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教育

「はい続いて火星だ、平均公転半径2億2794万kmで太陽系第4惑星、通称レッドプラネット。直径6792km、質量6.4×10の23乗kg。1日は24.6時間と地球に近いが、1年経つのに687日かかる。大気成分は二酸化炭素95.3%、窒素2.7%、アルゴン1.6%、酸素0.1%、その他一酸化炭素水蒸気ネオンクリプトンキセノンオゾン、だが気圧は地球の0.75%だ、そのために温暖化レベルMAXにも関わらず平均気温は−43℃」



目が覚めたらアルフが惑星のスペックをだらだらと並べていた



「火星の地表成分は主に玄武岩と安山岩、赤く見えるのは大量の酸化鉄が原因、つまり錆びてるんだよ。惑星一面が荒野って事になってるが、至る所に氷や水が存在してるし、統合政府が作った地表コロニー内では地下水が湧いてる。もし火星の地下にあるすべての永久凍土を溶かす事ができれば地表の半分くらいは海になるだろう」


完全に開く事を拒否する両目をこすって頭を振る。隣では眠る事を許されないミドリが辟易した表情をしつつどうせ見返しもしないノートをミミズがのたくったような文字で書いていた。この扱いの違いについて説明は不要であろう


「それから衛星がふたつある、フォボスとダイモスだ。どちらも飛んできた小惑星を重力で捕獲しただけの石ころだから説明すべき点は無いな」


「すんませーん、ウロボロス到着しましたけどどこに置いとけばー?」


「おう、第1格納庫のフレスベルクの左隣に頼む」


衛星軌道プラットフォーム"カナリア"の会議室に入ってきた少年がアルフに質問しすぐ退出する。それを気に留める事なくホワイトボードに火星の地図を貼り付けた


「人類はオリンポス山の頂上からマリネリス海峡の底までくまなく探索したが、結果として火星人は見つからなかった、その他の微生物等の捜索については戦争のために進行が止まっている。どのみち、火星には磁気圏もオゾン層も無いから地球型生物は存在できない、いたとしても地下7.5m以降からだそうだ。それでも絶望的じゃないぞ、微生物の生息には十分な環境だし、酸素さえ供給できればアスパラガス程度なら十分栽培できる土壌がある」


「微生物見つけてどうすんすかぁー…」


「どんなもんにしろ生きて存在できるならテラフォーミングする余地があるんだよ、な?」


「……私エンケラドゥス派…」


「フェイさんコアっすねー……」


また会議室のドアが開く、さっきと同じ少年


「兵装の類も第1格納庫に?」


「いや、雑多なもんは第3格納庫に置いてくれ、第1第2は整備士が駆けずり回るからな」


「うーぃ」


それだけ聞いてまた出て行く。さっきから何を積み込もうとしているのか、思い出そうとしたが眠気が圧勝した


「あんなメカニックいたっけ…?」


「ほれ集中しろ次は気候だ。地球と同じで自転軸が傾いてるから季節がちゃんとある、冬季には大気全体の二酸化炭素のうち25%が凍りついて極部地方にドライアイスの塊ができる。それだけならまだいいが問題なのはこれが溶ける時だ、固体からいきなり気体になるからな、400km/h相当の風が吹く。参考値として2005年のハリケーン・カトリーナが280km/h」


げんなりした顔でミドリはノートを取り続ける、これをノート本来の目的通り使用するならばエニグマ暗号機が必要であろう、もはや何語で書いてあるかすら判別できない


「砂嵐もすごい、火星全土を巻き込む砂嵐が3ヶ月続く。終息した後でも巻き上がった塵は2ヶ月間空中を浮遊するから、実質5ヶ月もの間通信機器などに障害が発生する。くもってる様子は地球からでも観測できるぞ」


眠気がひどい、立ち上がる、伸びる、伸びる


「搬入終わりましたがー、予定通り訓練準備しますよー」


「わかった。…少し早いがまぁいいだろ、ミドリ、相手してやれ」


「いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


死に体から一気に復活、両手を上げて伸びるこちらと同じポーズをして、桃髪ジャージ女は間も無く会議室から飛び出していった。アルフ溜息、地図をしまう


「ああそうだ、そこの君」


「はい?」


丸めた地図で肩を叩きつつ少年を呼び止めた。目を覚まして改めて見ると黒の短髪で童顔、作業服など着ておらず白のシャツと黒のカーゴパンツ。シャツは文字入りで、背中にでかでかと『産業廃棄物』と書かれている


