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食事会!

新章です。絆を深めるお話。

「え? ティアの部屋で食事会?」

「はい。ハルカがここに来てからそういう催しを全くやっていなかったので、皆の親睦を深めるためにもどうかなと思いまして。フランチェスカにも手伝ってもらいますが、私も皆に料理を振る舞おうと思っています」


 訓練が終わった夕暮れ時の訓練場で、私がシャワーを浴びに行こうかななんて思っていると、不意にティアがそう提案した。

 ティアの初めてのお誘い。それだけで心躍るものがあったけど、それに加えティアの手料理をいただけるとあれば断る理由はない。


「急なお話ですしお疲れの所とは思いますが、よろしければ、来ていただけないかと……」

「行く! 絶対行く!」


 不安そうなティアをいち早く安心させてあげたくて、私は食い気味にそう言った。ティアは私の勢いに若干驚いているようだったけど、すぐに私の返答に笑顔を弾けさせた。


「本当ですか! 良かった、あなたに来ていただけなかったらどうしようかと……」

「せっかく誘ってくれたんだから、行かない訳がないよ。それで、他には誰が来る予定なの?」

「リアとカミラです。カミラは少し用事があるようなので遅れてくると言っておりましたが。あと、アオイにも声はかけてありますが……」


 ティアの表情が若干曇る。恐らく、あおいからは良い返事がもらえなかったのだろう。でもそれは仕方のないことだ。基本あおいは人嫌いだ。人混みとか祭のみならず、食事会といったイベントにも基本は顔を出さない(私とかバンドメンバーのみの時は別だけど)。

 それに、ティアとあおいは先日あれだけのバトルを繰り広げたばかりだ。ティアはあれから積極的に人と関わり、私ともよく話をするようになった。しかし、なかなかあおいとは言葉を交わせないでいた。あおいはもう何とも思っていないとは口で言いつつも、やはりまだ彼女とのわだかまりは解消できていないようだった。


「あおいはもう一度私から誘っておくよ。きっと照れてるだけだと思うからね」

「そうだと、いいのですが……」

「それで、時間は何時からなの?」

「十九時からです。もう既にフランチェスカが下準備を進めておりますので、私もすぐに手伝いにいかなければ」


 「それでは、お先に!」と手を振ると、ティアは颯爽と走り去っていった。私はあおいを探しにとりあえずシャワー室へと向かった。ちなみにシャワー室の設備は私がいた世界と同じくらい整っているので、女の子としては嬉しい限りだったりする。


「あ、やっぱりここだ」


 シャワー室には訓練の疲れを洗い流しているあおいの姿があった。相変わらず端っこの方にいて周りの人と談笑している様子はない。あおいは私の姿を見つけると、一言「お疲れ」とだけ言った。


「一人で行かないで声かけてよ」

「ちょっと一人になりたかっただけよ」


 あおいはフンと鼻を鳴らす。


「なんか嫌なことあった?」


 私はあおいの顔を覗きながら尋ねると、あおいはぶっきらぼうに言った。


「別に。アイツのめんどくさそうなイベントに呼ばれただけよ」

「ああ。行こうかどうか悩んでたの?」

「まさか。あおいはそういうめんどいのは行かないって決めてるから」


 あおいはがっちり目を瞑って頭を洗っている。あおいは目にお湯が入るのを極度に嫌う。それは小学生の時から変わっていない。そんな彼女の様子を私はニヤニヤしながら見つめる。

 あおいの身長は中学生の時からあまり変わっていない。でも、発育自体が悪いという訳でもない。ほら、身長が高いからって出る所まで出てる訳じゃないでしょ(誰のこととは言わないよ)? 実際、あおいのバストは徐々にではあるけど育ちつつある。私はなんとはなしに、あおいの胸に人差し指で触れてみた。


「ひゃ!? ちょ、ちょっとあんた、何やって……!? 痛っ!? も、もう! 目にお湯が入っちゃったじゃないの!?」

「ご、ごめん! あおい落ち着いて、お湯は止めたから!」


 シャンプーの泡まみれのままあおいは私を力いっぱい睨みつける。私は「あはは……」と力なく笑うことしかできなかった。結局、お詫びということで私はあおいの頭を洗うのを手伝ってあげた。正直楽しかったのであんまりお詫びという感じはしなかったけど。


「ったく、あんたって子は……」

「ごめんって! あおいの発育状況の確認だったんだよ!」

「そんなもん確認しないでよ! 別にあおいの身体がどうなったって遥には関係ないでしょ!」

「か、関係なくはないよ! だって、あおいばっかり大人になっちゃったら、寂しいっていうか、何と言うか……」

「はあ? もう、あんたは時々よくわかんない事言うわね……」


 あおいはやれやれといった感じながらも、私の言いたかったことがなんとなく分かったのか、それ以上それについて言及するのをやめてくれた。

 私のシャワーを浴びると、更衣室で二人して着替える。その途中、私はもう一度ティアの食事会について聞いてみることにした。


「さっきの話なんだけど、私も今日ティアに食事に誘われてるんだけど、あおいも、どうかな?」

「……あんたさっきのあおいの話聞いてた? なんであおいがそんなのに行かないといけないの?」

「だって、あおいはこのままだと寮で一人でご飯食べるんでしょ? あおいがこういうの好きじゃないのは分かってるけど、私が皆とお食事しているのにあおいだけ一人ってのは、なんとなく、嫌というか。それに……」

