親父との思い出
初めてボスに出会った時、あたしもボスもまだ10代で、2人ともまだ若かった。
ボスはまだボスの地位にはいなくて、次期ボス候補として100名近い部下を持つ優秀な幹部ってだけだった。
それに対して、あたしは当時のボスの愛妾の連れ子という立場だった。
本当の親が誰かも知らず、母親が病死した後はそれに代わって当時のボスの閨に通う女になっていた。その当時のボスのことをあたしは親父と呼んでいて、親父のプレイはいつもけっこうハードだった。時間も場所も関係なく、何人かの幹部連中にはコトの最中を見られたりもしていた。今のボスはその内の一人でもあった。
「おい、小僧。
今日はおめーが中の見張りやれ」
ボスの命令は絶対のマフィアの掟に、呼ばれて来た若き頃のボスは逆らいもせず、部屋のドアの前に立ってあたしが親父に犯されるのを見つめていた。何の感情も示さず突っ立っていた彼に、あたしは時折あかんべーをしたり中指を立てて挑発したりした。それに気付いた親父が面白がって彼に交ざるように声をかけたこともあったが、彼は黙って首を振った。それでも、コトが済んだ後のあたしの身体を温かなタオルで拭いてくれたりはした。
あたしがその後も親父から逃げなかったのは、その時のあたしには他に行き場もなくて、親父はあたしに床のテクニックを仕込むとともにハニー・トラップを利用した暗殺技術も教え込んでくれていたからだ。20をこえてからは、あたしは親父の命令であちこちの要人暗殺に関わった。あたしの持つあらゆる技術と口の悪さはすべて親父譲りだった。
そんな親父が病に倒れた後、あたしの立場はすっかり不安定になってしまった。
素性の知れない、殺しの技術に長けたボスの愛妾。
あるところでは、あたしを手にした奴が次のボスだなんて噂も飛び交った。
それまであたしのことを白い目で見てきた幹部連中は、手のひらを返したようにこぞって下手に出るようになり、あたしはそれに辟易しながらも病床につく親父の元に足しげく通っていた。
親父の病気は発見が遅く、もう余命幾ばくもないと医者から宣告されていて、親父は療養のためとセキュリティの効いた本部屋敷から郊外の質素な作りの別荘に居を移した。
組織内は次期ボスの話題で持ちきりになり、親父も後継を選ぶようなことを口にしだしていた。
内乱は、起こるべくして起こったようなものだった。
親父が後継を明言する前に黙らせてしまおうという欲深い連中が、組織の一部で密やかに動いていた。親父はもしかしたら、そのことに気付いていたのかもしれなかった。
ある日、届けられた昼食を食べた時、直後に吐き出したことがあった。それからはあたしが親父の部屋で食材を買ってきて調理するように頼まれた。
その数日後、新月の真夜中を、狙ったかのように親父の部屋を賊が襲った。
その時あたしは親父の隣の部屋にいて、手元のベレッタですぐさま応戦した。けど敵の狙いは的確で、真っすぐ親父の部屋へと切り込んでいった。誰かが手引きしたのは間違いなかった。
「親父、無事かっ!??」
隣に直通のドアを蹴破って入ると、ベッドシーツを赤く染めた親父が銃を持ってまだ生きていた。
「よぉ、リア。
ちょいとはえーけど、オレは先におめーの母親んとこ行ってるわ。
おめーは部屋戻って、もちっとねんねしてな」
それが親父の最後の言葉だった。
親父は賊に殺されるのではなく、自分の手で生を終えることを選んだ。
「親父っ!!!!!」
あたしが駆け寄る暇もなく、親父は自分で自分の脳天を撃って死んだ。
賊はそれを見届けると波を引くように引き返した。
直後、ボスが援軍を連れて別荘へ駆けつけて、逃げるところだった賊どもを締め上げ、仕事の依頼主を割り出していた。あっけなく吐かれた名前は長年親父を支えてきた大物幹部のことで、ボスはその日のうちにその幹部を海に沈めた。
それだけの仕事を一気にこなした後、ボスは真っすぐ親父の元に戻ってきた。
親父の死体にしがみついて泣くあたしを叱咤するように引き剥がして、血に濡れた親父の顔と、あたしの顔を綺麗に拭って、それから強く抱きしめた。