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女の子の気持ち

食事会続き。セレスティアの贈り物。

 食事会が始まり、私たちが二人の作ってくれた美味しい料理に舌鼓を打っていると、思い出したようにティアがポンと手を叩いて言った。


「そうだハルカ、実はあなたに贈り物があったんです」

「ふえ? おふふぃふぉの?」

「あんた、口に食べ物頬張りながらしゃべらないでよ……」


 私のあまりの食い意地に呆れるあおい、同じく苦笑いしているフランさん。ティアは立ち上がると、さっきみんなで見た壁に掛けてある服の方へと向かった。

 その中の一つ、例の白のふりふりのドレスを手に取った。


「可愛らしいドレスだね。それティアがデザインしたんだよね?」

「はい。実はこれ、あなたのためにデザインしたんです」

「え!? わ、私!?」


 まさかのご指名に驚愕する私。なぜ私? 私なんてティアやフランさんと比べて胸もないし、可愛くもないし、そんな可愛い服を着るなんて分不相応すぎる気がするんだけど……。

 私がオロオロしていると、あおいが言った。


「いいんじゃない? あんた結構乙女だし、そういうの似合うと思うわよ」

「お、乙女って……。私一応勇者なんだけど……」

「でも、勇者である前にハルさんは女の子なんですから、そういう服を着られるのもいいと思いますよ」


 フランさんがニッコリ笑って言う。まあ、確かに私だって女だし、こういう服に憧れがない訳じゃない。でも、これだけ私以上にこの服が似合いそうな人を差し置いて着るというのは、どうも抵抗があるというか、なんというか……。


「ハルカ、私はあなたのこと、女性としてとても魅力的だと思っていますよ。普段は勇ましいあなたですが、こういった女性らしい服を着たあなたも是非見たいと思ったんです。なので、是非ともこれを着ていただけたら嬉しいのですが……」


 ああ、そんな風にあなたに見つめられたら断るに断れないじゃないの。普段は凛々しいくせに、何かを頼む時不安で瞳を揺れさせるのは本当に卑怯だと思う。だって可愛すぎるんだもん。ティアは自分の可愛さを認識していないだけに、それはナチュラルに破壊力を持っていたのだった。


「うーん……分かった! じゃあ着させてもらうね。せっかくティアが作ってくれたんだしね」

「本当ですか? 良かった」


 ホッと胸をなでおろすティア。だから可愛いってのに。


「それでは、あちらの私の寝室で着替えましょう。お手伝いしましょうか?」

「あ、うん、お願い」


 一人で着る自信がなかったので、私はティアに手伝ってもらうことにした。

 ドレスなんて今まで着たことが全くなかったので難しかったけど、ティアの助けのお陰でなんとか着ることができた。


「でも、本当にどうして急にドレスを作ってくれたの?」

「ほ、本当に大した意味はないんです。あなたには勇ましい服が良く似合いますが、可愛らしい服もきっと似合うと思ったんです。私は服のデザインが趣味なので、私の服であなたの魅力を引き出せたらと思いましてね」


 ティアは照れくさそうにそう言う。ちょっとばかり過大評価じゃない? とは思いながらも、せっかくそこまで言ってくれたのならここは素直に厚意に甘えた方がいいかなとも思ったので、私は素直にティアの言う通りにすることにしたのだった。


「Wow! 実にBeautifulネ!」

「とっても可愛いですハルさん!」

「本当に素敵です。ああ、やはりこれを着ていただいて良かった」


 みんなの元に戻った私に対し、みんなはキラキラした目で褒めてくれた。こんなに肩ががっつり出ている服なんて着たことがなかったのでこの上なく照れくさかったけど、褒めてもらえたことは素直に嬉しかった。


