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女神騒動  作者: 銀月


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13/14

E.そして、それから

「これで終わりましたね」

 はあ、と安堵の息を吐いてソーニャが言うと、エルナは「あの魔物、どこ行っちゃったの?」と目をぱちくりと瞬いた。

「魔物じゃなくて、魔神なんです。だから、もといた世界に無理やり帰ってもらいました」

「……魔法って、すごいのね」

「エルナちゃんも疲れたでしょう? 帰ったら、リヒトをもふもふしてちょっと休みましょう」

 その会話を聞きながら、身体中ぼろぼろになったうえ魔力も底をつくまで使い果たしたヴィルムは気が抜けたのか、そのままぱたりと倒れてしまった。

「あ、ヴィルム!」

「あれれ、限界だったみたいですね」

 ソーニャは空を旋回するウルスを呼ぶと、ヴィルムを連れて先に帰ってくれと頼んだ。


「俺、もうちょっと鍛えよう……」

ソーニャたちがアーガインとアリアを連れて戻ってくると、まだ頭がふらふらすると寝転がったままヴィルムが呟いていた。怪我は治してもらったけれど、とにかく身体が怠いという。

「魔法使いがこんなに体力必要とか、知らなかった」

 考えてみたらアーガインだってアリアを抱えて運ぶくらいの力があったじゃないかと、ヴィルムは悔しさを感じる。

「体力はあって損はないね」

 あははと笑うウルスに、ヴィルムはなんとなく憮然となった。

「ウルスさん竜じゃないですか。竜なら鍛える必要ないんじゃないですか?」

「え、そんなことないよ? しばらく飛んでないと、翼だって鈍るから」

「そうなんですか? でも竜が飛んでるなんて話、聞いたことなかったですよ」

「そりゃ、幻術で目立たないようにしてるしね。竜が飛んでたら、君ら大騒ぎするでしょ」

「……まあ、確かに」

「それなら、私が鍛え方を教えようか」

 レナトゥスが寝転がるヴィルムを覗き込んでそう言うと、ヴィルムは少しだけげんなりとした顔になった。

「……騎士の鍛錬についていける気がしないんですけど」

「大丈夫、毎日続ければ慣れるから」

 ヴィルムはさらにげんなりとした顔になって、「いや、それは……」とごろりと横を向いた。


「さて、じゃあ町まで送りましょう。もう外も真っ暗ですけど、ウルスとわたしが付いていけば、獣は寄ってきませんから。

 あ、アリアちゃんとアーガインくんはお留守番ですよ。明日反省会しますからね」

 反省会? とレナトゥスが呟くと、「ちょっとやんちゃしちゃいましたから」とソーニャが笑顔で頷いた。

「反省できる子ですから大丈夫です。もうおイタはしませんよ」

「……御使い殿がそう仰るのでしたら」

 レナトゥスは少し首を傾げてから頷いた。


 魔法の灯を頼りに森を抜け、町の灯が見えてくる距離になると、門の外には大きな篝火が焚かれ、沢山の松明が動き回っていた。向こうもすぐに魔法の灯に気づき、「戻ってきたぞ」と声が上がる。

「騎士レナトゥス! “巫女”ど……そ、それ、いや、その方は!?」

 先頭を歩くレナトゥスを見て太陽と正義の神の教会の騎士団長と大司教が前に進み出ると、すぐにその後ろにいる竜に気づき……絶句した。

「大司教猊下、団長、紹介いたします。太陽と正義の神の御使いであるウルス殿と、大地と豊穣の女神の御使いであるソーニャ殿です。この尊き方々のご助力により悪しき魔神は祓われ、この地より災いを打ち消すことができました」

 跪き、仰々しく述べられた口上に、大司教と騎士団長は「御使い殿」と呟いてぽかんとする。

 ソーニャとウルスは顔を見合わせてくすくすと笑い、膝を曲げて軽く礼を取った。

「レナトゥスくんもがんばってくれたんですよ。ウルスと一緒に魔神をばっさばっさと斬ってくれました」

「それは、あなたに賜った剣のおかげです」

「あ、魔神が来ちゃったのは事故ですけど、もう事故は起こらないようにしましたから、大丈夫です」

「事故?」

 訝しむように眉を顰める騎士団長ににこにこと頷く。

「はい、事故なんです。あと、(リヒト)もかわいがってくれてありがとうございます。今度またもふもふしに行きますね」

 にっこりと笑ってソーニャが引綱を差し出すと、大司教はまだ呆然としたままそれを受け取った。

「それじゃ、わたしたちはこれで帰りますね。お祭り楽しみにしてますよ」

 ぺこりとお辞儀をすると、呆気にとられたひとびとを尻目に、ソーニャはさっさとウルスの背に跨り飛び去った。呆然とするひとびとに手を振りながら。

 その夜から、女神の御使い様がこの節目の祭に期待しているらしいと、俄然準備に熱が入ったのは当然の成り行きだったろう。


 魔神が出現した、という事実は王都まで届いた後だったため、すぐに調査団がやってきた。銀槍騎士団の討伐小隊と魔術師団の合同調査隊だ……といっても、騒ぎは既に収まっているので聞き取り調査だけという話だったが。

