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工場のアイヒマン

作者: 浅賀ソルト

どこからかやってきたヒョロヒョロの大学出が工場にやってきて生産ラインをいじり始めた。うちの工場は最近は携帯の部品を作るロボットの部品を作るという分かりやすい景気の波に乗っていて、残業代がいくらでも出て、作れば作るほど儲かる時期だった。こんな時期にラインの変更などして一時的にでも停滞したくない。そのあとに生産量が上がるならそれはそれで結構なことだが、俺にはそんな風には見えなかった。

自分だけではない。みんな、口々にあいつは何も分かってないと言った。年下のアホだ。聞いてるフリだけして無視しよう。

といけば話は簡単なのだが、実際にはそのアホの命令の方がライン長や工場長より上だった。社長は何を考えて連れてきたのかと思ったが、どうやら取引先から派遣されてきたらしい。みんなの色々な意見は飲み会だけの泡となり、形と実行力のある命令はそいつのものになった。

で、半信半疑のおバカな労働者の上に生産革命が発生したか? しなかった。色々おかしかった。

なぜ担当を変えるか。作業の順番を変えるか。もっともらしく説明をするのだが、それがよいとは思えなかった。中には悪くなると予想できるのもあった。

俺は下っ端なので直接意見はしなかったが、廃棄が三つになったら捨てに行けと言われて隣の藪崎さんは本当ですかと何度も確認した。年下のそいつに向かって敬語でだ。廃棄処理は時間を食うし、そのあとの清掃も大変だ。そうしたらその廃棄作業のルールも変えるという。廃棄作業はもう完璧ですよ。これをいじってもいいことありません。

いいからやれ。

藪崎さんは命令に従った。言われた通りにやったんだから、それで工数が増えたらお前のせいだぞってことだ。

慣れても効率は上がらなかった。自分もみんなも言われた通りにやった上で、そこから自分のベストを尽していたが、それでも頭打ちなのは段々明白になった。

そいつは唐突に工場から去っていった。ノルマがこなせなくなって取引は減った。その上で俺たちは余計に疲れた。それらの責任を一切そいつは取らなかった。

結局なんだったんだろうと思う。命令通りにやって、俺たちの責任とは無関係なところで俺たちが損をした。完全に無視をすべきだったのか? 相手の提案を論破して、それでは効率が上がらないことを証明すべきだったのか? 全然分からない。ただ、ほんとうにただ損をしただけだった。


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