「それに、なに?」


 あおいが厳しい視線のまま尋ねる。隠しても仕方がないので、私はぶっちゃけて言った。


「やっぱり私は、みんなにあおいの良い所をもっと沢山知ってほしいの。みんなにあおいを好きになって欲しいの。みんなと沢山お話すれば、きっとみんなあおいのことを好きになると思うんだよね」

「ど、どうしてあんたにそんな心配されないといけないのよ?」

「どうしてって……そんなの、あおいが大切だからに決まってるよ。あおいは本当に優しい子だから、みんなにもっと知ってほしいの。あおいが独りなのは、寂しいし、嫌なんだよ……」

「こ、こんな所で泣かないでよ! あーもう! 本当にあんたは、恥ずかしいことを次から次へと……」


 やれやれといった様子であおいは頭を掻いている。でもあおいがどう言おうと、今のは全部本当の気持ちなんだ。私はあおいに幸せになってほしいんだ。だから、そのためならどんな協力も惜しむつもりはなかった。


「はあ……。結局、あんたのペースってわけね」

「あおい?」

「分かったわよ。どうせ今日は予定なかったし、別にあっちに行ってやってもいいわよ。でも、あおいはあいつらと慣れあうつもりはないからね。あおいは別に友達なんていらない。だって、あおいの本当の気持ちを理解出来るやつなんて、ここには他にいやしないだろうからね」


 そう吐き捨て、あおいが一足先に更衣室を出ていく。「そんなこと、ないと思うけど……」と、私はボソッと呟いた。

 まあしかし、多少強引だったけれど、これであおいも食事会に参加してくれることになった。私は小走りであおいに追いつくと、並んでティアの部屋に向かって歩き出した。


「Oh! 二人ともよく来たネー! 今セレスティアとフランチェスカがご飯の準備をしているネ! 我々は座って待ちまshow!」


 ティアの部屋に着くと、一足先にリアさんがテーブルに腰かけていた。彼女から石鹸の香りがするので、どうやら私たちよりも早くシャワーを浴びていたようだ。

 私とあおいもリアさんに倣って椅子に腰かけた。

 ティアの部屋は私の部屋と同じくらい広い。全く物が散らかっている様子もなくしっかり整理整頓されていて、実に彼女らしいきっちりした印象を受ける部屋だった。


「あれ、あの服って、アルカディア騎士団の服ですよね?」


 部屋の目立つ所に服が掛けてあるのが目に入ったので、私はリアさんにそう尋ねた。


「そうデスネ。セレスティアは服のデザインが趣味デスし、あれも彼女がデザインしたんでしたネ」


 壁に掛けてあったのは三着の衣装だった。一着は騎士団の女性用の服で、もう一着は騎士団の男性用の服だ。そして、もう一つは、


「セレスティアの雰囲気と違って随分可愛らしい服ね。あれは戦闘服っていうより、ドレスじゃないの?」


 あおいが言う通り、他の二つとは雰囲気の違うドレスだった。純白でヒラヒラのついた可愛らしいデザインで、あおいはああ言っているけど、きっとティアが着たら似合うんだろうなあと勝手に思ったりした。


「あ、みなさん、お待たせしました。お食事の準備が出来ましたよ」


 服を眺めていると、エプロンを着けてその両手にお鍋を持ったティアがダイニングへとやって来た。


「うわー、良い匂い。もうお腹ペコペコだよ」

「ハルカ、よだれガ……」

「うお! しまった!」

「相変わらず食い意地はってるわね」


 あおいが呆れて肩をすくめる。しかし、今の私はそんなことは意に介さない。次々に運ばれてくる料理を身を乗り出しながら香っていた。

 テーブルの上に料理が出そろうと、ティアはエプロンを外してリアさんの隣に腰かけた。戦場を駆ける彼女もカッコいいけど、こうして手料理をふるまってくれる彼女も違った魅力があっていいんじゃなかろうか?


「さて、遅くなってすみません。準備ができましたのでいただきましょうか。フランチェスカも御苦労さま。あなたも一緒に座って食べましょう」

「いえいえ。わたしはあなたのお手伝いがしたかっただけなので、どうぞお気になさらずに」

「ええ! せっかくですしフランさんも食べましょうよ! 食事は大勢の方が楽しいですし、たまにはあなたと語り合いたいですし!」


 私は首を振るフランさんの背中を押して無理やり席に着かせる。


「ほ、本当に、よろしいのでしょうか?」


 まだ困惑気味のフランさんに対し私は仰々しく言った。


「いいんです! それにこれは勇者命令です! 従わない場合は、あなたのおっぱいを私が飽きるまで揉み続ける刑に処しますが、それでもいいんですか?」

「ハルさん、今日はいつになく強引ですね……。おっぱいを揉まれるのは、まあ、あなたなら別に構いませんが」


 なぜか頬を赤らめるフランさん。


「そこは断るところよ。その子、あんたが思っているよりずっとおっさんだから。ほら見てあの手の動き。あれを卑猥と呼ばずして何と呼ぶの?」


 わしゃわしゃと手を動かす私を見てあおいが毒づく。その様子が面白かったのか、思わずフランさんが噴き出した。


「ふふ、本当にみなさんありがとうございます。こんなに優しくしてもらえるなんて、メイド冥利に尽きるというものです。分かりました、今日はお言葉に甘えて、この食事会に参加させていただきます」


 フランさんの笑顔が弾ける。それに釣られてみんなも笑顔になった。


「さて、まだカミラが来ていませんが、お先にいただいてしまいましょう」

「イエス!」「待ってました!」「はいはい」


 みんな思い思いの返答を寄越し、食事会がスタートした。

食事会開始!

次回も食事会の模様をお届けします。

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