利用
『こちらは銀河解放戦線第12師団だ!上空の戦艦、どこの所属だ!?』
繋いだ瞬間聞こえてきたのはそれだった
『……30機ちょっとで師団を名乗るのはおかしいと思う』
『アリス、ツッコむ所が違うぞ』
入れ違いで統合軍艦隊の防空範囲に侵入したそいつらは一線級水準には到底達していない旧式機体を、こちらとやりあってもタメ張れる程度の機動で突っ込ませていく。かなりの練度に達しているのは間違いないだろうが、ヘリオスフィアを味方と思ってしまったのは考えが甘すぎる
『去年と比べて組織的行動がかなり強化されてる、やっぱり三菱が参加したっていう噂は……』
『冷静に観察してる場合じゃないだろ。ミドリ、120ミリをぶっぱなせ、味方じゃないとわからせるんだ』
『待て航空長、余計な事を閃いた』
『いいよ閃かなくて』
『アリス、こちらの声が届くようにしろ。それからミサイルランチャーを対艦ミサイルに変更』
弾幕の間を縫いつつ地上発進したアサルトギアと交戦を開始、派手なドンパチが始まった。無策に飛び込んだ訳ではないらしい、統合軍側は味方が多すぎるために動きが見るからにぎこちない
『第12師団、こちら突撃艦ヘリオスフィア、これより支援する』
『了解した、だが所属は……』
『通信を切れ。ヘリオスフィアは降下する、2番を地上施設に照準』
何をしたいのかはだいたいわかった。姿勢変更、再び落下する準備
「アルフ、次の指示を」
『仕方ねえな……2人とも、アサルトギアと交戦しろ、ただしゲリラ連中は無視』
「了解、ランドグリーズは対AG戦闘に移る」
15秒かけて得た高度を5秒で水の泡にする。戦闘開始時より大幅に薄くなった防空網を軽く振り切って、ランドグリーズはアサルトギアの群れに突撃する。黒い機影のSu127シュラーヴァリクが敵、それ以外は無視の対象
『つまりどういう事だってばよ?』
『侵攻を中断なんて生ぬるい事言わないでここで全滅させちゃおうぜって事だよ』
まず飛びかかってきた1機目を振り上げた一刀で両断、そのまま上段に構えてナントカ戦線と取っ組みあっていた2機目に叩き込む。液体燃料に火が付いて爆発した
『2番照準、地上のアサルトギア発進点。撃てぇ!』
2階からの目薬を必中させる精度があると言ってもたかが356mm、しかも単装、城攻めするには炸薬量が足らなすぎる。最低限に格納庫付近を爆砕して、ヘリオスフィアは火星周回軌道を離れ落下を開始、カタパルト部分の少し後方から補助翼を展開した。当然対空砲火を受け始めるが、その豆鉄砲がヘリオスフィアの装甲に届く事はない
『粒子防壁を前面に限定、副砲1番2番、主砲3番の発砲権を各砲塔に委託。ミサイルランチャー、コルセスカの準備は?』
『装填済みです』
1、2、3機と連続でぶった斬ってそのまま空母の甲板に着地、止まらずまた飛び上がり、置き土産にブレードを振って艦橋のパージを手伝う。切り口から内部の酸素を噴き出しつつ制御を失って艦首を落としたそれを背に一度上昇した、残った敵機を数えると片手で数えられるほど
『やりすぎだお前ら、お客さん唖然としてるだろ』
『ではどうします?地面にキスでもします?』
『そこまでしなくていいからもう後は見てろ』
待機命令と受け取って安全圏でのホバリングに移行する。ヘリオスフィアは半壊状態の統合軍艦隊と同じ高度まで降下し手当たり次第に敵を蹴り散らかしていた、稼働しているのは両側面の203mm連装砲と後部3番主砲、それから艦橋根本に埋め込まれたミサイルランチャー、前部主砲も使用はできるがそれをやるとルインフィールドが吹っ飛んでしまう。外周の一角を守っていた駆逐艦群をすべて一撃必殺で破壊して内部に侵入、ああなるともう2分はもたないだろう
『で、そっちは自重しないんですかー?』
『自重していたら日が暮れる』
中心の空母も対艦ミサイルが突き刺さって爆沈、主力を失った護衛艦艇は蜘蛛の子を散らすように逃げ始めるも、そのすべてが回頭すら完了できず撃沈に追い込まれた。僅かに残ったアサルトギアは戦線の連中が追い回し、まもなく統合軍は戦域から駆逐される
『艦隊、消滅しました』
『単艦で艦隊壊滅だとよ、誰が信じるこんな話』
『信じさせたいのなら次はカメラを回しておく事だな、さて』
ヘリオスフィアのミサイルランチャーは4連装2基、それとは別にVLSミサイルコンテナがある。12基1セットが10箇所、実に120発のミサイルがあらゆる所から顔を覗かせ
『こちら第12師団、協力に感謝する。おかげて予想以上の戦果を上げられた、礼を言いたいので着艦の許可を……』
『アリス、ハミングバード全基発射』
『あい』
一瞬、ヘリオスフィアが白煙に覆い尽くされた
『えげつねぇーなおい…』
『人聞きの悪い事を言わないで貰いたいな、支援するとは言ったが味方だとは一言も言っていないぞ』
時間にして10秒前後、イージスシステムも真っ青の同時攻撃能力で搭載していたミサイルを全放出する一斉発射はランドグリーズとフレスベルク以外のアサルトギアを漏れなく捉え切り、爆発が収まった頃には何も残らなかった
統合軍解放軍ともに全滅
『帰投するぞ、フェイ、ミドリ、帰ってこい』
アメリカ ロッキード・マーティン社
F-38Aランドグリーズ
量産することを前提としないルインドライブを主推進力とするフラグシップモデル開発計画の1号機、何もかも手探り状態からの開発だったためドライブユニット配置位置などを中心に不都合が残っており、扱いにくさを含めた戦闘能力は全4機中最低、ただしこれはブースターユニット非搭載での話。実戦運用においては圧倒的な速度性能を生かした一撃離脱による対艦戦闘に最も適しているという結論が出ているものの、パイロットが重火器の搭載を拒否するため突撃格闘戦用としてチューニングされている。機体特性的に見ると対アサルトギア能力は決して高いとは言えないものの、姉妹機フレスベルクとの模擬戦では現在勝率100%