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お姉様はヴァンプ!~乙女の花園ミストレス女学院高等部より~  作者: 藤堂みちる
~第2章 ハーフヴァンプ!?な女学院生活~
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~宍戸倫子×前園葵~◇出会い編◇

 宍戸倫子がその少女を新入生の顔ぶれの中で見つけたのは、入学式から数日経ったミサのときだった。二年生でありながら、クインテットとして壇上に上がった彼女は、前日のくじ引きでまんまと当たりを引いた結果、新入生への祝いの挨拶を述べる役目を背負うこととなり、内心面倒だと思いながらも、“三年生のお姉様”の手前、サボるわけにもいかず、渋々、マイクを取ったのだった。


「初々しい一年生の皆様方。ミストレス女学院へようこそ」


 お決まりの挨拶を口にしながら、集まった面々を見下ろしていると、在校生は勿論、初めて目にする一年生の誰もが自分へ心酔するような眼差しを向けているのが分かった。それも当然だ。人間の平均的な容姿とは比べ物にならない美貌をもつ自分が、こうして注目の的になるのは日常茶飯事で、もはや必然的な現象だった。


(みーんな、目をとろんとさせちゃって、可愛いったらなんの)


 人一倍優れた美貌を持つ者のみが入会資格を得る風紀委員会に属する彼女は、同じく人並み外れた美貌の上級生や同級生らと共にクインテットと呼ばれ、他のクインテットとは一味異なる魅力で、在校生からの支持を得ていた。


(片っ端から吸血したくなっちゃうわ)


 恐ろしく整った顔立ちで人々を魅了する彼女らは、しかし、人間ではなかった。


「美しいこの学び舎で共に過ごせることを心から嬉しく思います……」


 顔にはりつけたはずの微笑みが目の前の光景に弛んでいく。舞台の袖から小声で「倫子!」と叱責する声が届いた。何かと口うるさい同級生の一条雅だ。


(はいはい、分かっていますって)


 今度は反対側の舞台袖の方から、くす、と密かな笑いが漏れた。これは悪友の赤坂雪乃だ。肩を上下する仕草をしかけて、止める。これ以上、雅のお怒りを受けるのは御免だ。


 ヴァンプ、という名を持つ彼女達は容姿同様、聴力もまた人間のそれとはかけ離れた能力を持っていた。


(それにしても、今年の一年生は当たりかしら。どの子も結構可愛いし、私好みかも。これが終わったら、ちょっと味見でもさせて貰おうかなあ。ふふ。甘い言葉をかけてやるとすぐに引っかかるんだもの。女の子って、本当お馬鹿さんで、可愛いんだから。……ん?)


 口では新入生を歓迎する挨拶を述べながら、内心そんな不埒なことを考えていた宍戸倫子の目に、一人の少女が留まった。多くいる少女達の中で一人だけ、此方を向いていない。どこか退屈そうな顔で、視線は壇上ではなく壇下を見ている。と思ったら、小さく欠伸をした。


(なっ……)


 その光景に頬がひきつる。その場にいる少女達は皆一様に自分に好意的な眼差しを向けているというのに、その少女だけは全く此方を見ずに、あまつさえ退屈の極致と言わんばかりに欠伸までしたのだ。これに宍戸倫子の中で何かに火が付いた。


(いい度胸しているじゃない。よーし。味見するのは彼女に決めた!)


 よく見れば、中々整った顔立ちをしている。無意識に舌なめずりをした彼女に、再び舞台袖から一条雅の小さな叱責が飛んだ。





「こんなところに連れてきて、私に何の御用ですか…」


 新入生への挨拶を滞りなく済ませ、ミサが終わると、すぐに入口へとまわりこみ、出てきた彼女を掴まえると、何も告げずにミサが行われた建物の裏へと強引に連れ出した。


 人気のない場所までくると、ようやく手を離してやり、まじまじと近距離での対面を果たす。目の前の彼女は相変わらず、壇上で見たときと同じように、無関心そうな顔をして此方の顔を見ながら、ぶっきらぼうに言い放った。


「……あなた、名前は?」


 生意気ともとれるその態度に、今まで触れ合ってきた少女とは違う相手への興味を掻き立てられる。


「前園葵です…」


「そう、葵ちゃんと言うの。可愛らしい名前ね」


 とびきりの笑顔で褒めてやっても、目の前の少女はぴくりとも反応しない。


「どうも」


 ただ、素っ気なく答えるだけだ。


「ねえ。葵ちゃんは私を目の前にして、何か思うことはない?」


 無駄だと知りながらも、もしかしたら、という期待を胸にして宍戸倫子はかけていた眼鏡を人差し指でくいと上げながら問いかけた。これほどの美貌の上級生が下級生を誘い、ここまで連れてきたのだ。普通の少女であれば、何かしらのご褒美を期待するのが人の常というものだ。今までの態度が照れ隠しという場合もある。


 だが案の定、前園葵は固く口を閉ざしたまま、視線を逸らした。


「……」


 宍戸倫子は一貫してそんな反応を見せる彼女に辛抱強く話し掛けた。


「正直に言っていいのよ」


 すると、前園葵は顔を上げて、じいっと宍戸倫子を見つめた。穴が開くほど見つめられて、思わず、宍戸倫子の方が目を逸らしたくなるような羞恥心を覚える。そんなことは初めてだった。いつもは自分の方が少女へ視線を遣れば恥ずかしさから逸らされてしまうというのに、彼女は一向に視線を逸らそうとはしない。


