プロローグ 門脇という男
『えー、今回のテストも一位は門脇だ。よく勉強したな』
『50m走、5.9秒…。あっちに実業団のスカウトがきているぞ、門脇』
『体育、めっちゃ活躍してたじゃん。門脇なら即戦力だよ! バレー部に入ってくれよ!』
―――これで何度目かな。
似通っていて、もう聞き飽きた褒め言葉が毎日のように耳に届く。
言われなくてもわかってる――
―――僕は天才だから。
ところで、放課後の体育館裏、そこに僕はいる。
夕焼けが校舎の窓ガラスに反射し「どうだ、綺麗だろ」と言わんばかりに自己主張している。
残念ながら僕には夕焼けを愛でる暇はないし、趣味もない。
「どうしたんだい?こんなところに呼び出して」
僕は、目の前にいる女子生徒に問いかける。
「あの、あのね」と言葉を必死に紡ごうとする彼女のその顔は、夕焼けに照らされていてもハッキリとわかるくらい紅潮していた。
「か、門脇君って、身長も高いし…、顔もジャニーズ系だし…、カッコイイよね!? みんな言ってるよ」
「そうなんだ」
「…お、覚えてるかな。体育の時、一人余っちゃった私と組んでくれたとき…。嬉しかったよ…」
率直に言えば覚えていない。
「好きです…っ!付き合ってください…っ!」
告白された。
しかし、僕は顔色ひとつ変えなかった。
告白の瞬間。この瞬間も、何度も経験するうちに慣れてしまったようだった。
「ごめんね。君とは付き合えないよ」
僕の言葉に彼女は絶えられず涙を浮かべる。
それでも、諦めきれないのか彼女は
「…なら…っ! 私、きっとあなた好みの女になってもう一度告白します…っ!! 門脇君は……、どんな人が好き…なんですか?」
「自分」
「―――え?」
「自分」
僕はポカンと口を開けて呆然とする彼女を横目に、ポケットから取り出した手鏡で自分の顔をウットリと眺めた。