「あおい、どうかな?」


 私を見たまま何も言ってくれないあおいにもコメントを求める。しかし、数秒の間あおいは何の反応も示さなかった。


「あの、あ、あおい、さん?」

「……え? な、なに?」

「だ、だから、この服、どうかなと思って……」


 うーん、どうもあおいの反応が芳しくない。どうやらあおいはあまり気に入ってはくれなかったようだ。


「に、似合って、なかった、かな……」

「ち、違う!」


 唐突に、あおいが大きな声を出したので、私は驚いて尋ねた。


「ち、違うって、何が?」

「だだだだーかーらー! 誰も似合ってないなんて言ってないって言ってんの!」


 あおいは顔を真っ赤にさせて妙に慌てている。


「そ、そうなの?」

「そうよ! た、たまにはそういうのもいいんじゃないかなって思ったのよ!」

「ホント?」

「ほ、ホントよ。……に、似合ってるわよ、とっても」


 目を逸らしながらもあおいは最後ははっきり似合っていると言ってくれた。思わず、私は胸の奥からこみ上げてくる感情を抑えることができなかった。


「う、嬉しい……」

「ちょっと!? な、なんで泣いてんのよあんたは!?」

「だって、あおいは嘘とかつけないから、お世辞抜きで言ってくれてるってことだから、なんかもう、嬉しくて……」

「な、なんか軽くバカにされてる気もするけど、とにかく泣かないの! もー! ホントあんたってこういう時乙女よね!」


 我ながらなんで泣いてるのとは思ったけど、こんな素敵な食事会を開いてもらって、あまつさえ私のためにこんな可愛らしい服を作ってくれて、こんなにも嬉しい言葉をかけてもらったら、もう感情を抑えることなんてできないんじゃないだろうか? 色んなことがあったけど、頑張って来て良かったなあと、今私はこの時間をみんなと共有出来る喜びを噛みしめたのだった。


「ほおら、よしよし。せっかく綺麗な服を着ているんですからもう泣かないでください」


 フランさんが頭を撫でてくれる。ああ、あなたは本当に母性愛に溢れていますね。是非ともそのおっぱいに顔を埋めたいところです。


 と、そんなことを思っていた時だった。


「お待たせしましたあ! カミラ、ただ今参上でえっす!」


 明らかな酔っ払いが、部屋に飛び込んできたのだった。


「か、カミラ!? なんですか、あなたもう酔っ払っているじゃないですか!?」

「うええ? 酔ってなあんて、いませんよお!」

「誰が見ても酔ってるっての……。もうくっさいわよあんた。酔っ払いはさっさと部屋に帰って……」


 そう言いかけるあおいに対し、グイッとボトルに入った何かを差し出すカミラさん。


「な、何よそれ?」

「おいしい水ぅ」

「嘘つけ」

「嘘だけど、美味しいのは本当だもぉん!」


 カミラさんはどうやらかなり出来上がってしまっているらしく、普段の厳しい雰囲気は何処へやらといった具合にへべれけになってしまっていた。


「この子は、またどうしてこんなになるまで……」


 ティアは呆れているものの、フランさんは笑顔のままこう提案した。


「でも確かに美味しそうなお酒ですよ。せっかくですし、わたしたちもいただくのはどうですか? それに、ハルさんも前にお酒飲みたいって仰ってましたし」


 そうですよね? といった感じでフランさんが私にウインクする。そう言えば、ここに来て最初の時、すごくしょうもない理由でお酒を飲ませてください! とフランさんに迫った覚えがある。今は別に過度に背伸びをしようとは思わないけど、でも正直、お酒には興味があった。

 日本じゃ未成年である私は絶対にお酒は飲めない。だとしたら、ここで一回貴重な経験をしておくのもありなんじゃないだろうか?


「そうですね。私もお酒は飲んでみたいので、それいただいちゃいましょう。それじゃ、服が汚れるといけないので、また向こうで着替えてきますね」


 私がそう言って席を外そうとすると、


「ちょっと待ってください!」


 慌てた様子でティアが言った。


「え? なに?」

「服は着替えなくていいです! 汚れたら、また洗えばいいんですし」

「でも、こんなに素敵なドレスなのに……」

「いいんです。私の魔術なら洗濯も容易ですし落ちない汚れはありませんので! それに、私はもう少しあなたのそのお姿を見ていたいんです」


 ティアが私の両の手を取る。その表情は真剣そのものだった。


「そ、そう? じゃあ、もう少し着ていようかな。こういう格好していると、なんだかティアが王子様に見えてくるよ」


 普段からシャキッとしているし、私なんかよりもよっぽど勇ましい彼女に手を握られていると、本当にこれから花嫁にでもなるような気がしてしまう。

 間抜けな発言をしてしまったので、ティアは呆れるかなと思ったけど、私の予想に反して、ティアは不敵な笑みを浮かべた後なんとその場に跪いた!