 パメラとヴィルムのところにも、小隊長と師団の魔法使いだという妖精がやってきた。

「神の御使いと名乗った魔法使いに、できれば話をお聞きしたいのですよ」

 妖精の魔法使いは、だから何とか繋ぎを取れないかとパメラに尋ねた。

「……聞くことはできるけど、向こうが了承するかはわからないよ」

「ええ、それで構いません。お願いします。

 それともうひとつ。師団長がよろしくと言ってました」

「……ああ、お元気のようだね」

「ええ、おかげさまで。苦労は多いようですが」

 その魔法使いとパメラの会話に、小隊長である騎士が、だから俺とヤレット殿が派遣されたのか、と納得していた。

「ばあちゃん、魔術師団の師団長と知り合いなのかよ」

 声を潜ませて尋ねると、パメラはちらりとヴィルム一瞥した。

「ここでは師匠とお呼びって言ってるだろ。……若い頃、王都に勉強で出てる時に少しね。なんなら、お前も行ってみるかい?」

「いいですね。私も最近弟子を取ったのですけど、もうひとりくらいなら抱えられますよ。ヴィルムなら、弟子ではなく助手待遇でもよいですね」

「はあ……」

 パメラの言葉になぜこの妖精の魔法使いが乗り気になるのだろうと考えながら、ヴィルムは曖昧に返答した。


 レナトゥスは、あの後大地と豊穣の女神教会にも所属するようになったという。たぶん、女神の御使いたるソーニャから剣を賜ったというのが効いてるのだろう。ただ、太陽神の御使いはもちろん、女神の御使いも素晴らしい方だったと、とても心酔しているというのが気になった。あと、若手騎士に押し付けられる雑用から栄誉あるものに変わったリヒトの世話係を、レナトゥスは他の騎士には譲ろうとしないらしい。リヒトの世話をしていれば、いつ女神の御使いが現れてもお迎えすることができるから、という。エルナの話では「ウルスさんがヤキモチ焼くから、リヒトを撫でにくるのはしばらく無理なんじゃないかしら」とのことではあるが。


 祭の当日は見事な青空だった。

 毎年のそれよりも多くのひとでごった返し、町の中にどれだけ詰め込まれているのかと思うくらい、道にも広場にもひとがみっちりと詰まっている。

 直前まで「どうしよう、うまく踊れるかな」と落ち着きなく繰り返していたエルナは祭の舞をそつなくこなし、「あたし、結構本番に強いタイプだったみたい」と鼻を高くしていた。

 “女神の巫女”の正装をして優雅に舞うエルナは、たしかに日頃のお転婆が鳴りを潜めて、いつもの5割増しくらいにはきれいだったんじゃないかとヴィルムは思う。

 しっかり見に来ていたウルスとソーニャもエルナのところに現れて、「エルナちゃん素敵でした! もう1度見たいくらいです!」と大騒ぎしていた。教会のひとたちも大騒ぎだった。

 アリアとアーガインは前日まで“反省会”をしていたが、今日はふたりで祭をたのしんでいるだろうとソーニャは語った。あれ以来、アリアは憑き物が落ちたように素直に大人しくなって、アーガインとよく話をしていたようだ。たぶん、あれが本来のアリアで、そうやってちゃんと話をすることでアリアも心の中のいろいろを昇華できたし、ふたりともお互いへの理解を深めることができたんだろうね、とウルスも頷く。

「だから、もうアリアちゃんが間違えることはないと思いますよ。ね、ウルス」

 そう言って、ソーニャはふんわりと笑った。


「……なあ、ばあちゃん」

 ようやく祭の大騒ぎも過ぎ去り、エルナも“女神の巫女”の役目を無事果たし終えた。完全に今までの日常を取り戻し、落ち着いたところで、ふとヴィルムが口を開く。

 ちなみに、祭までだったはずのエルナの朝夕の送迎は、なぜかずっと続いたままになっている。もういいだろうとヴィルムが言うと、だめ、よくないとエルナが膨れるのだ。

「なんだい」

「ひとつ気になったんだけどさ、“森の魔法使い”って、うちの家系で代々魔法の素養がある人間が継いでるんじゃなかったの?」

 小さい頃にそう聞いていたことを思い出して、じゃあなんで明らかに人間じゃない森に住む彼らが“森の魔法使い”なのかと不思議に感じたのだ。

「──ヴィルム、お前、うちの家系に時々出てくる、お前みたいな黒髪と琥珀の目をなんだと思っているの」

 パメラがいたずらっぽく笑うと、「は?」とヴィルムが書物に落としたままだった目をあげた。

「お前の色は、たまにある先祖返り……いや、そこまでは返ってないだろうけど、血が濃く出たんだってことなの、忘れたのかい?」

「え、ばあちゃん、それ……?」

 黒髪、琥珀の目、先祖返り。

 それで頭に浮かぶのはもちろんあの森のふたりだ。

 ……いきなりそんなことを聞かされたって困る、とヴィルムは真剣に頭を抱えたのだった。

 そんなわけ、あるか。


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