「パイロットももう来てるはずなんだが見なかったか?陸って名前の男なんだが」


「ああ、それ俺ですわ」


「なんだそうか君だったかなるほどそれならそうと言ってくれれば良」




ガッ




「なにモブキャラみたいな登場の仕方してんだよ元主人公…!?」


「え、いや、そんなこと言われても」

















「では遅ればせながら。セフィロト計画3号機、レイセオン社Fー42ウロボロスを操縦してます一条陸です。前2機をあらゆる状況下で支援しろってんで一応なんでもできるけど、強いて言えば中距離射撃戦がやりやすいかなぁ」


授業終了ののち模擬戦5回、そのすべてでフレスベルクをフルボッコに処した少年はそう自己紹介した。戦闘スタイルとしては極めてオーソドックスに中口径弾によるミドリよりも2、3歩引いた距離からの射撃戦を主体とし、さらに遠距離となれば背負い式のライフル砲で応戦、しかし近距離戦闘でも別段困る訳ではないという、いわゆるオールラウンダー。5戦すべて見ていたが、気持ち悪いくらいにスマートな勝ち方であった


機体の方はランドグリーズを洗練させたような基本スペック、ただしもともと装甲の厚くないベース機体の肉を限界まで削いで他にキャパシティを回したガリガリボディであるため防御力は紙以下であろう。濃いめの青と黒のツートンカラーで塗装されたウロボロスは、攻撃的な印象こそ薄れているものの別の意味で相手を恐怖させる。関節位置や胴体形状が人型とは言い難いのだ


「そう落ち込むな、相手が悪かったんだ」


「あんたそれフェイの時も言いやがりましたよねぇ……」


横になって宙に浮かぶミドリはふて寝チックに艦橋中を漂っていた、新入りに叩きのめされればそうもなるが船員にとっては迷惑この上ない。一応言っておくとミドリは正規の手順と訓練を踏み軍内で座学を受ける事を条件に義務教育をすっ飛ばした純然たるエリートである、別段彼女が下手くそという訳ではない


「こいつはレイセオンが民間から徴用したテストパイロット上がりだ、つまりウロボロス以外に乗った事がない。一応選抜テストはやったんだがまったくの無駄だった、あれを動かす事のみに関しては天才と言っていい」


「天才か。そうは言うが航空長、君も現役当時は天災とか言われていなかったか?」


「そんな昔の事は忘れたね」


艦長ルークの問いに数百年前流行ったフレーズでアルフが返答、漂ってきたミドリをキャッチする


「残る1人だがシャトルの故障で足止め、機体も最終調整に手間取ってる。よってその間にもうひと仕事やる事になった、艦長」


「アステロイドベルトにてゲリラ狩りをする」


「以上、30分後出発だ」


ガタ!とアリスが座席から崩れ落ちた以外は問題無く全員が動き出す。ミドリと陸は格納庫へ、アルフは艦橋下段にあるCICへ


「フェイ、どうした?」


それには続かず艦橋に留まり


不満をひとつ


「私も模擬戦やりたかった」

エンケラドゥス


コスモナイトの採取地でありゆきかぜ墜落地点でありツバクカンサルマ発祥の地。直径500kmほどの土星第2衛星で、60個ちょっとある土星ファミリーのうち6番目に大きい。表面は氷と水で覆われておりテラフォーミング候補には掠りもしていない




ハリケーン・カトリーナ(2005)


累計死者1836名、被害総額1兆円から3兆円、北米大陸の右下あたりで発生しフロリダ、ルイジアナ、ミシシッピを襲撃、ニューオ-リンズ市の8割を水没させた




セフィロト計画


ルインドライブ搭載アサルトギア開発計画、地球圏に残った10企業に各1機ずつ"実戦でのテスト運用可能な"試作機製作を要求したことから。完成済みはロッキードマーティン、ミグ、レイセオン、ユーロファイターの4機のみで、三菱が計画放棄、富士重工業、中国航空及びイスラエルエアロスペースインダストリーは開発難航中、ウェストランドエアクラフト及びフェアチャイルドドルニエが倒産による開発中止となっている





ロシア航空機製作会社『MiG』

Mig-1.55

フレスベルク


セフィロト計画2号機、ファルクラムからの流れを組む近接戦闘機。固定翼戦闘機の戦闘技術をできる限り流用できるよう(パイロットが転向しやすいよう)設計されており、4機完成時で最も量産化に近い機体となっている。コンセプトとしては近接戦闘全般を重視していて、そのため操作に対する機体の応答速度が非常に高い(ハンドル切ったらすぐ曲がる)




そんな昔の事


昨日は何してたの?

そんな昔の事は忘れたね

明日はどうするの?

そんな先の事はわからないよ


君の瞳に、乾杯

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