「てぃ、ティア!?」

「麗しの姫君、(わたくし)はあなたをお迎えにあがりました。さあ姫、こちらで私めとお酒を飲みましょう」


 ティアは仰々しく私の手に触れると、左手の薬指にキスをした。あまりの出来事に、私はすっかり顔が真っ赤になってしまった。


「ちょちゃちょちょっと、てぃてぃてぃティア、いいいい、いったい、何を……?」

「ああ、すみません。ハルカが美しかったもので、つい調子に乗ってしまいまして」

「セレスティア、あんたも酒飲んでんの?」

「いえいえ。こんなに可愛らしい方を前にしたらいても立ってもいられなかったのです。それじゃ、今度こそお酒を……って、ハルカ? あ、あの、大丈夫ですか?」


 申し訳ないんだけどねティア、私は今全然大丈夫ではありません。本当に、ティアはズルいよ。可愛さだけじゃなくてカッコよさでも私を骨抜きにするなんて。


「あー、これはダメね。この子、色恋沙汰にはとんと疎いから」

「いささかやり過ぎてしまいましたかね……。いったいどうしたら……」

「このままでいいんじゃない? そこに座らせておけばいいわよ。お酒飲むならあおいもちょっといただこうかな。興味がないって言ったら嘘になるし」


 惚けている私を椅子に座らせ、あおいたちはカミラさん差入れのお酒に手をつけ始めた。


「なにこれ? ワイン?」

「そのようですね。香りも素晴らしいですし、結構ものがいいですよ、これは」


 ティアはボトルのコルクを抜くと、一人一人のグラスに手慣れた手つきでワインを注ぎ始めた。私も意識を現実へと引き戻し、みんなの輪の中に加わった。


「うわぁ、これがお酒かぁ」

「ハルさん、ワインは初めての方には少し刺激が強いかもしれません。まずはこちらのカクテルでもいかがですか?」


 と、フランさんはキッチンの方で、まるでバーテンダーみたいにシャカシャカと銀色の容器(シェイカーというらしい)を振りながらそう尋ねた(容器を振る度に一緒に胸も揺れていたのはここだけの秘密だ)。


「い、いつの間に……。フランさん、カクテル作れるんですか?」

「はい。メイドたるものご主人様の要望に応えるために様々な技術を持っているものです。前にお仕えしていた方がカクテルがお好きだったもので、その時にマスターさせていただきました」


 シェイカーの蓋を開け、既に冷えているグラスに水色の液体を注ぐフランさん。実に手慣れており、テレビとかで見る本物のバーテンダーのように見えた。


「どうぞ、特製の『ブルーラグーン』です」

「おお。甘い香りがしますね。それじゃ、まず一口」


 グラスに口をつけ、ゆっくりと液体を流し込む。舌に触れた瞬間、香り通りの甘さと、人生初体験のアルコールの刺激が合わさり、例えようもない心地の良い感覚が顔から上を支配した。


「美味しい……。それに、何とも言えない幸福感が……」

「ふふ、ようこそ大人の世界へ。これでハルさんも、お酒の魅力に取りつかれること間違いなしです」


 フランさんがいつもの可愛らしさとは少し違う、艶やかさを含んだウインクを私に送った。

 結局ものの数秒でカクテルを飲みほした私は、次のカクテルをフランさんに求めた。しかし、


「ハルさん、一気呵成にカクテルを飲むのはよくありませんよ。甘いので忘れがちですが、カクテルのアルコール度数はものにもよりますがそれほど低くないのです。ジュースの様な感覚で飲まれると、たちまちお酒に飲まれてしまいますよ」


 と、フランさんに注意されてしまった。いけないいけない、いくら美味しくたってこれはお酒なんだ。初めて飲むくせに調子に乗ってはすぐにカミラさんのようになってしまう(さりげなく失礼なこと言っているけど気にしない)。

 ということで、私はフランさんの言葉に従い、ゆったりとしたペースでお酒を飲みながら、しばし彼女との会話を楽しんでいた。


 そして、いつしか一時間が経過していた。幸いなことに、のんびりとお酒を飲んでいた私とフランさんは、それほど顔を紅くすることもなく未だ平静を保っていた。しかし、ワインを飲んでいた一行は違った。すっかりフランさんとのお話を楽しんでいて気付いていなかったけど、向こうの島は既に大変な状態になっていたのだった。

他の人達はどうなったのか?

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