戦い敗れていく中で、沼津で不自由なく暮らし八幡と一緒に暮らしている自分が、どうしていいかわからず、『何かしなければ』という焦りのようなものだけが、鬱屈していた。
一は、そんな宗実を、八幡と一緒に必死で支えていた。
「八幡で、なんで八幡なのだ」
宗実は一度、聞いたことがあった。
「あたしの父様は、鎮西八郎為朝だって、よく言っていたし、八幡は源氏の神様だからね」
あぁ、この子は、源氏の血も引いているんだ。
「この子はね、河内源氏の血と伊勢平氏の血を引く、なんていうか、由緒正しき源平の子だよ」
一は、そう言い切って笑ったのである。つられて、宗実も笑った。
駿河介平宗実こと藤原宗実は、平家が京洛を追われた際に、駿河介を解任されて、駿河三嶋大社に逗留していた。
この三嶋大社は、伊豆諸島から、嵯峨諸島、さらには南方嵯峨諸島に至る、後にミズチ航路と呼ばれた、海域全体の守り神であり、伊豆諸島の始まりの社が、この沼津にある三嶋大社であった。三嶋大社より、御蔵島までが、事代主がしろしめす国であり、伊豆諸島の海洋勢力圏となっていた。
「どうした、宗実」
「あぁ、一か、兄様達が亡くなったそうだ」
壇ノ浦の戦いで、遂には平家の者達は討たれたり死んでいったという。その報が届けられたのであった。結局、何もできなかったという想いが、駆け巡っていた。
「#戦__いくさ__#は嫌だね」
「俺も、嫌いだ、でも、このままで良いのかな」
どうしていいのかわからないように言って来た。
「宗実は、仇を討ちたいの、戦なのに」
不思議そうに聞いてきた。
「一、」
疑問を浮かべた一に、疑問を持ってしまった。
一は、はっきりと、言って来た。
「父様が、良く言ってたよ、『清盛は偉かった。平家のために、何をすれば良いかを捉えて天下をとった。それが、父や兄にはできなかった。だから、清盛への恨みは無い』そういってた」
懐かしく、思い出すように話してくる。
「それは」
鎮西八郎為朝、最早、伝説とも言うべき、日ノ本最強の#武士__もののふ__#。正面から戦って勝てるものなし、武勇において、祖父清盛が逃げ出し、自分の兄義朝すらも退けた、武の結晶というべき#漢__おとこ__#
配流となった伊豆を責めようとした工藤茂光が軍勢二千を相手にした、伊豆騒動では、数十人の郎党を率いて、三十束十人張りと言われる強弓を引き、船を砕いて沈め、工藤茂光、宇佐美行正を含め、数百の兵を単独で討ち沈めた。北条時政の父と伯父が、二度と敵にしたくないと言わしめた豪傑。
「たしかに、武人ならばとは思う。だが、一族の滅び」
自らを忘れた宗実を、一は叱った。
「滅んでないぞ、宗実」
「え、」
矢継ぎ早に、畳みかけるように言って来る。
「そなたの父は誰だ、祖父は誰だ」
「そ、それは、祖父は平清盛、父は嫡男平重盛」
すると、ころころと笑うように、
「兄達が亡くなったのであれば、宗実そなたが平家頭領平清盛が嫡孫ではないか」
「そ、そう、なのか」
「そうじゃ、ならばどうするのじゃ、平家再興をはかり、仇討ちとして、鎌倉と戦うか」
「戦う、」
猶子となって、平家ですらなくなった宗実に、今更、兵を集める力が無いという自覚があった。
「宗実、そなたが、望むならば、あたしも一緒に剣を持って戦う。一緒に鎌倉を攻めるか」
「勝てぬぞ、一」
今にも飛び出すような雰囲気の一に、言い聞かせるように言うと、
「あたりまえだ、これは、勝ち負けでなく、情実で戦いを挑む、武人の理、ならば戦するしかない」
一は、目に涙をためながら言って来た。為朝という巨大な父は、情実を持って戦い続けた武人であった。勝つことができぬと理解していても、戦うことを選び続けた武人。
「宗実、あたしは、そなたの父重盛に、宗実の嫁に欲しいと言われて、そなたの嫁となった。そなたを見て、あたしが欲しいと思ったからだ」
「え、一ぃ」
知らなかったと言うような、声をあげた。
「おまえは、優しい、良い男で、今も守りたいものを思って、苦しんでいる。あたしは、お前が欲しいと言って、宗実を選んだ。だから、お前がどのような道を選んでも、あたしは構わないぞ」
「どうすれば、平家の再興は夢だろうし」
ぶつぶつとつぶやく様に言うと、一が
「夢ではないぞ。宗実」
「夢じゃない、」
「元々、藤原家の猶子は、父重盛が死んだ時、宗実の祖父清盛と玲母様で決めたことだ」
「玲母様って、義父上の」
「そうじゃ、父様は、南方嵯峨で水竜王となり、琉球では王の父となったそうじゃ、琉球までくれば、平家再興くらいわけないそうだ」
なんて、破天荒な方なのだろう。この日ノ本を追われた罪人でありながら、外ツ国で王となる。
「ははは、凄いや。ははっ、ははははっはっははは」
なんか、凄い、ほんとに、一、大丈夫だ、そんな残念な目で見ないでくれ、おれは、会いたい、お前の父に、俺の義父に会ってみたい。すっと一を八幡と一緒に抱き上げて、
「一、お前は、素晴らしい嫁だ」
「ちょ、ちょっと、なにを」
恥ずかしく、真っ赤になりながら、俯くと
「おれはさ、一の父、おれの義父に会いたい」
「大丈夫じゃないかな。玲母様から、何時でも遊びにおいでって言われているから」
こうして、平家の落人?が、琉球へと渡ったのでありました。
琉球には、清盛に追われて逃げて来た源氏の話、頼朝に追われて逃げて来た平氏の話が何れもあったりします。そういった亡命者達が目指した、新天地の一つが、琉球であったのでしょう。
平宗実って誰だ?
伊豆諸島編を描いていて、駿河守誰って調べるうちに出逢った人です。