「ほ、ほら…どう思ったのか、私に教えて?」


 宍戸倫子がついに前園葵へ発言を促すと、前園葵は重たい口を開いて、言った。


「……うさんくさそう」


「っな……う、うさんくさい!?」


 その言葉に、耳を疑った。

 目の前の彼女は違わないとばかりにはっきりと頷いた。


「わ、私のどこが……」


「その、微笑みが何となく。人をたぶらかすような感じがして、少し怖いです…」


 まだあどけなさを残す少女にそんなことを面と向かって言われて、宍戸倫子のプライドは酷く傷ついた。


「くっ…私にそんなことを言うなんて……ミサのときと言い、葵ちゃんにはきついお仕置きが必要のようね」


 大人げなく波立った心のままに宍戸倫子は前園葵を抱き締めた。もともと身長さもある上に完全に不意打ちだった彼女の行動に前園葵は虚を突かれ、抵抗する間もなく腕の中へとすっぽり収まると、無防備なその首筋を彼女の前に晒した。


「たっぷりと後悔させてあげるわ、葵。甘い夢の中でね」


 突然、ぷつり、と尖った何かが首筋を刺す痛みにわけも分からず喘いだ。痛みは一瞬で遠のき、次に押し寄せたのは体の末端から痺れるような甘い疼きだった。


「きゃあっ……や……や…あ…」


 一体、何が起きているのかと考える前に官能的な痺れが脳内を麻痺させる。全身を何かが這っているような撫でまわされているような感じたことのない奇妙な感覚にもどかしさを覚える。ぼうっと頭が霞がかったようになって、抵抗することすらできない。


「だ、だ……め…え…っ」


 ごくり、と嚥下する音がやけに大きく聞こえる。その音は自分の首筋に顔を埋めて離れようとしない宍戸倫子から聞こえた。


「う、嘘……な、何を……ま、さか……」


 問いに対する返答はない。だが、宍戸倫子から聞こえるその音こそが答えだった。


「嫌…だ、だめ……んんっ」


 抵抗しようにも力が入らない。力を入れようとすればするほど、強烈な快感が手足の自由を奪う。もう立っていられない。身体が崩れ落ちるのと同時に宍戸倫子がそれを支えた。


「ほら、もう少しよ」


 顔を上げた彼女の唇は真っ赤に濡れていた。


「あ…あ……こ、殺さないで……」


 先程まであれほど表情を崩さなかった少女が、目に涙をためて、頬をピンク色に染め上げながら命乞いをする姿に宍戸倫子の劣情が激しく掻き立てられた。


「ふふ。そういう顔もできるんじゃない。でも、私にあんなことを言って、これだけで済むと思ったら大間違いよ」


 再び、宍戸倫子が前園葵の首筋に顔を埋めた。


「う、んっ……」


 強弱をつけて舌先が動く。時折、きつく首筋が吸われた。その快感に身悶える。


「あ、も、…もうっ私……っ」


 押し寄せる快感の波の向こうから何かとてつもなく大きなものがやってくる予感がした。


「い、いやぁっ……や、やめて…っ」


 身をよじらそうとするも、宍戸倫子がしっかりと体を押さえていて離してくれない。次第に強くなる快感が全てを押し流していく。堪えきれない、と思った瞬間、意識が弾けた。


「んんっ……あ……あ……や、ああっ!」


 前園葵は真っ白にぼやけていく視界の中で、一瞬、宍戸倫子が真っ赤な唇を舌なめずりし、微笑んでいるように見えた。





 吸血を終え、渇きを満たした宍戸倫子は崩れ落ちた少女を目の前にして、言葉にならぬ感情に片手で自らの口を押えた。今まで何百回と少女の生き血をすすってきたにも関わらず、これほど甘美な血を口にするのは生まれて初めてのことだった。


 そして、感情が高ぶっていたとはいえ、注意深く嗅げば分かるこの独特な芳香に気が付かなった自分の愚かさに頬を引きつらせた。


「これが、相性ってやつね…」


 髪を掻き上げ、天を仰いだ彼女の足元で、すっかり体力を使い果たした前園葵が静かな寝息をたてていた。



◇◇◇



「っていうのが、私と倫子お姉様の出会い……」


 他人の吸血エピソードを聞いて、星野有栖は自分からせがんだにも関わらず、白い肌を耳まで真っ赤にした。


「な、なるほど……」


 それ以外に何と言ったらよいか、言葉が出てこない。

 事の発端は、ニエのお姉様達はそれぞれどういう理由でお姉様と出会ったのかと素朴な疑問を口に出したのがきっかけだった。


「ニエとかパートナーになるのはまだ先の話だけれど、私と倫子お姉様はこんな感じで強引に……気が付いたらこんな関係になっていたのよね……」


 前園葵は短く嘆息して、宙を見つめた。その表情は相変わらず何を考えているのか定かではない、無気力そうなものだった。


 その姿を見つめながら、星野有栖は、倫子お姉様ならではのエピソードに想像をめぐらし、葵お姉様をまんまと手中に収めた倫子お姉様の強引さに改めて感心したのだった。


ここで唐突に番外編をお送りします。

最新話更新までゆるりとお楽しみ下さい。

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