知性暴走
「前回の戦闘で確信した、あの程度なら全機出す必要は無い」
会議室のホワイトボードに数字と記号を延々と書き連ねていく。ここまでで8行、円で囲んで一次元と表記
「もうすぐ4機目も入ってくる、全機出すのはここ一番の時だけにして後はローテーション制にしよう」
「2機一組って事かな?」
「円盤作って掃除当番みたいにずらしてくかきっちりスケジュール組むか……面倒だから円盤でいいか」
今後の話を続けるアルフと陸、それを無視して9行目を書き終え、下の端まで到達してしまったので右へ移る
「せ…先生、フェイ先生」
「ん」
「その公式は、私が学ぶべきものなのでせうか?」
「義務教育でやる必要はない」
「あ、そっすか……」
ミドリの沈黙を確認して記号の羅列に戻り、そうしたら廊下でリフトアームの動作音が聞こえてきた、誰か近付いてくる
「それで、次の作戦内容としては?」
「前回見つけたコンテナは内惑星方向に向かっていった、今捜索用の軽空母と偵察機を取り寄せてる所だ、明日にはそいつと一緒に金星へ向かう」
「あのクソみたいな気圧のとこ行くんすかー……」
「ミドリ、お前は授業に集中しろ」
「いやだってあれ……」
「あー?…なんじゃこりゃあ」
ガラリと扉が開いた
「お……」
そこには少女が1人、感情のわからない顔で静止していた。茶色い長髪はポニーテールにされ頂点が150センチ足らず、白の薄いカーディガンに黒のインナーを合わせ、下は短パン。少女は室内を一通り眺めたのち、ホワイトボードの公式に視線を固定
「シュレディンガー」
「うん」
その公式を解読した少女に宇宙語か何かだと思っていた3人がガタリと机を鳴らす。扉を開けた所から2歩全身して会議室に入室、綺麗なフォームで会釈した
「第1ポートに向かいたいのですが道がわからなくなってしまいまして」
第1ポートならヘリオスフィアが繋留されている場所だ、この場の全員が知っている、ミドリが首を傾げているのは少女の顔に見覚えがないからだと信じている。傾いたその首をアルフが元に戻している間に少女は最寄りの席まで移動して腰掛け
「これが終わったら戻るのでしょう?なら待っています」
「いや、行きたいなら道教えるぞ」
「お構いなく、自分が致命的な方向音痴である事は自覚しています」
迷うような距離ではないと思うのだが
「あー…このタイミングで来るって事は追加のパイロットだよな?」
「それは箱を開けてみるまでわからないのではないでしょうか」
「HA?」
「いえ、シュレディンガーだったので」
その何を考えてるかわからない少女と若干の混乱状態にあるアルフが会話を始めたのを見て、式の続きを書こうと反転
「フェイ、今書くべきは中学生レベルの連立方程式だ」
「つまらぬ」
「教師なんてそんなもんだぞ」
まだ半分程度あるのだが仕方ない、続きを諦めホワイトボードを綺麗にする
「でだ、名前は聞いてるんだよ、4号機のパイロットは確か」
3x+2y=13
6xー8y=2
つまらん
「リコリス」
「何故知っているのです」
「そりゃ航空隊指揮してんのは俺なんだからパイロットの情報くらいは」
「もしや私に好意が?」
「名前知ってただけでなんでそうなる」
「であればそうですね、顔は悪くないので付き合ってあげてもいいのですが」
「聞けよ人の話!!」
30秒待ってミドリのノートを覗き込む
x=y
どう救えばいいのだろう
「まずどっちかを消す」
「消す……」
「消しゴムは使わない」
どうも一次方程式からやる必要があるようだ
「航空隊指揮官?ストーカーではなく?」
「なんでお前みたいなガキンチョのストーキングしなきゃならねーんだよ!いいか俺の趣味は艦長ほどじゃないが太く、細く、また太くでそれに見合う身長を持ちそしてできればイメージカラーは緑の……!」
「…………」
「は……」
「わかりました、認めましょう。これからよろしくお願いします、変態長」
頭を抱えて黙ってしまった
「それでこちらはどのような状況でしょう」
茶髪ポニーがノートを覗き込む。だがその凄惨な紙面を2秒見つめて背を向けいやいやと手を振った
座り直そうとする少女の裾をつまんで引き止め
「助けて…」
「今まで数多の不治の病が医師達の手で不治ではなくなってきました、しかし彼らすべてがサジを投げた病気、それが"バカ"なのです」
「知識は十分に与えてる、定義的に言うならミドリは"アホ"」
「だとしても、この致命的な病状に対する特効薬は……」
「無いから四則演算からここまで最速で到達する方法を……」
「もうやめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
ミドリが泣き出した
シュレディンガー方程式
量子力学における状態の時間経過を求める為の15行以上に渡る式の羅列。現代日本での生活においてこれ以上の認識は必要ないので知恵熱に苦しみたくなければ不用意にウィキペディアとか見ない事
シュレディンガーの猫
青酸カリと一緒に箱に詰め込んだ猫は死んでいるか否かという仮定に対し、猫は半分死んでいるが半分生きているというわけのわからない解答を出す量子力学の確率的解釈を批判した思考実験、同義語として『シュレディンガーのぱんつ』がある